第252話 アルテア・2
「それじゃ行ってくるな」
食後街を回ろうかという話になったが、ヒカリとミアは宿に残るということだったため、ルリカたち三人とまずは冒険者ギルドに行くことにした。
宿から階段道を下りて行き、正面に構える門の右側の向かいにある大きな建物が冒険者ギルドだ。道を挟んだ反対側にも大きな建物があるが、これは兵士たちの詰所になるらしい。
「誰もいませんね」
クリスの言葉通り、ギルド職員と思わしき人以外は誰もいない。建物が大きいだけに、尚更閑散とした雰囲気が強い。
普段なら見掛ける壁に貼られている依頼の数も、心なしか少ないような気がする。
……言い換えよう。殆どない。
「見ない顔だね。外のもんかい?」
何処のギルドでも受付には綺麗なお姉さんを見掛けたが、ここでは貫禄のある女性と男性の二人しかいない。
「はい、初めてです。それでいくつか質問がありますが良いですか?」
ルリカも少し押され気味だ。いつものフランクな口調が崩れていておかしくなっている。
「何だい聞きたいことって?」
「月桂樹の実に関することですが、何処に行けば手に入りますか?」
「……それを聞いてどうするだい?」
「……知り合いの治療に必要なんです。この街でなら入手出来るって聞いてて」
鋭い眼光が向けられた。
何か値踏みされてるのか?
受付の女性だけでなく、男性も興味深そうにこちらを見ている。
「確かにここでなら手に入ったんだけどね。今は時期が悪い」
「時期ですか?」
「ああ、月桂樹の木が生えている周辺で凶悪な魔物の目撃があってね。今は採取出来ない状態らしいんだよ」
ということは、その魔物がどうにかなれば入手出来るということか?
その言葉に希望の光が見えたが、それを遮るように受付の女性、カリスが言った。
「だけど生憎と、その魔物を倒せる冒険者がいないんだよ。ここには」
カリスの説明では、ここの冒険者のレベルはそこまで高くないと言う。
理由を聞いたら困ったような感じを受けたが、それでも教えてくれた。
「ここの冒険者は、基本的に決められた魔物しか狩らないんだよ。ここはそういう場所だからね」
「なら今まではどうしてたんですか?」
「……手に負えないものは王宮の方で狩れる人の手配をしてたんだけどね。今は理由は分からないんだけど、その討伐も止まってるんだよ」
カリスも王宮の対応には首を傾げている。
が、何か深い考えがあるのだろうと、今は静かにその動向を見守っているらしい。
その一つに、魔物も時期が来ればいなくなるとのことだから、今無理に手を出す必要もないと思っているとも言っていた。
「その魔物ってのは何なの?」
「目撃した者の話だと、ミノタウロスだってことだ」
ミノタウロスか。確か何処かのダンジョンでも下層で出る魔物だという話だから強いに違いない。
下手な上位種よりも強いって話だし、確かに下手に手を出すと被害が拡大するのかもしれない。
「けどさ、時間が経てばいなくなるってどういうことなのさ?」
セラの質問に、確かにその通りだと思った。
魔物が移動するということか? 渡り鳥みたいな習性がミノタウロスにもあるということなのだろうか? いや、そもそも月桂樹の木はこの街の何処に生えているんだ?
「ちょっとこれ以上は私の口からは言えないね。そうね……とりあえずそこの正面の門番の人に用件を言うといい」
どういうことかと四人で顔を見合わせたが、カリスがそういうならこれ以上ここで情報を入手するのは難しいだろう。
「分かりました。それじゃ向こうで話を聞いてみます」
冒険者ギルドを後にしたら、門へと足を向けた。
改めて目の前に立って思うのは、その大きさ。扉の幅は普通の馬車が5台並んでも通れそうな程あるが、それよりも注目すべき点はその造りだ。
表面しか分からないが、鉄でしっかり扉が造られている。
魔力もしっかり感じられるし、魔法を何発撃ってもビクともしないような感じを受ける。
「見ない顔だな。何か用か?」
阿保みたいに門を見上げていたら、正面の兵士から声が掛かった。
「あ、ああ。凄く頑丈そうに見えて驚いていたところだ」
「……それで、何か用があったんじゃないのか?」
「冒険者ギルドで月桂樹の木に関する話を聞いたら、ここに行くように言われたんだ」
俺のその言葉に、二人いた門番が何事か小声で話している。
「外から来たようだが、許可証はあるのか?」
「一応これを渡されたが……」
マルテで受け取った許可証を差し出すと、一人が兵士の詰所に向かって走って行った。
程なくして一人の兵士を伴い戻って来ると、今度はその兵士に連れられて兵士の詰所へと移動することになった。
なんでも兵士長らしいが、長自ら動くとかフットワークが軽いな。
そしてそこの兵士長に開口一番言われたのは次の言葉だった。
「これはアルテアの滞在許可証だね。これだと門の向こうへは行けないね」
「……ということは、月桂樹の木は門の向こう側にあるということか?」
その言葉に兵士長の顔色が少し変わった。
分かりやすい人だ。
「ああ、だが入ることは許されない。それを破ればお前たちは罪人になる」
「ならどうすれば入ることが出来る?」
「……上の許可が必要だが……」
「別に俺たちとしては月桂樹の実が手に入ればそれでいいんだ。とりあえずそれを問い合わせてもらってもいいか?」
とりあえず確認を取ってくれるということで、現在宿泊している宿の名前を伝えて詰め所を後にした。
その後奴隷商館に寄ってエルフの確認をしたが、エルド共和国の戦争奴隷の何人かの確認は出来たが、エルフの、エリスの確認は出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます