第242話 盗賊討伐・7
戦況は膠着状態に突入した。
盗賊が先ほどみたいに無防備に突撃しないで、組織的な動きで攻撃してきたからだ。
大きく回り込むような動きをみせて、それを防ぐために騎士も陣形を変える。
そのため限りなく円に近い形になった騎士たちに対し、盗賊たちは複数で一人を相手どるような形で攻撃を仕掛けてくる。
それでもどっしり構えた騎士たちの守備は崩れることなく、機会を狙うようにジッと耐えている。
ヒカリも守備が崩れかけると素早く投擲し、その補助に専念している。
俺も投擲ナイフで攻撃を仕掛けるが、それで隙を作ることは出来ない。
「主、前に出る!」
それを理解しているからか、ヒカリは一言呟き前に出た。
それこそ止める間もなく、あっという間に騎士の横を通り過ぎ、死角から盗賊に躍りかかった。
それには盗賊も、騎士も驚き完全な不意打ちとなった。
ヒカリは前に出て一人、二人と倒し、そのまま次の攻撃へと移ろうとして横に飛び退いた。
先ほどまでヒカリがいた場所には、投擲された手斧が深々と突き刺さった。
それを見て、考えるよりも先に体が動いた。
ヒカリの今いる位置。飛び退いた先が悪かったのか、騎士たちからかなり離れてしまっている。
このままでは囲まれる危険がある。
実際、盗賊の何人かがそのような動きを見せている。
騎士たちもそれに気付いたのか動こうとして、ここでまた予想外の出来事が起こった。
唐突に悲鳴があがった。
何事かと顔を向けると、ゆっくりと盗賊たちが倒れていく。
その背後には、血濡れた武器を持つ盗賊が立っていた。
その中の一人と目が合った瞬間、ぞくりと悪寒が走った。
直観というものがあるなら、この時感じたものがそれなのかもしれない。
怪しい光を宿した瞳をランランと輝かせ、背後から襲撃して仲間を殺した盗賊たちが突撃してきた。
俺もそれに相対して攻撃を受け止めた。
ずっしりと重く、思わず歯を食いしばった。
一回目で戦った盗賊よりもかなり力強い。一撃にしっかり力がのっていて重い。
視界の片隅に、攻撃を受けた騎士の吹き飛ぶ姿が見えた。
先ほどまでは確かに攻撃を受けて耐えていた。視界を広げて良く見れば、中には、何度となく剣を交えた盗賊の姿も確認出来た。
それなのに、力負けしている騎士が半数近くいる。
俺は力任せに押し出すと、相手の剣に向けてソードスラッシュを放った。
スキルの乗った一撃には流石に耐えられなかったようで、盗賊の手から武器が吹き飛んだ。
その隙に投擲で牽制して助けに入ろうとしたが、驚くことに投げたナイフを手で掴み、それを投げ返してきた。
とっさに躱すことに成功したが、バランスを崩したそこに盗賊が斬り掛かってきた。
片膝をついた状態で剣を受け止め、押し返すために力を籠める。
間近で見た盗賊は、目が血走り何事かぶつぶつと呟いていた。
瞬間、ふと思い出して人物鑑定を使用した。
そこに表示されたのは……。
名前「リカルド」 職業「犯罪奴隷」 レベル「40」 種族「人間」 状態異常「狂化Lv1」
レベルからしたら騎士よりも低い。
それなのに今手に感じる重みは、それこそ力特化のスキルを持っていると思うほどの圧がある。
それに気になる項目が二つある。盗賊だと思っていたからわざわざ人物鑑定をしてなかったが、今見た盗賊は、職業が犯罪奴隷になっている。
そしてもう一つの気になる項目は状態異常の狂化。
素早く他の盗賊の人物鑑定をすれば、皆職業が犯罪奴隷になっている。ただ状態異常の狂化を持っている者、持っていない者がいる。
不意に、手に感じていた圧が消えて思わず前のめりになって倒れそうになった。
見るとヒカリが横合いから攻撃を仕掛けたが、それをリカルドが飛び退いたためだった。
「主、大丈夫?」
「ああ、助かった」
今の動き。力だけじゃなく、素早さも上がっている?
「一度態勢を立て直す。退け!」
リチャードの声が戦場に響き、広がっていた陣形の修正が行われた。
しかしそれを許すほど相手も甘くない。
逃がさないように飛び掛かり、行動を阻害している。
ただその中にも差がある。その差は相手が状態異常の狂化を持っているかいないかの差だ。
俺は狂化持ちに対してナイフを投擲、さらにはファイアーアローを放った。
投擲は相手に当てるつもりで、魔法は手前で上昇して外れるようにして放った。
結果は騎士からの引き剥がすことに成功した。
「た、助かった……」
合流するとセットが片膝を付いて荒くなった呼吸を整えようとしている。
「これを飲め」
と、とりあえず消耗している騎士たちにフルポーションを渡す。
「攻撃魔法も使えたんだな」
「…………」
「……援護してくれて助かった。それよりもこれからはどうする?」
それは戦うかどうかということか?
俺はゆっくりと近付いてくる盗賊を見て考える。
俺たちが逃げた場合、結果は明らかだ。数が減ったのに、戦力は逆に上がっている。
たぶん撤退すると言っても、この騎士たちは誰も文句は言わないだろう。
「……戦うよ」
心配するように見て来るヒカリの視線を感じるが、ここであれらをどうにかしないと危険だと思った。
俺は刃こぼれした剣を仕舞うと、ミスリルの剣を取り出し構えた。
魔力を流してなかったとはいえ、頑丈に造った剣が損傷するのは異常だ。
盗賊の残り人数は一八人。そのうち狂化の付いた者は……六人いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます