第238話 盗賊討伐・4
「美味いな……」
リチャードの言葉に、セット他、他の騎士たちも頷く。もちろんヒカリも。
今日はパンとクリームシチューだ。ヒカリがパンをシチューに浸して食べるのを見て、騎士たちもそれに倣っている。
お腹が膨れたところで雑談になった。
「なるほどな。人探しで旅をしているのか」
「俺たちはその手伝いだけどな」
「けどエルフか……悪いが聞いたことがないな。ただ保護された奴隷は一度アルテアに送られる。事情がある者はそのままアルテアで過ごす場合があるから、もしかしたら探し人がいる可能性はあるかもしれない」
詳しく仕組みを聞くと、連れて来られた奴隷は素性を隠したままアルテアに送られるため、どんな奴隷が運ばれて来たのかを詳しく知ることがないらしい。
任務で多少は接する機会があったりするが、メンバーは常に代わるから、全てを把握出来ないとのことだ。仮に自分の任務外の時にエルフが運ばれていたら、知ることは一切ないだろうとのことだ。
「そんな事情を俺に話してもいいのか?」
「この辺りは騎士なら皆知っているからな。まぁ、あまり話さないでもらいたいが」
美味いご飯を食べて口が滑ったと言ってるが、いいのかそれで?
「だからアルテアに行きたいか……確かに渡るには領主様の許可が必要だからな」
リチャードの言葉に、火を囲む騎士たちも頷く。
「しかし奴隷か……女性ばかり連れていたけど、旅をするならもっと力が強そうな男の方が良いんじゃないのか? 同じ男としては、分からなくもないけどさ」
セットの言葉に、若い騎士たちが声を上げる。
「事情があるからな。それに一人はもう解放条件が揃ってるから、手続きが終われば解放できるわけだし」
バタバタして忘れていたが、セラは手続きさえすれば戦闘奴隷から解放される。
何故かその事を言ってこないから忘れていたが。
「そうなのか? なら早く手続きを済ませてやるといいぞ。やっぱ奴隷は目立つし、本人も良い気分じゃないだろうしな」
「そうだよな」
リチャード言葉に、その通りだと思った。
セラだって好き好んで奴隷をやってるわけじゃないし、戻ったら早速話さないとだな。悪いことをした。
他にも色々と話していたが、ヒカリがうつらうつらし始めたから寝ることになった。
見張りは騎士たちが交代でやるらしく、俺はヒカリと一緒に馬車の中で眠ることになった。
俺としては楽が出来て嬉しいが、並列思考を使って警戒だけはしておく。
最も並列思考を使っているのは、警戒だけでなく、寝ている間も時空魔法を使って熟練度を上げるためでもあるが。
「主おやすみ」
ヒカリがピタリと横についてきた。
とりあえず抱き付いてこなかっただけでも、成長しているといったところか? 少し寂しいと思ったのは内緒だな。
俺も最後にMAPを使って気配察知を使ったが、騎士たちと馬の反応以外は何も表示されなかった。
一応盗賊がいると思わしき場所は、二日ほど進んだ先だという話だからな。
二日後。予定地点に到着した。
今日はここで野営をして、様子を見るらしい。
本当に居て、襲って来るなら撃退すればいいのだが、そうじゃないと盗賊がいると思われる山の中に入らないといけなくなる。
一応旅の商人を装ってるから、山に向かうと不審に思われ警戒されるから、出来れば避けたいと言っていた。
冒険者を装っていくには、特にこの辺りの山では何か特産物があるわけでもないから、わざわざ山に入る冒険者もいないという話だ。
人が滅多に訪れない……そんな場所だから盗賊の
「どうだ?」
「駄目ですね。ここからだと良く分かりません」
リチャードの問い掛けに、周囲を伺っている騎士たちの返答は簡単なものだった。
ただそれは仕方がない。肉眼で見るには山が遠いし、仮に隠れ潜んでいたとしても、そんな分かりやすい所にはいないだろうし。
事実、拡充したMAPで確認しても盗賊の反応はない。
「なあ、もし盗賊が見つけられなかった場合はどうなるんだ?」
そもそも盗賊の討伐が出来なかった場合、この依頼はどうなるかここに来て不安になった。
実はもっと簡単に見つけることが出来ると思っていたのもある。
実際の所、MAP機能を使って山の方に近付けば引っ掛かると思うが、それをすると相手に不信感を与えることになる。
事実、騎士たちとしても、相手のフィールドである山に入らないために、商人のキャラバンに扮してこちらに誘い込もうと思っているようだし。
「そうだな。とりあえず数日馬車が壊れたように偽装して留まり、来ない様だったら山の偵察を少しするぐらいかな? それで見つからなければ……一度戻って報告をするしかないかな」
この少人数で山に討ち入りするのは、危険過ぎるというのが騎士たちの共通の考えのようだ。
盗賊の規模が不明だというのも大きな理由みたいだな。
無理をしてでも討伐! なんて考えがないからそれに従うしかない。
その事を領主に進言してもらえば、例え討伐してなくても無下にはされない、はずだと思いたい。
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