第256話 アルテア・4
サークが突然泣き出した時には驚いたが、やがて泣き止み、今は恥ずかしそうにサハナの後ろに隠れている。
「お兄様。無様に泣いて恥ずかしいのは分かりますが、まずは言うことがあるでしょう?」
結構容赦ない物言いですよね?
「……悪かった……」
「それだけですか? 仕方ありませんね。一応先ほど名乗っていたようですが、これは兄のサークです。不本意ですが、先ほど説明したように私のお兄様です」
その紹介の仕方に当のサークがまた涙目になっている。
「経緯を簡単に説明すると、お兄様はヒカリ様に惚れたようです。困ったものです。それで……」
サハナのその言い方にサーク君は顔を真っ赤にしてますよ。
もう彼の心のHPは無きに等しいかもしれない。
「ああ、俺はソラ。そしてこっちはクリス」
一瞬クリスの方をサハナが見たから紹介しておく。
「ソラ様にクリス様ですか。それで皆さまは外から来たそうですが、何か目的があって来たのですよね?」
「……奴隷商に知り合いがいるかを確認しに来た。それと月桂樹の実を手に入れるために来たんだが、今は難しいとギルドの人からは聞かされている」
「そうでしたか」
「ああ、ただ自分たちで行けるようなら一度挑戦したいとは思って、今は許可待ちの状態だ」
サハナの質問に、不思議とスラスラと答えている自分がいた。
「そうだったのですね。とりあえず今日はお兄様が色々とご迷惑をお掛けしてすいませんでした。後日お詫びをしに来ますので、今日はこの辺で失礼しますね。い・い・で・す・ね、お兄様」
サハナが振り返って背後にいるサークに確認している。ブルブルとサークが震えているのは気のせいではないと思う。
やがて二人は去り、詳しい話を四人から聞いた。
ヒカリさん、結構容赦なく痛めつけてません?
どうもサークの威圧的な態度に、奴隷主、まぁ俺のことを色々言われて怒ったヒカリが、叩きのめしたそうだ。
三人を見るとやはり苦笑しているだけだ。
「あの時のヒカリちゃんは止められなかった」
とはルリカの言葉だ。
「それで今日はどうする?」
「十分体を動かしたから帰ってもいいかな? ちょっと色々疲れたし」
ルリカの言葉にセラとミアも頷いている。疲れたのは身体的にではなく、精神的なものが大きいようだが。
一応お昼を食べる前までは普通に模擬戦をしたようで、十分だという。
「それでソラたちの方は、街を見て来てどうでした?」
サークの話題で少し不機嫌な感じになってきたヒカリに気を使ってか、ミアが話題を変える為なのか聞いてきた。
「街は静かだったかな。子供と老人は見掛けたけど、働き盛りの年齢の人はあまり見掛けなかったかな」
「何処かに働きに行っていると思うんですけど」
クリスの言葉に、姿を消した住人の行った先を思い浮かべる。
考えられる場所は一つしかない。
というか、まだ行っていないのはそこしかないが、住人の殆どの人を迎え入れるほど、門の向こう側にあると思われるお城が大きいとは思えない。
というか城の近くに月桂樹の木が生えているのか? けど近くにミノタウロスが徘徊しているとか言ってたし、どうなってるんだ?
消えた住人たちがいつ戻って来るかは分からないが、それこそここで待っていたら、あの門から次々と出て来る人の姿を見ることが出来るかもしれない。本当にあの門の向こう側に働きに行っているなら、だけど。
「とりあえず宿に戻るか」
四人に洗浄魔法をかけて歩き出す。
途中ギルドの受付の人が困ったようにこちらを見てきたが、とくに何か言ってくることはなかった。
宿に戻ると各々が思い思いに過ごした。
といってもやることがないため、今はヒカリちゃん人形とミア人形を見ながら談笑している。
ミアだけはせっせとさらなる人形を作っている。
生命付与した人形は、単純な命令を与えるとそれを実行してくれる。複雑な命令はまだ難しいというか、長時間動かすことが出来ない。
これだと動かすことは出来るが、単純に「防衛」と「見張り」とか命令して動いてくれるかは謎だ。
ちなみに現在ヒカリちゃん人形にミア人形が追い掛けられている。
命令としてはミア人形にはヒカリちゃん人形から逃げる。ヒカリちゃん人形にミア人形を捕まえると命令している。
同一の魔力を流しながら命令したから、距離は詰まらないけどミア人形をヒカリちゃん人形がどうにか上手いこと誘い込んで捕まえようとしている。気がする。
「これって学習能力とかあるのかな?」
「どうなんだろうね。ただミア人形に比べると、ヒカリちゃん人形の方が動きは良い気がするかな」
確かにルリカの指摘通りな気がする。
違いは単純に動かした時間しかないから、稼働時間が関係しているのか?
ただそれだと人形がなんらかの意思を持って動いていることになるが、そんなことがありえるのだろうか?
最終的に夕食の呼び出しがあるまでミア人形は逃げ切り、ヒカリがヒカリちゃん人形を慰めていた。
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