第237話 盗賊討伐・3
「主、私も一緒に行く!」
今現在の状況を説明すると、門の前で騎士たちと合流していざ馬車に乗り込もうとしたところで、ヒカリが急に一緒に行くと言い始めたところだ。
突然のことに俺は戸惑い、騎士たちも困惑した顔を浮かべる。
騎士たちからしても、たぶん盗賊の討伐に参加するのは俺だけと聞いているだろうし。
「ヒカリ、昨日も話しただろ? ヒカリはお留守番だ」
「いや、私も行く」
何度も言い聞かせるが、逆にギュッと腕を掴んで離さない。
「あ~、どうなっている?」
流石に見兼ねた騎士の一人が尋ねてきたが、見たまんまで俺としても何と答えていいのか分からない。
「ヒカリちゃん、それだとソラが出発出来ません」
「うん、私たちと一緒に行きましょう? ソラも困っていますし」
ミアとクリスも宥めるが効果がないようだ。
ルリカとセラがしゃがんでヒカリを説得していたが、やがて二人は顔を見合わせ、話しかけてきた騎士に何事か伝えている。
すると騎士は俺とヒカリを交互に見て、苦笑して頭をかいて話し掛けてきた。
「嬢ちゃん、危険なところに行くってのは理解しているか?」
騎士は片膝を付き、ヒカリと目線を合わせて話し掛けた。
「うん……」
ヒカリはその問いかけに素直に頷いている。
「それでも一緒にいたいのか?」
その問いにも相槌を打つ。
「危険だと思った時、我々の指示に従えるか?」
「うん、約束する」
「分かった。少年……ソラ君だったか。嬢ちゃんをしっかり守ってやるんだぞ」
と、バシバシと肩を叩かれた。割と強めに。
同行を認められたようだが、ルリカとセラは何と説明したんだ? そもそもヒカリを説得しようと何事か話していなかったか?
「主、一緒に行く」
先ほどまで浮かべていた不安そうな顔が笑顔になった。
本来なら諫めるべきなのだが、既に外堀が埋められてしまっている。
ルリカには「頼んだわよ」と一言だけもらった。
結局そのまま馬車に乗り込み、一路目的地を目指すことになった。
馬車は二台で、俺とヒカリを含めて、人数は全部で十五人いる。
人数に対して馬車が大きいのは、一応商品を運んでいるように見せるためのようだ。
実際騎士たちは冒険者風の軽装で、騎士と分かるような鎧は着ていない。
武器だけは手に馴染んだものを持ってきているのか、揃いの武器で注意して見ると少し目立つかもしれない。
「なあ、本当に良かったのか?」
ヒカリの同行を認めた中年の騎士に、改めて尋ねた。
その騎士の名はリチャード。一応今回の討伐隊のリーダーを務めているらしい。
「まあ、仕方ない。無理やり離すのも可哀想だしな」
その言葉に同じような年配の騎士たちが頷く。
いいのかそれで? と思っていると、この中では一番若い騎士のセットが耳打ちしてきた。
「リチャードさんたちはさ。娘さんがいるんだけどね……ちょうど彼女ぐらいの甘えたい時期に任務が激務だった時があって、相手にされなくなったことがあったらしいんだよ」
何と答えたらいいか言葉が見付からないな。それで甘い対応をしていたと?
「それに彼女、立ち振る舞いが違うでしょ? それなりに戦えると判断したんだと思うよ」
「確かにそれは否定しない。一緒に長いこと旅をしているからな」
実際鑑定でレベルを確認すれば、ヒカリよりもレベルが高いのはリチャードだけだ。
「まぁ、本当に危なくなったらリチャードさんたちが本気で守ると思うよ。もしくは規模によっては逃がすかすると思う」
なんか騎士というと、硬派なイメージがあったんだけどな。ダンジョンで会った騎士もそうだったが、こんなんでいいのか? それとも今まで会った騎士が特別なのだろうか?
「主、そろそろご飯?」
セットと話していたらクイクイとヒカリが袖を引っ張って来た。
確かにいつもならそろそろご飯の時間だが、お昼はどうするんだろうか?
馬車に乗ったまま食べるとこの揺れだと結構辛そうだけど、訓練された騎士なら時間優先でそれもありえそうだ。
尋ねるともうそんな時間かと言われて馬車は停車した。
馬車から降りて体を伸ばす。乗り慣れていないからちょっと辛い。
近頃乗った馬車は、貴族仕様の良いものだったりしたから、ここまで揺れなかったというのもある。
「ソラたちは旅の間、食事をどうしてるんだ?」
「主は料理上手」
セットの言葉に、ヒカリが胸を張る。
その言葉にセットが興味深そうに見てくる。リチャードをはじめ、他の騎士もだ。
「あ~、一応旅の途中も良く料理をしているよ」
何故そこで驚きの表情を浮かべる。あ~、そう言えばルリカたちと最初に依頼を受けた時に、男性の料理事情について聞いたことがあった。
一応男性冒険者の話ではあったが、それは騎士たちにも該当するのだろうか? 別に屋台や食堂でも男性が料理をしている姿を見るから、この世界の男性が料理が出来ないということではないと思うが。
「ふむ、実は保存食を結構持ってきているんだが……」
その言葉にヒカリが物凄く悲しい表情を浮かべた。
「ソラ君。料理を頼めたりするかな?」
続くリチャードの言葉にヒカリが嬉しそうに笑みを浮かべた。
確かにあの保存食を食べるぐらいなら、普通に料理をした方がいい。
下拵えは既に終わっているから手間じゃないし。それにサッドからは、それなりの支度金をもらっているしな。
俺は簡易的な調理場を作ると、いつものように料理を開始して、それを皆に振る舞うことにした。
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