第245話 盗賊討伐・10

 まずすることは、EXマナポーションを飲む時間を確保すること。

 MP消費軽減を覚えても、そもそも魔法を使うためのMPがなければ意味がない。

 設置型の魔法の準備が終わると同時にナイフを投擲する。

 ゴンザはそれを避け、剣で弾くが第三射で放ったものは魔法を仕込んだナイフだ。

 タイミング良く爆破させたのに、勘が良いのか大きく後方に飛んで回避した。

 もっともこの攻撃が当たらなくてもいいと思って投げた。

 本命は後ろに飛ぶように誘導するためだ。仮に前方に移動したら設置型の魔法に巻き込まれただろう。

 ファイアーウォールが発動し、火の壁がゴンザの姿を遮る。

 これで時間を少し稼げる。

 俺はなお後退しながらEXマナポーションを取り出しそれを飲んだ。

 炎の壁で見えないが、ゴンザの動きは気配察知で分かっている。

 時間稼ぎだと看破したのか、ファイアーウォールを剣で振り払い飛び込んできた。

 そこに今度はアースウォールが発動。もちろんそれも体当たりで砕いて、構わず突っ込んでくる。

 敵ながら無茶なことをする。

 俺は魔力を流したミスリル剣を構え、迎撃にあたる。

 アースウォールで勢いがなくなったゴンザに剣を振り下ろすが、躱され、弾かれ、斬りかかられる。

 傷が増えるが、構わず対応する。

 そして剣を斬り結んだ瞬間、


「ファイアーアロー!」


 を顔目掛けて放った。

 近距離の発動にもかかわらず、体を傾けつつ首を振って躱した。

 ゴンザの顔の真横をファイアーアローが通過する。

 どんな反射神経かと思ったが、バランスを崩すことには成功した。

 そこへ一歩踏み込み、


「リカバリー」


 を唱え、続けて時空魔法


「タイムシフト」


 を発動した。

 俺の範囲内にいるゴンザの時間がゆっくりと流れ始める。

 これはゴンザの動きを遅くする効果と、リカバリーの効果時間を延ばすため。

 それでも驚くことに、狂化のレベルが下がっているにもかかわらず、時間遅行の範囲内にもかかわらず、ゴンザは抵抗して攻撃してくる。

 時間遅行の影響下なのにその速度は信じられないほど速く、的確に俺の急所を狙ってきた。

 何かを察したのか、それとも野生の勘なのか。いたぶるような攻撃でなく、無駄のない、命を刈り取ろうとする最適の攻撃。それ故速く感じたのかもしれない。

 だけど僅かだが、届かない。

 それは心構えの差だったかもしれない。

 俺は起こりうる未来に対して準備を備え、ゴンザを殺すための一撃を一手早く放っていた。

 こちらも剣を振り下ろすことなく、ただ魔力を籠めた一撃を、ゴンザの心臓目掛けてソードマスターのスキル技の一つ、ピアースを放っていた。

 剣先がゴンザの体に突き刺さり、僅かな抵抗を感じたがそのまま貫通した。

 そこは人でいえば、心臓のある場所。顔を上げれば、驚愕の表情を浮かべたゴンザがいて、目が合った。口からは血が吐き出されて、だらりと垂れていった。

 剣を引き抜けば、ゴンザの体がゆっくりと倒れていく。

 俺は横たわるそれをジッと見て確認した後、ミスリルの剣で首を刎ねた。


「終わった……」


 そこまで来て体から力が抜けそうになった。

 ただすぐにヒカリのことを思い出し駆け寄ろうとして歩いて向かった。

 走っていたらまず俺が倒れていたな。

 逸る気持ちを抑えながら、可能な限り急いで歩く。


「ヒカリ!」


 騎士たちが何か話し掛けようとしてきたが無視した。

 ヒカリの呼吸はまだ安定していない。顔色も悪い。


「ポーションを与えようとしたんだが、殆ど吐き出してしまうんだ」


 見ると口回りが赤い。血の匂いがする。

 呼び掛けると薄っすらと目を開けるが、苦しそうだ。いつも無表情の多いヒカリの顔が苦しいからか歪む。

 俺は手を添えてヒールを使おうとして止めた。

 これは先ほど試した。ならやっても無駄だ。

 治すには……外部からじゃなくて内部からの治療が必要。本来ならヒールやポーションで治せるはずだが、それをどういう訳か弾いてしまう。ヒールは効きが悪く、ポーションは飲み込めず吐き出すことで。

 ポーションを傷口に振りかけたのに、治りが悪い。

 これでも駄目なのか?

 それならば……。

 俺はフルポーションを口に含み、ポーションに魔力を流す。イメージはヒール。

 それを口移しの要領で、ゆっくりとヒカリの中に流し込む。

 ヒカリは最初口づけされて驚いたようだったが、目を閉じて体から力を抜いている。

 ゴクゴクと、喉が上下に動きポーションが体の中に流れていくのが分かる。

 だが慌てて大量に流すのは危険だから、様子を見ながらゆっくり行う。

 一回、二回と繰り返すと、だいぶ呼吸が安定してきたが顔色が悪い。

 血が足りないのか?


「ヒカリ、これを飲めるか?」


 上半身を抱えながら以前作った増血剤のポーションを飲ませる。

 すると徐々に青白かった顔に赤みが蘇っていく。

 それと同時にヒカリが薄っすらと目を開けた。安心させようとしたのか、目が合うとぎこちない笑みを浮かべた。

 俺は安堵と同時に嬉しさのあまりギュッと抱き締めた。


「主、苦しい」


 ヒカリの声に力を抜いたが、逆にヒカリから抱き付かれた。


「主、ありがとう」

「あ、ああ。良かった。本当に良かった」


 今度は力を弱めて、軽くヒカリを抱き締めた。

 腕の中に確かな温もりを感じ、今度こそ脱力した。

 周りが何事か五月蠅いが、今はただただヒカリが助かったことを感じていたいと思った。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る