第240話 盗賊討伐・5

 気配察知に引っ掛かる反応があった。

 馬車の車輪が壊れたのを装い二日経ったその時、MAPに映りこむ反応があった。

 思わず顔を上げると、ヒカリもそちらの方を向いている。


「どうした嬢ちゃん?」


 それを見たリチャードがヒカリに問い掛けた。


「ん、盗賊が来た」


 視線を落とし、ヒカリがこちらにやってきた。


「そうか……」


 とだけリチャードは答え、他の騎士たちに伝えに行った。

 ヒカリの言動を信じるリチャードに疑問を感じたが、実際問題盗賊らしき反応があったから口を挟むことはしない。数は……六〇人ぐらい? およそこちらの四倍の戦力じゃないか。

 徐々にこちらに近付いて来ているが、森の境界線のところで大半が止まり、一部が離脱して森の中を駆けている。迂回してこちらに近付くのか?


「やっぱ襲って来るとしたら夜かな?」

「ん、たぶんそう」


 確かに見晴らしがいいから、今森の中で飛び出て来てもすぐに発見出来る。

 相手の方が人数が多いから、それを見て逃げられると思ったのか?

 それとも迂回した部隊の結果を見て、襲うかどうかを検討するのか?

 と、思っていたら、さらに一部が離脱して、先ほどの組とは反対方向に移動している。動きとしては挟み撃ち?

 逃げる方向を塞ぐような動きかもしれない。

 ただこれで相手の数の優位がなくなった。

 わざわざそんなことをするなんて、何か狙いがあるのだろうか?


「ちょっと話してくる」


 いつになくヒカリがアクティブなのだが、何かあったのだろうか?


「ちょっといいか」


 それから程なくしてリチャードに呼ばれて、これからの行動について話すことになった。


「たぶん盗賊だと思う。今分かっている動きとして……」


 リチャードが地面に、俺たちがいる現在位置と、それを中心に三点の印を書き込んでいる。


「奴らは回り込んで街道を塞ぐつもりだ。逃げ道を抑えてから襲撃すると予想される。まだ日が高いが、夜まで待ってから仕掛けてくるかもしれない」

「では、どうするんですか?」


 セットが代表して尋ねた。


「……少し間を置いてから移動を開始する。むしろ相手が数を分けてくれた訳だからな。クロワ方向に馬車を走らせて、各個撃破を狙う」

「逃げられませんか?」

「その可能性もあるが、出来れば日が落ちる前に戦いたい」


 リチャードの言葉に、数人の騎士が頷いている。

 夜戦の経験もあるが、それはあくまである程度灯りの確保された場所でみたいだ。完全に闇の落ちた夜だと、暗視の魔道具があっても辛いかもしれないという結論らしい。

 特に黒塗りの矢を放たれると、特に慣れない者には視認するのが難しいと言う。

 盾があっても、構えるのが間に合わなければ意味がないしな。

 馬車の中には、騎士が装備する盾がしっかり用意されている。もちろん騎士だと分からないように、シンプルなデザインの物だが。

 精鋭を揃えると言っていたが、中にはセットのように経験の浅い者もいるからだ。


「とりあえず車輪を修理する様を装い、ある程度時間が経ったら完了したとして馬車で移動を開始する。釣られて出てきたらそれでよし、出て来なかったら一先ず敵らしき者がいるところで降りて打って出る」

「どの辺りにいるんですか?」

「森の中を移動している。だから街道に近いところまで移動すると思う」


 突然のヒカリの言葉に、リチャードと数人を除く騎士が驚いていたが、リチャードがそれを肯定したから信じたようだ。


「嬢ちゃん、移動するタイミングは任せていいか?」

「うん、任せる」


 そうして作戦が静かに開始された。



 突然の馬車の発進に盗賊の動きが一瞬鈍ったような気がした。

 しかしすぐに我に返ったのか、慌ただしい動きを見せた。これはMAP上での動きを見て思ったこと。

 進行方向にいる盗賊は森の中で固まり密集している。

 後方の迂回して近付いて来ていた盗賊は森から飛び出し突進してくる。最早姿を隠そうともしない。

 森の中で待機していた一団は、一部が飛び出し、残りは森の中を移動する道を選んだようだ。

 今まで騎士たちから逃げおおせていた盗賊とは思えないほどの杜撰さのように思えたが、事態はもう動き出している。

 街道を疾走する馬車はスピードを落とさず進む。

 そこに森から姿を現した盗賊は、二人一組で大きなクロスボウのようなものを抱えている。


「あれはヤバイ。盾を用意しろ!」


 リチャードは叫び声を上げ、指示を出す。

 あの太い鏃。盾なんかで防ぐことが出来るのか?

 疑問に思ったが、騎士の指示に従い、俺たちは騎士の後ろに回る。

 射出された矢は馬車の近くに落ちて地面を破壊する。

 こちらから攻撃をしようにも、まだ距離が離れていて届かない。

 魔法は木の陰になっていて狙いが定まらない。火魔法なら森もろとも燃やせば倒せるかもしれないが、延焼が怖い。

 その事を伝えたら、やっぱり「やめてくれ」と言われた。

 注意して見ていると、そのうちの一本がこちらに当る軌道で飛来してくる。

 当たる⁉ と思ったが、不思議と矢は弾かれた。


「驚いたか? 隊長のスキルだよ」


 セットは驚く俺に自慢げに言ってくる。

 結界術のような防御系のスキルか? どちらかと言うと、コボルトガードの使っていた魔法の盾のような効果に近いかもしれない。


「新人どもは後方に移動しろ! 飛び降りるぞ」


 御者台で馬車の操作をしている者を守るために一人残し、残りは馬車の後ろ側に移動する。

 そして森の、盗賊が隠れていると思われる場所の近くに来ると馬車の速度を落とし、次々と飛び降りていく。

 俺とヒカリもそれに倣って、全員が飛び降りた後に続いた。

 ステータスのお陰か、それともかなり速度が落ちていたからかバランスを崩すことなく着地出来た。

 俺は盾を構えて警戒する騎士たちに遅れて、腰から剣を引き抜き、森から姿を現した盗賊に対して剣を構えた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る