第241話 盗賊討伐・6
まず動いたのは盗賊たちだった。
既に手には近接用の武器を持ち、森の中から飛び出してきた。
人数差はそれほどないのに、積極的に迎撃してくるということはそれだけ腕に自信があるということか?
それに対して騎士たちは盾を構え、相手の動きに合わせて微妙に位置を移動している。
「うらぁ!」
盗賊が叫び声と共に襲い掛かって来た。
基本正面の者に対して武器を振るっているが、馬車の御者と護衛で合流出来ていない者の数を差し引くと、まだ向こうの方が多い。
俺とヒカリは別れてそれぞれ両端に移動して、複数攻撃を受けている騎士の援護をする。
騎士の背後から突然飛び出した俺に面食らった盗賊は、攻撃を弾かれて足をもつれさせた。
俺はその機を逃さず、素早くソードスラッシュを放つと、相手の手から武器……剣を弾き飛ばし、剣の腹の部分で強打して昏倒させた。
次の相手を探そうと顔を上げた時には、既に戦闘が終わっていた。
「終わったか?」
と遅れてやってきたリチャードは、周囲を見回して状況を確認すると、徐に鞘から抜いた剣を振り下ろした。
「なっ!」
剣を振り下ろした先は、今俺が昏倒させたばかりの盗賊。剣は盗賊の体を斬り裂き、その傷は明らかに致命傷と分かるほど深いものだった。
俺がリチャードを見ると、厳しい表情のままただ淡々と告げてきた。
「生け捕れるならその方がいいかもしれない。けどそれは時と場合による。今、この時は殺すのが正解だ。少なくとも……相手の数がもっと減るまでは」
するどい眼光に抗議の言葉が出なかった。
確かに昏倒させていただけでは戦っている間に戦線に復帰する場合だってありえる。拘束したとしても、解かれることだってある。
それを考えたら殺すのが確実だ。実際、まだ盗賊との差は三倍近くある。
ただ……。
「主、大丈夫?」
迷っていたらヒカリに声を掛けられた。
手を握られ、心配そうに見上げている。
俺は目をきつく瞑り、大きく息を吸って吐いてを繰り返して気を静める。
そして頭の中で想像する。実際に盗賊を殺す場面を……。
息が詰まった。
一度だけ人を殺した経験があるが、それでも抵抗がある。
あの時は……必要に迫られて、ミアのためにやった。
違うな。ミアのためと言い聞かせて、言い訳をして、引き金を引いた。
では今はどうか?
討伐対象になるわけだから、この盗賊たちは悪さをしてきたのだろう。そこにどんな理由があっても、その事実は変わらないはずだ。
悪人という点では、殺しに来ている相手に対して、手加減する必要はない。
だけど……。
目を開けると、ヒカリの視線とぶつかった。
不安そうに揺れている。
手加減してヒカリが……と、そこまで考えて、嫌悪を覚えた。
また、俺は、人のせいにして、自分のすることから逃げようとしている、と。
覚悟を決めろと向かって来る盗賊を見る。
今、この時あの集団に向かって魔法を撃ちこめば、それだけで脅威を退けることが出来る。
頭ではそう理解している。
たったそれだけ。それだけのことが、今の俺には出来ない。
「ソラ君。無理そうなら前に出る必要はない。だから襲われた時だけ、自分の身を守ることだけを考えるといい。嬢ちゃんもそれでいいな?」
「ん、分かった」
リチャードの指示のもと、騎士たちが陣形を組んだ。
その背中を、ただ俺は見ていることしか出来なかった。
激突は実にシンプルにはじまった。
互いに遠距離攻撃の手がないのか、正面からぶつかった。
盗賊が後続を待つことなく、力任せに突っ込んで来た時は正直驚いた。数の優位を捨てるようなものだが、指示をする者がいなかったからなのかもしれない。
二回戦目も騎士の圧勝に終わり、素早く移動を開始した。
盗賊の死体を避けて、足場の確保出来る場所を戦場にするためのようだ。
俺たちはその背後を守るように、その後に付いて行く。
騎士が場所の移動を完了した時、笛の音が鳴った。
するとこちらに走って向かって来ていた盗賊の速度が弱まり、武器を構えながらゆっくり歩いて来る。
そしてそれに合わせるように森の中を走っていた盗賊が出て来て、合流を果たした。
強襲すれば片方の集団を排除することが出来たかもしれないが、リチャードはそれを指示しなかった。
実際俺が指揮をしていても、躊躇したかもしれない。
それほど今近付いてきている盗賊たちは、先ほどの奴らとは雰囲気が違った。
ヒカリもそれを感じ取ったのか、短剣を腰に差すと、代わりに投擲用のナイフを手に握っている。
「撤退はしない……か」
現在盗賊たちの戦力は半数近く減っている。
確かに先ほどまでの奴らと比べると、強いのかもしれない。
それでも騎士の強さを遠目ではあるが目の当たりにしているはず。
俺的には撤退して、それこそ森の中に誘い込むなり逃走なりしてもおかしくないと思ったが、どうやら正面切って戦うようだ。
それともこの世界の盗賊は、こんな感じなのだろうか?
「主、くる」
ヒカリの言葉通り、三度目の激突が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます