第249話 奴隷解放と奴隷紋
「分かりました。では桟橋でこれを見せれば良いのですね」
朝食を終えたタイミングで現れた領主の使いから、乗船許可証を受け取った。
出港時間はお昼を過ぎたあたりだということで、遅れないように念を押された。
ただ約束の日は今日ではないので、予定通り奴隷商館に行ける。
「確かに。それでは奴隷を解放しますが、問題ありませんね」
「問題ない」
怪しげな魔法陣の上で向かい合う俺とセラ。そして奴隷商が解除の魔法を唱えると、セラの首輪が真っ二つに割れて音をたてて地面に転がった。
セラはそれを見て、首元を手で触っている。
「大丈夫か?」
「えっ」
俺の言葉に驚いたように顔を上げた。
頬を伝う涙を拭ってやり、
「涙がな」
と言うと、そこで初めて自分が泣いていることに気付いたようだった。
そこにルリカとクリスが駆け寄り抱き付いた。
三人は涙を流しながら笑っていた。
音を拾って周囲を見れば、ミアと何故か奴隷商のおっさんが泣いていた。
ヒカリは三人の様子をジッと見ていた。
「ヒカリもそれを取りたいか?」
「……ううん、これは証だから」
その答えの意味するところは、俺には分からなかった。
三人が落ち着きを取り戻したら、とりあえず解放祝いということでマルテに唯一存在する甘味処でケーキを食べて、その後は町中を目的もなくぶらついた。
町を回る間、セラがいつも以上に元気だったのが少し気になったが、やはり長年の楔から解放されたからなんだろうな。
いつもはお姉さん然とした態度が崩れ、楽しそうに笑う横顔は新鮮に映った。
「ありがとうね」
「ありがとうございます」
ルリカとクリスから礼を言われたが、二人が買い取っていたらこんな遠回りもなかったかもしれないと言ったら、呆れた顔で言われた。
「金貨五〇〇枚はかなりの大金だからね」
奴隷だった場合の買取資金はコツコツと貯めていたようだけど、合流した時点ではまだ足りなかったと言われた。
それを考えると、かなりの額でポーションが売れたことになるのか。
元々の価格は分からないが、やはり戦争やら魔王の出現やらで需要が増えていたのかもしれない。薬草採取はかなり喜ばれたから、そもそもその依頼を受ける人が少ないのかもしれない。
「それは違うわよ。ソラみたいに採取出来る人が少ないの」
「そうですね。普通一日で採る量ではないですよ。たくさん集める場合は、現地で何日か泊まるのが普通ですから」
「そうそう。だからその分出費も増えるし、稼ぎが少なくなったりするんだよね」
なるほど。そんな事情があったのか……取ったのは定番スキルだったというのもあったが、その選択に間違いはなかったということか。
鑑定万能過ぎです。
その夜再びヒカリ達の泊る部屋に集まり、相談をする。
それは盗賊討伐の時に見た色々だ。
「一つ聞きたいんだけど、奴隷紋ってのは有名なのか?」
俺の問いに、三人が首を傾げた。ヒカリは特に反応がないが、一応リチャードから話を聞いてたからな。
「ソラはそれを何処で知ったのですか?」
その言葉に唯一反応したクリスは、少し怖い顔をしていた。
「今回の盗賊討伐なんだが。襲撃してきたやつらが実は犯罪奴隷だったんだ。鑑定したから間違いないと思う。ただ奴隷の証である首輪がなくて。そしたらリチャード、騎士の一人が盗賊に施された模様を見て奴隷紋って言ってたんだよ」
「そうなのですか。そうですね、奴隷紋は今は滅多に聞かないと思います。私も実物は見たことがありません」
「なら何で知ってるんだ?」
「モリガンお婆ちゃんに教わったんです」
その言葉に、俺たち三人はルリカとセラに目を向けた。
何故目を背ける。
「ルリカちゃんはその、お勉強は嫌いでしたから」
「し、仕方ないじゃない。私だってまだ小さな子供だった頃なんだし」
ため息を吐くクリスに、ルリカが反論する。
話の流れ的に、セラが出てこないのは戦争が終わったあとの話だからかな?
「けど奴隷紋は、今まで回った国でも使っているところはありませんでした。正規のルートじゃない奴隷だとその、あるかもしれませんが」
「後ろ暗い奴隷ってことか……って、話がそれたな。それで質問なんだが、奴隷紋はその、人の人体に何か悪影響を与えたりするのか?」
「そのような話は聞いたことがありませんが……何かあったんですか?」
俺は討伐時に起こったことを順を追って説明した。
「ソラが鑑定したのなら間違いないと思いますが……きょうか? ですか」
「ああ、狂うと書く方の狂化だ」
「聞いたことがないですが、それで強くなったということですか?」
「それ以外に考えられないからな」
「うん、確かに仲間を殺した後に、急に強くなった」
俺の言葉にヒカリも頷く。
「しかも主……ソ、ソラと互角の力強さとか、かなりのもんさ」
まだ呼びにくそうだな。それだけ主様と呼ばれていた期間が、長かった証拠かもしれない。
「速度も速かった」
ヒカリの悔しそうな声に、相手の強さを改めて認識したようだ。
「……今回はたまたまだったかもしれないからな。とりあえずこんなことがあったってことの報告だ」
半魔人のことは報告するか迷ったが、今回は黙っていることにした。
狂化のことも知らなかったし、変に不安を煽ることになるかもしれない。それに実際に死んだあとは人間に戻っていたから証明する術もない。
今では俺もただの見間違いだったかも? と自信がない。
ふと、何故かこの時セリスの顔が浮かんだが、考えても仕方ないと思った。
こんな時電話があればと思ったが、通信系の魔道具は、既に作ろうとして失敗しているんだよな。
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