第236話 盗賊討伐・2

 領主の、サッドのその一言に老執事が慌てて近付き耳打ちをする。

 するとサッドは咳ばらいをして、詳しく話し始めた。


「君たちがアルテアに行きたい事情は聞いた。だがそう簡単に許可を出すことは出来ない……が、こちらの手伝いを……要求を吞むなら特例で出しても良いと思ってな」

「それが盗賊の討伐ですか?」

「その通りだ。ただし、君たちは数人で行動していると聞くが、参加してもらうのは君一人だ」


 サッドはそれだけ言うと腕を組んで口を結んだ。

 老執事を見ると、頭を抱えている。


「あ、あの一つ質問を宜しいでしょうか?」


 クリスの言葉に嫌そうな顔をしながらもサッドは頷いた。


「何故ソラ一人で依頼を受けないといけないのでしょうか?」

「簡単なことだ。目立つからだ。それと実際には、我が領地の騎士と行ってもらうことになる。大人数だと相手も警戒するだろうから、人数を制限している」


 今一つ要領を得ない説明だが、それが条件なら従うしかないか?

 こちらから要望を言っても、その神経質な雰囲気からは全て拒否されそうだし。


「領主様なりの気遣いと思ってください。冒険者は基本的に魔物専門ですし、盗賊討伐となると人を……しないといけなくなるかもなので。慣れない女性にはキツイと思いますので」


 老執事が付け加えるように言う。

 隣を見ると確かにクリスが困ったような表情を浮かべている。

 確かに魔物を狩ることと、人を殺すことだと意味が変わってくるしな。ルリカたちは実際のところどうなのだろう?

 そう思い、手が震えだした。

 大丈夫だ。グッと手を握りしめる。

 俺は既に……。


「分かりました。出発はいつですか?」

「明日の朝だ。門前に馬車を用意するからそれで行く」


 それだけ言うと、足早に去って行ってしまった。

 残された俺たちに、老執事が旅に必要な支度金を渡してくれて、さらに詳しい説明をしてくれた。

 向かう先は薬草の採取依頼とは反対方向にある、クロワの町の途中にあるという山の中だという。

 そこに盗賊が住み着いているという噂があり、それなりの被害が出ているとのことだ。

 何度か討伐を試みたらしいが、巧みに姿を隠されるため失敗に終わっているらしい。

 それだと今回も失敗になりそうだけど、そこは何も言わずに言葉を呑み込んだ。


「どうか、よろしくお願いします」


 と、老執事が深々と頭を下げてきた。

 それでも領内に、というか近くに盗賊がいることに対する不安はあるようで、どうにかしたいという思いは伝わってきた。



「と、言うことで盗賊の討伐依頼に参加することになった」


 俺は宿に戻るなり、皆に経緯を説明した。

 最も複雑な事情じゃなくて、アルテアに行きたければ盗賊を捕まえろということだ。盗賊の生死は問わないということだ。

 もっとも一番の問題は盗賊が何人いて、こちら側が騎士が何人参加するということ。

 それに気付いたのは領主の館を出た後だった。

 まぁ、断るという選択肢はなかったわけだが、ちょっと、かなり不安もある。


「大丈夫なの?」


 ルリカが心配して聞いてくるが、


「騎士も一緒だし大丈夫だろう。何でも精鋭を揃えてくれるらしいし」


 老執事は、少数精鋭の対人のプロを用意するという話だった。

 その点は人物鑑定でレベルを見て判断すればいいとも思っている。


「そう、ならいいけど……」


 ルリカ以外にも、クリスも心配しているようだ。急なことだったしな。

 そんな中、ヒカリはジッと俺を無言で見詰めてきている。


「何か気になることがあるのか?」

「ううん、何でもない」


 その夜は、俺が盗賊の討伐に行っている間について話し合った。

 先ほど冒険者ギルドで、フォルクからの緊急要請の依頼を目にしたということで、内容次第で受けてみるかもしれないということだった。

 盗賊依頼は早ければ五日。盗賊が見付からないとそれ以上かかるかもしれないとのことだった。

 それでも期間は十日と区切られていた。見付からなかった場合はどうなるか尋ねたら、そこは検討してくれるということだった。期待しよう。


「ならアイテム袋の他に保存の効く食料類を渡しておいた方がいいかな?」

「そうね。調味料類は多めに欲しいかな」


 ルリカとクリスが手際よく必要なものを言ってくれるから、それを渡していく。


「それじゃ明日は早いし、寝るとするよ」


 準備が終了したら早速休むことにした。

 もっとも日が暮れたら、やることがなくなれば後は寝るだけなんだよな。

 灯りを保持するのにも魔石を消費するからな。もっとも光魔法のライトを使えば、光源には困らないんだけど。

 横になりながら、時空魔法を使って熟練度上げに勤しむ。

 今は寝ている間のMPがもったいないから、並列思考を使って寝ている間も、地道に時空魔法を使っているわけだけど。

 思えば久しぶりの単独行動になるのかな?

 ベッドに横になりながら天井を眺める。対人戦か……騎士の人とは色々相談しないといけないかもしれない。

 そして馬車移動になるが、現在ウォーキングのレベルがカンストしているから、無理に歩く必要もなくなっているのかもしれない。

 そう言えば食料とかどうなるのかな……アイテムボックスを確認すれば、十分な量があるからそちらも問題ないが、一緒に行動するなら、普通なら一緒の食事になるだろうしな。

 冷静に考えれば穴だらけな気もするが、何でまた突然こんな依頼をしてきたんだろうな?

 サッドの神経質な顔を思い出し、やがて眠りに落ちて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る