第227話 山路・5

「主様、この家は収納出来ないのかい?」


 出発する時になって、セラから聞かれた。

 小屋を作る時に地面から直接作っているから、無理なんだよな……。逆にそれさえ解消出来れば収納できるものだろうか?


「この小屋は無理だな。あとはアイテムボックス内の容量次第だけど……」


 その発想はなかったな。それに小屋を仮に収納できた場合、小屋の中のものがどのような判定をされるかも気になる。

 例えば小屋を一つとしてみるのか、それとも小屋の中のものは別カウントにされるのか。アイテム袋をアイテムボックスに入れた記憶がないからな。


「試すにも、家を作って無理だった場合がな~」

「そこは錬金術で上手いこと試せないの?」


 ルリカも家での快適さに魅入られたのか乗り気だ。

 材料さえあれば出来るか? 出来た場合色々な機能を要求される未来しかないが、お風呂とかあると助かるんだよな。主に俺がのんびり入りたい。

 ルリカたちもお風呂は好きだが、冒険者としての生活が長いからか、洗浄でも構わないというのが強いようだ。あれば入るかな? って感じだ。

 あとは土で作ると定期的に魔力を流さないといけないから、やっぱ材料を買って作るか? けど街道で使うには目立つからな~。使いどころに困りそうだ。

 とりあえず証拠隠滅と言った感じで魔法を解除して小屋を潰す。


「それじゃ行きますね」


 銀世界に靡く銀髪は、光を反射してキラキラと美しい。

 そんなことを思ってクリスを見ていると、周囲に精霊が集まってきているようだ。魔力の流れ的に間違いないだろう。


「私が前に歩かないとですから、少し隊列を変更しましょう」


 といってもクリスに先頭を歩かせるのも危険なので、セラの後ろを歩いてもらう。

 セラの前に精霊が移動して、進行方向の雪を溶かしていくようだ。あまり離れすぎると制御が難しいが、五メートルぐらいの距離なら問題ないようだ。

 結構精霊は気紛れな子が多いため、あまり離れすぎると言うことを聞かなくなる時があるそうだ。特に長時間行使するのが大変だと言う。

 クリスが歩き出すと、前方の雪が蒸発して消えていく? 除雪車いらずだな。

 なんて、見当違いのことを考えながら後に続く。

 ミアを見たが、しっかりした足取りで歩けている。昨日ヒカリからしっかり肉を食べる用に言われていたからな。無理に食べているようでもなかったから、食欲も戻ってきていたんだろう。


「ミアは雪を見ても騒がないんだな」

「聖都でも季節によっては降ってたから。それほど珍しいものじゃないですよ。ただここほど冷たくはなかったけど」


 風が吹くと確かに冷たい。冷たいというよりも痛いと言った方が近いかもだけど。


「とりあえず辛くなったら早めに言うようにな」


 そんな俺の心配をよそに、山歩きは順調に進んだ。

 雪のせいか、小動物の反応もない。時々木に積もった雪の落ちる音と、風の音以外聞こえない静かな世界。

 それからミアの状態を確認して、錬金術で作ったチェーンを使った滑り止めを装着して、雪の上を歩いたりもした。

 流石に人の目のあるところで、雪を溶かしながら歩くのは見せない方が良いと思ったからだ。あとは雪の中を歩く経験を、主に俺とヒカリが積みたかったというのもある。


 それから二日後、ついに山頂に到着した。

 視界は開け、連なる山々が良く見える。

 尾根伝いに歩けば、竜王国を囲む山脈をぐるりと回ることが出来るという話だが、それをしようという酔狂な人はそうそういないそうだ。

 山岳都市の一つラクテアは、山肌に建物が埋め込まれたような感じで建物が集まっているように見える。他に二つある山岳都市は、また地形にあったように町が作られているそうだ。

 もともとは旅人用に作られた一つの山小屋から始まり、やがて人の往来が多くなると共に拡充されていったとの話だが、今は旅人の姿は珍しいと、宿の女将さんは話す。

 閉鎖的な国の方針もそうだが、リエルとラクテア間の山道が他と比べると厳しいことも関係しているそうだ。


「良くまぁあんな道を。大丈夫だったかい?」


 と、呆れ混じりに言った。

 そんな言葉を言うということは、歩いた経験があるということなのだろうか?

 ちなみに何故女将さんが知っているかというと、結構山道を通って森の中に入っては、食材を採りに行ったりするからだそうだ。何と言うか、逞しい。

 ただ山岳民にとってはそれは別に珍しいことじゃないようだ。


「部屋はどうするんだい? 大部屋でも四人が最大だよ」


 と言うことで、二人部屋と四人部屋を借りることに。

 久しぶりにベッドで休めるだけでも有難いな。

 ここから麓にあるマルテまでは、順調に行けば五日ほどで到着出来るようだ。

 道も緩やかな坂道で、整備されている。これは放牧をするために道を整備しているためらしい。

 窓の外を見れば、所々に柵で囲まれた草地が見える。

 そこには家畜を管理している人たちが住む小さな集落もあるため、頼めば宿泊も可能らしい。もちろんそこで食糧の販売もしているが、肉は安いが野菜や果物系は高いそうだ。逆にそれらが余っていれば、売れば喜ばれるらしい。

 国境都市で竜王国に行くと話した時に、野菜類を持って行くと良いと言われたのはそのためか。もちろん長期間保存出来る手段があればとも言ってたけど。

 アイテムボックスを確認すれば、余剰分の野菜がある。

 女将さんに話しを聞けば、少し売ってくれないか頼まれたため売ることにした。

 久しぶりの布団に包まれれば、あっという間に眠りに落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る