第231話 薬草採取と森の中

 マルテの町を出て、下って来た山とは反対方向に進路を取り、湖畔沿いを歩いて行く。

 途中山岳都市ラクテウス……エルド共和国へ向かう山道があるが、そこを通り過ぎてそのまま進んで行く。

 山道へ向かう道の前を通る時に、セラたち三人が一度立ち止まり、山道の伸びる先を見ていた。

 やはり故郷に対して何か思うことがあるのだろうか?

 セラにしたら十年。ルリカたちも三年ぐらいは経っているという話だしな。

 もしここでエリスを見付けられなかったら、一度共和国に寄るべきなのだろうか?

 けど月桂樹の実を入手出来たら、マジョリカに行かないとだからそれも難しいか。


「主、見えてきた」


 湖畔を歩いて行けば、やがて遠くにフォルクの町らしきものが見えてきた。

 ただ今回用があるのはその手前にある森だ。

 野営に必要な道具に不安があるなら寄る必要があるが、俺たちパーティーはその点問題ないからそのまま森の中に入って行く。フォルクに寄ると往復で五日はかかるからね。

 森は……正確には生い茂る木々は山肌の方にも伸びているらしく、その辺りの方がヒカリの言う食材は豊富らしい。

 魔物は滅多に出ないそうだが、それでも年に何度か動物を狩ることを生業としているハンターが被害に会うことがあるらしいから、警戒は必要。

 ヒカリは遭遇したら狩るつもりらしいが、情報がない魔物だから無理はしないで欲しい。


「とりあえずまずは薬草の群生地と……野営が出来そうなベースキャンプの場所を探そうな」


 良さげなスペースがあれば、魔法で小屋を作成しようと思っている。

 二泊三日の予定だからそこまでする必要はないかもだが、魔法の熟練度は地道に上げていきたい。


「ソラ、こっちに良さそうな場所があるけどどうする?」


 森から比較的に近いところに広場をルリカが見付けたが、とりあえずもう少し奥に行くことにした。

 可能ならある程度山に近い場所で、尚且つ薬草の群生地の近くが良い。


「贅沢ね」


 と、ルリカには言われたが、その方が面倒が少ないと思う。

 俺は歩く分には問題ないが、ヒカリたちは辛いだろう。アイテム袋もあるけど、人数分あるわけでもないし。もっとも森を一人で歩くのは危険だから、一人で行動することはないだろうけど。

 森の探索は、結局思うように進まなかったため、途中で二手に別れることになった。

 俺班とヒカリ班で、俺の方はルリカとミアが。ヒカリの方がセラとクリスが同行することになった。

 俺たちの方は基本的に薬草群生地と野営地の探索で、ヒカリたちは主にキノコなどの食材を探しながら、山の方の探索だ。

 ちなみにクリスがヒカリの方に同行したのは、万が一合流出来なかった時の保険だ。クリスの精霊魔法なら俺たちの居場所を探すことが可能だからだ。


「ん~、この辺りでいいんじゃないかな?」


 ルリカの言葉に周囲を見回す。群生地の傍らに出来た開けた更地。少し草木があるが、その数はまばらで数えるほどだ。


「ならここに小屋を造るよ。二人は……薬草採取か近場で食材探しでもするか?」

「そうですね。私は薬草の採取をしようと思います」

「なら私もそうするわ。食材はヒカリちゃんたちが集めてくれると思うし」


 ミアの言葉にルリカも従う感じで薬草の採取をするようだ。

 たぶん、俺が近くにいるとはいえ、別の作業をしているからミアを一人にするのは危ないと思ったんだろうな。ルリカ……薬草採取苦手だったし。

 とりあえず地面に板を敷き、その上に小屋というよりも家を作成する。といっても小さめの奴だ。一応寝室に風呂場も作成してみるか。

 興が乗って色々と凝った造りにしたくなるがそれをグッと我慢して、シンプルな作りにする。薬草採取もしたいしね。

 ただ家造りも経験を積んでいるからか、間取りなどのイメージも慣れたものだからそれほど時間が掛からず建てることが出来た。

 人の手で建てたら、数十日とかかるだろうしな。作業人数によるけど。


「もう終わったんですか?」


 とはミアの言葉。隣に立つルリカも呆れた表情を浮かべている。

 けどさ。出来てしまったものは仕方ないんだ。それに家具とかは別にあるわけでもないしな。いっそベッドとかの家具を買ってアイテムボックスに入れておけば良かったりするのか?

 その事を話したら、二人は苦笑していた。

 良い案だと思ったんだけどな。


「二人はどうする? まだ日が高いから薬草採取をしようと思うけど」

「私たちは少し休もうかな? あ、食材とか出してくれれば料理を作っておくわ」


 ルリカの言葉に、ミアは少し緊張した表情を浮かべた。

 練習しているとは言え、まだまだ他の人と比べるとどうしても劣って見えてしまい、なかなか自信が持てないでいるようだ。

 けどミアさん。基本もしっかり出来ているし、変なことをしないから問題はないんだよ。

 ルリカに視線を向けたら、任せてと頷いてきた。


「それじゃ頼んだぞ」


 と、言うことで薬草を採取する。

 二人が採取してくれたみたいだが、まだまだ採れる薬草は多い。魔力草や活力草も多いし、森の際から結構中に入っていることもあって、あまり採る人がいないのかもしれない。

 中腰で少し腰が痛んで来たから体を伸ばしていたら、山の方から下って来る反応があった。

 上空を見れば、既に日は消えて少し薄暗くなってきている。

 ヒカリたちは迷わずこちらに向かってきているようだから、迎えに行く必要もなさそうだ。


「主、大物!」


 と、アイテム袋から取り出したのは鹿か? 他にも猪みたいのもいる。

 血抜きは既に終わっているようなので、アイテムボックスに収納する。


「今日食べない?」

「ああ、ミアとルリカが食事の準備をしてくれているからな。今日はそれを食べような」


 ヒカリを連れて家に向かう。入る前に一応結界術を掛けて置く。

 これで気配察知で反応出来ない奇襲対策も万全だ。

 さて、それでは二人の料理を堪能するとしようかな。

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