第254話 複製
生命付与の実験をしていたら時間が経っていたようで、夕食の準備が出来たと声が掛かった。
部屋を出て階段を降りると、こんなにいたのかと思うほどの人の数で賑わっていて驚いた。
ただそれは夕食を食べている人たちも同様のようで、見ず知らずの俺たちの登場で少なからず騒めきが起こっていた。
「まぁ、外からの人ってのは珍しいからね。変なことをする奴がいたら言っておくれ。私がぶちのめしてやるからね!」
女将さんのその言葉に、周囲で聞いていた人たちが慄いていた。
それからは正直料理の味が分からないまま食事は終了した。盗み見てくる人が多くて、落ち着いて食事が出来なかったのが原因だ。
他の皆も……ヒカリは気にせず食事を終えたようだが、俺と同じような感じだったみたいだ。女将さんからも謝られたが、こればかりは仕方がないと思う。
これが続くようなら部屋に運ぶようなことを言ってくれたが、それはもう少し様子を見てからにすることにした。
部屋に戻ると、ミアは早速人形作りへと取り掛かるようで裁縫道具に手を伸ばしていた。
「それで、他には何か言うことというか、新しいスキルはないの?」
ルリカの一言で、ミア以外の三人の視線が注がれた。
「一応複製ってスキルを覚えた。まだ確認はしてないんだけど、魔力で武器とかの道具を作ることが出来るみたいなんだ」
「……それって凄いと思うさ」
セラの呆れ半分の言葉にルリカとクリスが何度も頷いている。
とりあえず投擲用の普通のナイフを取り出し、それを見ながら「複製」と念じる。
右手に魔力が集まり、ゆっくりとナイフが形作られていく。
完全にナイフの形になると、確かな重さを手の中に感じた。
「一応こんな感じになるらしい」
「ちょっと触ってもいい?」
ルリカに手渡すと、セラ、クリス、ヒカリの順番に確認している。
あ、ヒカリさん、刃のところを触るのは危険だよ?
とりあえずナイフは台のところに置いておいたが、五分もすると消えてなくなった。
もう一回、今度は先ほどよりも多めに魔力を籠めてナイフを複製した。
今度は先ほどよりも長く、七分ぐらいは消えずに残った。
「どうも籠める魔力量で実体として存在出来る時間が変わるようだな。大きさにもよるかもだけど」
「性能はどうなのさ?」
「うん、それは気になる」
セラの言葉にヒカリも興味を示した。
「その辺りも実験しないとなんとも言えないな。あとは自分で触ったものじゃないと、作れないみたいなんだ」
「魔法を付与したナイフとかも作れるってこと?」
「たぶん、それは可能だと思う。ただ、結構魔力を消費するみたいだ」
付与したナイフを複製したら、魔力の消費量がただのナイフよりも多いような感覚があった。
実際にルリカの質問に答えながらMPを確認すれば、やっぱり結構減っている。MP消費軽減のスキルのレベルが上がり、あとはウォーキングのレベルが上がってMPの総量が上がれば多少はましになるだろうけど、後者は必要歩数が一気に増えたからなかなか上がらないかもしれないんだよな。
「やれることは凄いけど。実戦で使う前に色々と確認した方が良さそうね」
「ああ、強度とかの確認もしたいからな。ここの冒険者ギルドにも鍛練所はあるだろうけど、あまり人目に付くところでは確認したくないからな」
「そうなるとここを出た後になりそうね」
ルリカの言葉に、ふとこれからのことを考える。
月桂樹に関しては回答待ちだが一応目途が付いた。
ただエリスに関しては、結局手掛かりがない状態だ。ドレットの手紙を信じるなら、王国にその手掛かりがあるかもしれないが……。
「とりあえず今回覚えたスキルは以上かな」
「そっか。なら今日は順番にお風呂入って寝るだけね」
ということで順番にお風呂に入りましたとも。
生活魔法の洗浄で汚れは落とせるけど、温かいお湯に浸かっているだけで不思議と疲れが癒される感じがするんだよな。思わずため息が出るぐらいには、身に染みる。元の世界では感じられなかったが、有難味が強いからだろうか?
「それで明日はどうしよっか?」
寝る準備万全というところでルリカが聞いてきた。
確かに連絡待ちの間はやることがない。というか、ヒカリの大好きな露店巡りもないからな。
「少し街中を歩いてみようかな。せっかく来た街だし、面白い発見があるとは思えないけど気分転換になると思うし」
焦っても仕方ないしな。
それに折角来た新しい街だ。ブラブラして歩くだけでも十分楽しめるかもしれない。ちょっと他とは違った雰囲気でもあるし。
「それじゃ明日は二手に別れようか? 私とセラとミアは冒険者ギルドの方で鍛練をするつもり。クリスはソラのお目付け役として、ヒカリちゃんはどうする?」
「……ミア姉と一緒に体を動かす」
「いいの?」
意外な答えにルリカが再度尋ねたが、ヒカリは頷くだけだった。
屋台がないからかな?
「それじゃミアもそろそろ寝た方がいいよ。ヒカリちゃんがちょっとやる気のようだから、明日はハードな一日になりそうだしね」
言われたミアも作業をきりの良いところで終わらせると、ベッドに横になった。
ランプの灯りが消えれば、急に静かになる。
耳を澄ませば息遣いが聞こえてきそうな程だ。早い者だともう寝たのか、小さな寝息も聞こえてきた。
俺も体の力を抜いてベッドに身を預けると、やがて眠りの中に意識が落ちていった。
ただ並列思考さんは今日もスキルの熟練度を上げるために頑張ってくれている。
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