第251話 アルテア・1
船の航行はあっという間に終わった。
多分一時間と乗っていなかっただろう。出発までの待機時間が乗船時間の殆どを占めているほどだ。
魔法で推進力を出していたのか、驚くほど静かで速く到着した。
荷物を積んだ荷馬車が積み荷を下ろしている時間の方がはるかに長かったのは言うまでもない。
しかもその積み荷、見ていると食料品が多くて、その量の多さから島の何処で生産されているのかと不思議に思うぐらいだった。
事実アルテアに降り立って、その疑問はさらに強くなった。
船の甲板からも街をある程度見渡せたが、農作業をしているような敷地は何一つない。少なくとも見える範囲でだけど。
島は壁に覆われていて、水門を潜れば港に着く。
マルテからでも見えていた巨木があり、まるで傘のように枝葉が広がっている。
島の中はすり鉢状になっていて、壁伝いに街並みが広がっている。
正面には大きな門が見え、話通りならその向こうに竜神が住まう城があるようだ。
またその城は湖に囲まれているらしく、城に行くには正面に見える大門を通らないといけないらしい。
「それじゃお客人。こっちだ」
俺たちを案内してくれるのは、この船の船長であるトルコ。船長の仕事とは思えないが、それだけ外から来る者が珍しいようで、街行く人が珍しそうに見てくる。
どうもすれ違う人は人よりも、獣人とかの亜人が多いようだ。
不安そうに見てくる者も中にはいるようで、少し警戒しているようにも見える。
気の所為でなければ、子供が多いように感じる。
「ああ、悪く思わないでくれ。中には奴隷だった者もいるんだよ」
トルコの話では、帝国から連れて来られた奴隷もいるため、人を怖がる者もいるらしい。特に戦争のあとは、それが多かったそうだ。
ここである程度傷を癒して、それから元の国に戻るか、それともこの国で生活をするかを決めてもらっているそうだ。
「女将いるか!」
「何だい騒々しいね。って、トルコさんかい」
「ああ、外からの客人を連れて来た。後は任せていいか?」
「あいよ。それで六人かい……部屋を分けるかい? それとも一部屋にするかい?」
俺たちの方をジロジロ見て聞いてきた。
一瞬、ヒカリとミアの方を見たのも見逃さない。
「一部屋でお願いします」
俺が何か言う前に、ルリカに決められてしまった。
女将に案内された部屋はベッドが人数分しっかりあり、部屋も広々としている。しかもお風呂もしっかり付いている。
「高いんじゃないか?」
ちょっとその豪華さに宿泊費が心配になる。
それなりにお金は稼いでいるが、それでも贅沢をするのに抵抗がある。
「さっき確認したけどそうでもないみたいよ」
聞けば確かに安い。三食付きで一泊六人で銀貨二枚。一人頭……割り切れないと思ったがそういうものらしい。深く考えては駄目なようだ。
「けど部屋を一緒にする必要があったのか?」
俺的にはご褒美だと思うが、良いのだろうか?
特に誰も嫌がっていないからいいのか?
「……ソラは気にするだろうと思ったけど、もう少し警戒しなさい」
ルリカがため息を吐きながら説明してくれた。
壁で囲まれた孤島で、初めて来る街。何があっても良いように、固まっていた方がいいとのことだ。
「もちろんここが危ないところだとは私たちも思っていません。ですが何があるかわかりませんから」
クリスの言葉にセラも頷いている。
しっかりした理由があるなら仕方ない。
どうせ既に部屋は取っている訳だし。
「それよりこれからどうするさ?」
まだ日は高い。そもそもお昼をまだ食べていない時間だ。
食事は急なことだったが、許可証を見せたらすぐに準備をしてくれるとのことだった。有り合わせのものしかないと、申し訳なさそうに言っていたが。
そもそも何故宿泊すると朝昼晩と三食食事が付くかというと、それは宿まで歩いていた時に感じた答えだった。
そう、大通りを歩いて来たのにもかかわらず、屋台が一つもなかったのだ。
もしかしたら別の区画にあるのかもしれないが、それでも今まで訪れた町のことを考えると信じられない光景だった。
事実ヒカリなんてキョロキョロと辺りを見回していたほどだ。
後で聞いたら、やっぱりこの街には屋台がないと言う。
基本外からの客は少ないためお店を出しても仕方ないという話で、お昼はお弁当か、一部を除き家で食べるのが普通らしい。
なら宿屋の需要は? と思うところだが、基本的にお昼のお弁当と朝と夜の飲食をメインで営業しているとのことだ。
その利用者の多くが単身の冒険者や兵士の人たちで、料理を苦手とする人に需要があるらしい。
「明日のお昼はどうするんだい?」
「どうなるか予定が分からないんだよな……とりあえずお弁当にしてもらって、ここで食べても問題ないか?」
「それは構わないよ。見ての通り、昼間は空いてるからね」
そもそもアルテアに来ることは出来たが、ここでどうすれば月桂樹の実を手に入れられるかが分かっていない。
ひとまず午後は情報収集のために街を回る必要があるな。
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