第230話 マルテ・3
領主の館とのことだったが、そこはレイラ宅やヨル宅と比べても小さく、言われないと気付かない一般的な邸宅に見えた。もちろん周囲に建つ住宅も、宿のある区画と比べたら立派な佇まいだが、やはり他の町で見た貴族街と比べると見劣りする。
ただそれが悪いかというとそうでもなく、変な緊張感もなく通りを歩くことが出来る。もっとも衛兵のような門番が立っているから、それだけがちょっと場違いに映る。
俺はその門番に錬金術ギルドのマスターに書いてもらった紹介状を渡した。
すると既に話は通っていたのか、執事服を着た老人に案内されて、客間に通された。
飲み物が出され、しばらく待っていると扉が開いてドスドスと足音を立てて、先ほどの老人を連れた小太りの男が部屋に入って来た。
それを見たクリスが立ち上がったので、それに倣って俺も立つと、クリスの動きをトレースするように頭を下げた。
男はそれを一目見て正面に来ると、ドサリと音を立ててソファーに腰を下ろした。
「それで用件は?」
「錬金術ギルドから連絡がいっていると思いますが、アルテアに渡る許可を頂きたいのですが……」
「その件か……駄目だな」
慣れない言葉で用件を伝えたら一蹴された。
「どうしてもですか?」
「そうだ。この忙しい時期に、そのような案件に係わる暇などない。他になければ話はこれで終わりだ」
早口にそれだけ言うと、立ち上がってさっさと部屋を出て行った。
これにはクリスも驚き、取り残された俺たちは、老執事に連れられて屋敷から外に出た。
「錬金術のギルマスと仲が悪いとか?」
俺の言葉に、クリスは困ったような反応をしたが、
「一度錬金術のギルドマスターに相談してみてはどうでしょうか?」
と提案されたので、そちらに行くことにした。
そしてギルドでその話をしたら、ヤンも首を捻った。
「確かに気難しい奴ではあるけどな……何かあったのかもしれない」
仲が悪いかと聞いたら、そうでもないらしい。
ただ余裕がないと、時々他のことが目に入らなくなるような
だから何かトラブルを抱えているのかもしれないと言う。
「とりあえず俺の方から奴には話してみよう。それにアルテアのギルドには連絡を入れたから、そっちのルートでもしかしたら手に入るかもだしな。兄ちゃんたちは何処に泊ってるんだ?」
宿泊している宿の名前を告げて、もしかしたらと言うヤンの助言に従い、薬師ギルドに足を向けた。
「月桂樹の実ですか? 申し訳ございません。既に在庫がありません」
月桂樹の実は応用の効く薬を作るのに適した材料なため、ここでも人気らしい。
もちろん特化した薬に比べて効き目は低いが、病状の解り難いものにも効果があったり、緊急事態の繋ぎとして使うため、消費も激しいようだ。もちろん貴重品のため乱用はしないが、それでも一定数はどうしても消費される。
それに月桂樹の実でなくては作れない薬もあるため、むしろもっと欲しいと愚痴を言われた。
「思っていた以上に貴重な実のようですね」
「……直接島に渡るしかないのかな……」
思わず呟いた言葉に、クリスが呆れた顔をした。
「もしかして、昨日屋台で聞いた小舟のことを考えているのですか?」
「……あ、はい」
「まったく、駄目ですからね。そんなことをしては。とりあえず皆と合流して、これからのことを相談した方が良いですね」
「そう、だな。そうするか……」
そろそろお昼時だし、屋台のある方に行けばいるだろうと言うことで行ったら、案の定いた。
ことの顛末を話した結果。気分転換にギルドで依頼を受けてはどうかという話になった。
依頼を受けて遠出すると、ヤンから連絡が来た時に困るが宿の人に頼んでおけばいいか? まぁ、時間があるから、依頼を受けたことを伝えに行けばいいか。
時間の関係で遠出は出来ないが、それでも何かしていないと悪い方へと考えがいきそうだし、何よりギルドで依頼をこなしておくのはノルマの関係上やれる時にこまめにやっておいた方がよい。
「どれか受けられそうな依頼があるのか?」
「主、あれがいい」
掲示板の依頼を眺めていたら、ヒカリが袖を引いてきて指差した。
指差した先を見ると、そこには薬草採取の依頼があった。
「主様、たぶんヒカリちゃんは森に出るという動物を狩ったり、キノコを採取したいんだと思う」
と、屋台で聞いたことをセラが教えてくれた。
ミアとルリカを見ると二人も頷いている。
「主、駄目?」
俺はもう一度依頼書を見て、ヒカリを見て、別に薬草採取でもいいかと思った。
ただ少し遠いから日帰りは出来そうにないからヤンには連絡しておいた方が良さそうだ。
その事を伝え、俺は皆と別れてヤンに薬草採取の依頼を受けたことを伝えたら、錬金術ギルドに卸す分の薬草の採取を頼まれた。
まぁ、ついでだしいいけどね。
何だかんだと、ヤンには骨を折ってもらっているし。しっかり報酬もくれるとのことだし。
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