第235話 盗賊討伐・1
翌朝。マルテに帰還する前に皆で薬草採取をすることになった。場所は森に入る時に見付けた群生地で行うことに。
うん、この辺りは少し採り過ぎたからね……。
ちなみに何故まだ採取をするかというと、別に魔力草が足りないからとかという訳ではない。
それは昨夜の夕食の時の、ヒカリの何気ない一言から始まった。
「セラ姉は薬草採取をしなくて良いの?」
確かに本来採取依頼を受けたのは、幼馴染み三人娘だ。
ルリカは初日に、クリスは二日目にそれぞれ薬草採取を行ったが、セラはどちらもヒカリに同行して薬草の採取を行っていない。
ヒカリとして特に深く考えずに、疑問に思ったことを口にしただけだろうが、ルリカとクリスはその言葉に「確かに」と頷いている。
セラは少し嫌そうな顔をしていた。どうもルリカ寄りで苦手意識があるのかもしれない。
それを見たルリカは悪い笑みを浮かべ、クリスはため息を吐いていた。
そういう経緯もあって、今現在皆で薬草採取に勤しんでいる。
「主、これは何?」
「これは活力草だな。枯れてないし、状態も良いな」
「うん、ならこれは?」
「こっちは薬草だな。けどここが少し色が変わってきているかな」
俺はヒカリと一緒に採取に勤しんでいる。
セラはクリスと一緒に採取していたが、簡単な説明を受けてから手際よく薬草を採取していっている。
コツコツする作業が苦手だと言う話だったが、どうやらそれは昔のことだったようだ。どうも帝国にいた時の生活で、かなり鍛えられたようだ。皮肉なことだが……。
順調に採取を行うセラを見て、ルリカは非常に驚いているようだった。
そしてそんなルリカと目が合ったセラは、得意そうに胸を逸らしている。
まぁ、どっちもどっちだな。
というか、やっぱ気心が知れた仲だからなのだろう。俺と話す時とは違って、感情豊かに、年相応な姿を見せる。些細な違いだが、それを見分けることが出来た。
「それじゃ予定数を採ることが出来たし、戻るとするか」
錬金術ギルド分のも十分採ることが出来たからな。
俺の言葉に慣れない体勢で作業していた面々が体を伸ばしている。ヒカリは……普通に元気だな。
「主、ご飯は?」
確かにそろそろお昼の時間だ。
「せっかくだし、湖の近くで食べてみないか? 我慢できるか?」
「うん、我慢できる」
ということで移動を開始する。
お昼が待ち遠しいのか、握られた手がグイグイと引っ張られる。
約束通り湖の良く見える場所にシートを敷くと、そこでお昼を食べた。
長閑な時間に、このままここで寝転がって昼寝をしたい気持ちが芽生える。
ただそれだとマルテに着くのは夜遅くになって、町に入ることが出来ない可能性も出て来るからそれが出来ない。残念だ。
湖上の街を眺めながら、ほんの目と鼻の先にあるのにと思う。
舟は無理でも、それこそ魔法を連続使用して足場を造れば渡れそうな気もするが、どうも魔力察知を使うと、島を囲うように結界のようなものが張られているような気がする。
「やっぱ正攻法じゃないと無理かな……」
近くて遠い。そんな印象を受けた。
その後街道に戻り、道なりに進めば、予定通りマルテに到着。
相変わらず訪れる人が少ないのか、門の前は閑散としている。うん、正確に言うと門番以外の姿は見えない。
身分証であるギルドカードを渡すと、確認した門番がジロジロと見てきた。
そしてもう一度カードを確認すると話し掛けてきた。
「ソラ……その名前に間違えはないな?」
カードを確認したと思うのに再度確認するとは何かあったのか?
「あ、ああ。何か問題でも」
「警戒しなくて良い。君が戻ってきたら伝言を伝えるように言われていた。領主様より、一度顔を出す様に伝えろと命令されている」
「……領主から?」
心当たりは……二つあるが呼び出されるようなことだろうか?
「今から行った方が良いか?」
「そうだな……今日は少し遅いかもしれないな。明日なら大丈夫なのか?」
「特に予定はないが……」
「なら誰か伝令を走らせる。君たちは今日何処に泊る予定だ?」
前回泊まった宿に泊まる予定だと話したが、あくまで部屋が空いていたらと話した。
その後ルリカたち三人はギルドに向かい、俺たちは錬金術ギルドに寄り、ヤンにボーゼン経由でウィルに伝言を頼んだ。
宿は部屋が空いていたためそのまま泊ることが出来た。
領主からの呼び出しは気になるが、悩んでも仕方ないからな。何を言われるか、一応覚悟だけ決めておくか。
と言ってもここでは悪目立ちもしてないし、難癖付けられることもないだろう。
クリスに確認したが、前回面会した時も変なことを言ってないとお墨付きをもらったからな。そもそも何か話す前に面会は終了したとも言うが。
部屋で寛いでいたら女将さんが呼びに来た。
下に降りると領主の館で会った門兵の一人がいて、明朝来るように言われた。
人数制限を特に言われていなかったため、朝食を済ませてからクリスと一緒に領主の館を訪れた。
前回と同じ部屋に通されて待つこと数分、慌ただしい足音と共に入って来た領主は、俺の姿を見て言ってきた。
「盗賊の討伐依頼を受けてもらおうか!」
と、何の説明もなく、ただ一方的に。
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