第253話 生命付与

 宿まで戻って来たが、夕食までまだ時間があるということで一度部屋に戻ることにした。

 部屋に戻ると二人が出迎えてくれて、心なしかヒカリがソワソワしているように感じる。

 少し気になったが、先にこちらの話をすることにした。

 と言っても、また許可待ちという報告と、奴隷商館に行ったことぐらいしか話すことはない。


「それで二人は何をしてたんだ?」


 尋ねるとヒカリがトコトコと近付いてきて、何かを目の前に差し出してきた。

 えっとこれは……人形?

 ヒカリを見ると凄く満足した表情を浮かべている。


「この人形はどうしたんだ?」

「ミア姉に作ってもらった」


 まじまじと見ると、少し不揃いなところもあるがしっかり作られている。


「本当にミアが作ったのか?」

「はい、その……裁縫は少し得意だから」


 驚いて尋ねてたら、ミアは恥ずかしそうにその理由を話してきた。

 元々孤児用に古着などの裁縫をすることが多かったのもあるが、失敗して針を刺すこともあったようで、そこは傷を負うたびに自分でヒールをして治療出来たため、結構色々なものに挑戦しているうちに上達したらしい。


「そ、そうか。頑張ったんだな」


 確かにヒールで治療出来るとはいえ、それでも針で指を刺せば痛いだろうに。

 なんとなく一心不乱に針仕事をするミアが想像出来てしまった。

 聖女だなんだと言われていたが、根は頑張り屋なところがあるからな。

 まぁ、それはそれでいいとして、


「何故人形なんだ?」


 と、疑問に思ったことをヒカリに尋ねてみた。


「うん、主が欲しそうに見てたから」


 その一言に、ミアは少し困ったような表情を浮かべ、他の三人からはどういうことかしら? 的な視線を向けられてます。

 ヒカリを見たらいたって真剣にな表情だし。

 えっ、俺が欲しそうにしていた? 人形を?

 考えてみるが……と、ふと思い出した。マルテでヒカリと一緒に町を歩いていた時のことを。確かに人形に興味を示したことがあった。

 ただあれは一瞬のことで、それなのにヒカリは覚えていたということか。

 ヒカリから人形を受け取り床に……置くとヒカリが悲しむかもしれないからベッドに寝かせる。


「とりあえず人形に興味を持った理由なんだが、新しいスキルを試すとどうなるかと思ってな」


 人形に手をかざし唱える。


「生命付与!」


 ——————

 —————

 ————

 ——何も起こらないな。

 そして皆の視線がさらに痛い。


「えっと、何をしたかったんですか?」


 クリスが代表して尋ねてくれた。

 沈黙が少し重苦しかったし、正直助かった。


「生命付与というスキルを覚えたんだ。それで人形とかに付与したら動くかな~とか思ってたんだけど……」


 人形に視線を向けるが無反応。ピクリとも動きません。

 レベルが低いからかな?


「主、この子動くの?」

「そのはずだったんだけどな」

「それで何でまたそんなスキルを取ろうと思ったの?」


 ルリカの質問にきっぱりと答える。


「土人形とか作ってこのスキルで動かせるようになったら、旅の時見張りとかで使えるかもとか思ったんだ!」


 勢い込んで答えたら呆れた表情をされたんですけど!

 凄く画期的だと思ったのに。まぁ、結果は見ての通りだから失敗に終わったんですけどね。


「ソラ、魔力となる核がないから駄目なんじゃないでしょうか?」


 クリスの言葉にハッとなった。

 確かに先ほど生命付与を使ったが、確かに魔力は人形の方に飛んで行った感覚があったが、それが定着しないで霧散した感じを受けた。

 ならその魔力を留めるものがあれば、発動するという可能性はある。

 レベルが上がれば核なしでも動くかもしれないが、今は無理だし。

 と、すると……。

 俺はアイテムボックスから魔石を一つ取り出すとそれを、とりあえずネックレスにして人形の首に掛けた。本当は埋め込むのが一番かもしれないが、これはあくまでテストだしな。


「生命付与!」


 再び魔法を発動。今度は魔力察知を使って魔力の流れに注意する。

 放たれた魔力が人形を包み、やがて魔石に吸い込まれていく。

 そしてしばらくすると人形が身を起こそうと動き出す。

 上半身を曲げて、曲げて……ドサリと力尽きた。


「えっと、これは?」


 ルリカに聞かれたが俺も分からない。

 それに人形が動いたという事実をしっかりこの目で確認した。


「あ、あの。もしかしてだけど、人形は綿を詰めて作ってるから、それで動けないんじゃないかな?」


 ミアの一言に人形を注視する。

 確かに動こうと必死になってるが、作られた素材の所為か、それともレベルが足りないからか上手くいっていないように見える。

 やがて魔法が切れたのか、人形は動かなくなった。

 それどころか、首に掛けられた魔石の色が透明に変化している。

 まるで以前ミアたちに魔力をコントロールするための練習用として渡した魔石のようだ。


「ま、まあ一応の効果は確認出来た訳だし、使えそうなスキルだと思う」

「そうかもしれません。ただ実戦で使えるかどうかは分かりませんよ?」


 クリスの言葉はごもっともだ。

 それにまだスキル自体のレベルも低いから、スキルのレベルを上げながら検証していけばいい。


「とりあえず、人形の中に詰めてる素材を変えられるかな?」


 綿でなくて、もう少し硬い素材のもので作れるか提案した。

 骨のような体を支えられる軸のようなものがあればいけるような気もするが、逆に重くなって動けなくなるかな?

 ここが街の外だったら、魔法で土人形を作って試すのに無理そうだし。

 ミアからはいくつかの素材と、人形に埋め込む用の魔石を頼まれたため、それをアイテムボックスから取り出すと手渡した。

 試したいスキルが多いのに、MPばかり消費するためなかなか熟練度が上げられないのが悩みの種だな。




 





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