第244話 盗賊討伐・9
リカルドを倒した瞬間、頭にファンファーレのような音が鳴った気がした。
何事かと思ったが、今すべきことをする。
魔力を練り、ファイアーアローを一〇本準備させた。
周囲に浮かぶ一〇本の赤い槍のようなそれは、近くにあっても熱を感じないから不思議だ。
それを並列思考を駆使して放てば、五人の盗賊に向かって飛んでいく。
三人には躱され撃ち落されたが、残りの二人に被弾した。
しかし炎に包まれながらも、なお襲い掛かるそれに近付くと、一刀の元斬り伏せていく。
「ソ、ソラ君?」
「援護と治療を!」
驚くリチャードに向けてアイテム袋を渡す。中にはポーション類が詰まっている。
「す、すまない」
リチャードは近くにいる倒れた騎士に駆けて行き、俺はその反対方向へと急ぐ。
そして問答無用で背後から袈裟斬りで命を絶った。
込み上げるものが少しあったが、倒れた盗賊の向こう側から現れた驚く騎士の顔を見てぐっと我慢した。
やはり人を殺すのは慣れないが、忌避感はそれほど感じない。不思議なことに。
その時再び戦場を切り裂くような悲鳴がした。
見れば盗賊が脳天からの一撃を受けて血肉を振り撒いていた。
それを間近で見た騎士が、思わず叫び声を上げてしまったようだ。
その騎士に対して、殺した盗賊の脇をすり抜けた男は、横薙ぎに剣を振りぬいた。
咄嗟に騎士は剣と盾を使い二重の防御をしいたが、剣は折れ、盾はひしゃげて、勢いのまま大の男が大きく吹き飛ばされた。
それを見た全ての者の時間が止まったように、シーンと場が静まり返った。
その静寂を破るように、男の、盗賊の歓喜の笑い声が響いた。
名前「ゴンザ」 職業「犯罪奴隷」 レベル「53」 種族「半魔人」 状態異常「狂化Lv2」
半狂乱に笑っているように見えるが、その瞳には理性が宿っているように見えた。
戦場を見回す姿は、冷静に戦況を窺っているようにも見える。
その男、ゴンザと目があった瞬間。迷わず剣を構え、誰もいない前方に向けて剣を振り下ろしていた。
誰もいなかったそこには、次の瞬間剣を構えたゴンザがいた。
「へえ、なかなか勘がいい」
力は互角だか素早さが半端ない。
たぶんこれ、並列思考を使っていないと対応出来なかったかもしれない。
「これに付いてくるのか!」
歓喜の声を上げるとか、こいつ戦闘狂か?
それと微妙に急所を外して攻撃してくる。
致命傷を避けて、ダメージを蓄積させていく感じの攻撃だ。ストレートに言おう、弄んでいる。相手を徐々に弱らせて、いたぶるのが目的か?
周囲には他にも盗賊の敵である騎士がいるというのに。
冗談じゃない。隙を付いてカウンターを狙ったが、見事に躱された。
激しい攻防の末一旦距離をとった。
流石に体力は無限にはないようで、ゴンザも呼吸を整えているように見える。
俺は注意しながら先ほど見た鑑定を改めて思い出す。
気になる項目は二つ。狂化がLv2になっていたのが一つ目。これはあくまで想像だが、狂化していた者を殺したからレベルが上がったのではと思っている。それ以外に考えられないとも言うが。
二つ目は半魔人。最初見た時は確かに種族は人間だった。それが突然変化した。狂化の影響か?
そこまで考えて、この情報がゴンザを倒すのに役立たないのに気付いた。
今考えるのはこいつを倒す方法だ。
ステータスを表示させて改めて自分の現状を確認する。
いっそ戦士向けの職業に変えて勝負に出るか? けどそうすると時空魔法が死に体になるか。
実際今の職業でも辛いぐらいだしな。
原因はミスリルに魔力を流して戦っているからだが。あの武器、剣もなんか禍々しくなっているんだよな。鑑定して納得したけど。
そうすると力で互角だから重力魔法をのせた重い一撃が一番効果的な気がするが、躱される未来しか見えない。
今までもソードスラッシュをのせた仕留めにいった一撃は、確実に大きく間合いをとって躱しているし。勘がいいのか戦い慣れているのか……。
その時、ふとある表示に気付いた。
今までなかったものだ。
「これは……」
と思ったその瞬間、危険を感じて横に移動して剣を振った。
金属音が鳴り響き、剣と剣の間に火花が散ったように見えた。
「おいおい、よそ見かよ! 余裕だな」
何を言っているんだ。今の攻撃少し遅かったぞ?
わざと受けさせたのか?
今度は蹴りが飛んできた。
俺はそれを足の裏で受け止めて、勢いを利用して後方に逃げた。が、それを察したゴンザが疾走して間合いを詰めて来る。
どうする? このままじゃ防戦一方だ。先ほど見たものも確認したい。
それにヒカリのことも気になる。応急処置はしたつもりだが、状態は極めて悪い。しっかり治療したいと思い、ふと一つ手が浮かんだ。
効くかどうかは分からないが試す価値はあるかもしれない。
俺は着地と同時に逆にゴンザに向けて剣を突き刺しながら突っ込んだ。
ゴンザはその剣先を剣の腹で払い、流れる俺の体に一撃を入れるため剣を振り下ろす。
それをさせまいと、さらに俺は一歩踏み込みゴンザに体を密着させる。
そして空いた手をゴンザの体に添えて唱えた。
「リカバリー!」
すると狂化のレベルが1になった。
俺はその機会を逃さないように肩でゴンザを押しやり、生まれたスペースを利用して剣を振り抜いた。
しかしゴンザは剣を盾にしてそれを防ぐと、今度はその勢いを利用して間合いから離れて行った。
着地したゴンザは、違和感を覚えたのか、少し身体を動かしている。
だが特におかしなところはないようで首を傾げている。
それもそのはず、既に狂化のレベルは2に戻っている。
俺はその隙を逃さず、先ほど見たものを確認して選択した。
すると目の前には、新たなスキルがいくつか表示された。
先ほどは目の動きで襲われたようだったから、それを悟らせないように探す。
そして見付けたのは一つのスキル。
NEW
【MP消費軽減Lv1】
効果は魔法を使用した時に、消費するMPを抑えることが出来るようだ。
これでさらに魔法を使う余裕が出来た。
ただそれには一度、MPを回復させる必要がある。
俺は投擲ナイフを構え、決着をつけるために最後の行動を起こした。
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