第228話 マルテ・1

 湖畔に作られた町マルテ。三つある山岳都市と、竜王の住む空中都市を結ぶ港町だ。

 最初空中都市と聞いて空に浮かぶ都市を思い浮かべたが、別にそんなことはない。

 そもそも空中都市と言う呼び名は、外から来た商人が勝手にそう呼び始めたのが始まりで、湖に映る空の中に都市が浮かんで見えたため、そう呼ばれるようになったとのことだ。

 実際その光景を見て、俺もそのように思った。

 他の面々も、思わず時間を忘れて魅入っていた。


「凄いね……」


 誰かの呟いた声に、黙って頷くことしか出来なかった。


「ようこそマルテへ。ん~、あんまり問題を起こさないようにな」


 ギルドカードを確認した門番にはそう言われた。

 あまり来る人がいないのか、門番は暇そうだった。

 中に入ると、よそ者が珍しいのかジロジロと視線を向けられた。

 まずはギルドに行ってみようということになって、冒険者ギルド、商業ギルド、錬金術ギルドの順に回ることになった。

 宿は複数あるようだから、ギルドで話を聞くなりしてから決めればいいということになった。まだ日も高いしな。

 冒険者ギルドに入ると、中は閑散としていた。

 掲示板を見れば依頼の紙が貼られているが、その数は少ないように見える。


「こいつは珍しい。あんまり依頼はないが、良かったら何か依頼を受けてくれると助かるな」


 珍しく受け付けが男性だ。しかも獣人。


「討伐の依頼よりも運搬の依頼の方が多いの?」

「そうだな。食料の運搬に伴う護衛依頼が多いかもな。あとは採取依頼とか、かな」


 確かに討伐依頼はあまりなかったような気がする。山肌に作られた集落にも、そのまま武器を持てば魔物を狩ることが出来そうな、屈強な者たちの姿を多く見かけたしな。

 それに魔物自体が少ないのかもしれない。

 ただ完全にないわけではなく、チラリと見た感じ、飛行系の魔物討伐の依頼などが少しあった。あとは討伐というよりも、森の調査とかが多かった。

 魔物が住み着く前に、定期的に狩っているのかもしれない。


「宿は何処も空いてると思うが、飯が美味いとことなると……」


 考え事をしていたら、色々と情報収集をしているようだ。ヒカリなんてルリカの腰元に抱き着き、真剣に聞いている。

 話が終わったら、二手に別れて移動することに。

 片方は宿を取りに行き、その後町で情報収集。もう片方は商業ギルドと錬金術ギルドに話しを聞きに行く。

 俺は後者で、ヒカリと一緒に行動することになった。

 用事が終わったら町の中央付近にあるお店で合流しようという話になった。一応噴水が設置されている広場を待ち合わせ場所にしたが、その辺りで動いていればMAPでも探せるから曖昧で大丈夫だろう。

 まずは商業ギルドに向かい、月桂樹の実に関する話を聞いた。


「月桂樹ですか……この時期だと手に入らないかもですね」


 月桂樹は色々な薬に使われるため、希少価値の上採れる場所も危険な場所らしいという噂で、なかなか流通しないと言う。しかも無断で採取出来ないという話だ。

 セリスの言葉は正しかったわけだ。


「何処で手に入れることが出来るんだ?」

「竜王様のお膝元。あの島さ」


 窓の外から見える湖上に浮かぶ島を指差して言った。


「あの島にはどうすれば渡れるんだ? 定期船みたいのがあるのか?」


 桟橋の方を見たが、それらしい船は見掛けなかった。


「島にですか……他所から来た人だと難しいかもですね。領主様の許可が必要になるかもしれません」


 どういうことだ? 自由に行き来出来ないということか?


「ああ、外から来る人はアルテアに行きたいという人が多いんですけどね。貴重な素材も手に入りやすいから。だけど悪さをする者も多いから、領主様の許可が必要になったんですよ」


 礼を言ってから商業ギルドを出ると、その足で錬金術ギルドに向かった。

 やはり月桂樹の実は在庫がないらしい。一応ボーゼンから連絡があって入手しようとしてくれたらしいが、タイミングが悪く消費した後だったらしい。


「島に渡るためには領主の許可が必要だと聞いたんだが。どうすれば領主に会うことが出来るんだ?」

「領主様にか~。普通に屋敷に行けばいいと思うんだけどな~……けど外から来た者だと難しいか?」

「どうした?」

「あ、ギルマス。こちらの兄ちゃんがアルテアに行きたいって話なんですけど」

「外から来た者か。私はここでギルドマスターをしているヤンだ。何が目的で島に行きたいんだ?」


 詳しい話は聞いてなかったようだ。

 マジョリカのダンジョンで起こったことを、話せる範囲で話し、既存の石化治療薬では完治出来なかったことを説明した。


「そうなのか。しかも神聖魔法でも治癒できないとか……。高位の神官には頼んだのか?」

「……たぶん。どのレベルが高位かは分からないが、患者は領主の関係者だからな」

「へ~、てか兄ちゃん貴族様の知り合いがいるのか?」

「ちょっとした伝手でな。それでここの領主に会うにはどうしたらいいんだ?」

「そうだな~。ボーゼンの知り合いかって、兄ちゃんの名前は?」

「ソラだが?」

「あ~、なるほど。兄ちゃんがそうか。了解した。俺から推薦状を書こう。ただ会うことは出来るが、島に渡れるかは分からないぞ?」


 とりあえず次に繋がっただけ良しとするか。

 ただ島に渡るのに許可が必要となると、難しいかな?

 無理なら最悪月桂樹の実がどうにかならないかだけでも、交渉したいところだが、ここの領主はどんな奴なんだろうな。



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