第226話 山路・4

「真っ白……」

「ヒカリは雪は初めてか?」

「雪? うん、初めて……冷たい……」


 外に出た時の第一声がそれだった。

 ヒカリの話だと、王国の方では雪が降ったことがないとのことだ。

 もっとも外に出るまでは、年中薄暗いところで過ごしていたから、たまたまかもしれないと言っているけど。特殊な場所で訓練を受けていたという話だったが……。

 興味深そうに雪を掬うと、雪の手触りを確認し、あ、ダイブした。

 確かに雪を始めて見た時は俺も興奮したことがあったような気がするけど。

 ルリカはそれを微笑みを浮かべて見ている。


「クリスやセラもあんな感じだったな~」

「ルリカもあんなだったさ」


 ルリカの言葉にセラが反撃をすると、何故か雪合戦が始まった。

 それを見たヒカリも参戦したが、君たちの雪合戦は洒落になってないよ?

 本気じゃないのは分かるけど、剛速球だからね。プロ野球選手も真っ青だ。

 クリスが巻き込まれないようにと早々に退避してきているし。


「主、手が冷たい」


 そりゃ、素手で雪を触ってたら冷たくもなるよ?

 そこから何故か戦い方の話になった。もちろん小屋の中に戻ってからだけど。


「ソラはもう少し戦い方を固めた方がいいと思うよ」

「確かに主様は多才だけど、ルリカの意見には同意さ」

「うん、確かに」


 二人からは駄目だしを喰らうが、ヒカリさん、物を嚙みながら喋るのは止めましょうね。


「それに銃だったかい? あれもあまり有効だとは言えないさ」


 セラが言うには、普通に撃つ分だと脅威にならないと言う。

 詳しく説明を求めれば、かなり接近して撃たれない限りは防げそうという話だ。正確には避けることが出来そうだと言う。初見で知らない相手なら有効だという話だが。


「確かにあれが爆発とかすれば有効さ。ただ接近して使うと、片手がどうしても塞がるから。それなら主様が時々やる、接近して無詠唱? で魔法を撃つ方が良いと思うんだ」

「確かにそれはあるかも。クリスやミアの防御面が強化されたし、前に出て戦うこともあると思うし。接近されて魔法撃たれたら、そっちの方が防ぐの難しいよね。ソラの場合、それこそ前から剣で攻撃して、魔法の発動地点を背後からとかに出来たら、相手はかなり戸惑うと思うよ」


 二人の意見を聞きながら出来るかを確認していく。

 確かに魔法の発動地点を変えることは可能かもしれないな。練習が必要になるかもだけど。


「前にソラが言ってたあれ。器用貧乏だっけ? このままだとそれになっちゃうよ」


 近頃ルリカの腕もグングン伸びている。ダンジョンに来た当初はレベルの差もあって良い勝負だったのに、今では純粋な剣の勝負だと負けが込んでいる。

 錬金術とかに当てる時間が増えているから、模擬戦自体も減っている気がするけど。

 確かにやることが多くて、何か一つに集中出来ていないというのはあるが……。


「やれることが多いのはいいと思う。私なんて剣だけだから、正直羨ましいと思うよ? だけどだからこそ、厳しい戦いに備えて、しっかりした戦い方を考えた方がいいと思うんだ」

「ん、二兎を追う者は一兎をも得ず」


 驚いてヒカリを見て、意味を知っているか聞いたら知らないと言う。自分も何でそんなことを言ったのか理解してないようだった。

 確かに転移や魔法弾? を絡めたら銃も使い用があるかもだけど、MPの消費も厳しかったりするからな。

 あとは銃を改造して、弾速を上げるとかするかだけど、並列思考があっても剣と銃の二刀流は少し難しいかもしれないな。

 剣は基本的に片手で扱うが、力負けする場合は両手でしっかり持たないと厳しかったりするから。特に上位種だと馬鹿力だったり、その大きな体を有効に使って攻撃してくるから。


「主は近頃さぼってる。もっと一緒に模擬戦をやる」


 食事を終えたヒカリが、ちょこんと俺の前にやって来て座る。

 近頃色々ありすぎて、一緒に過ごす時間が減ってきているのも影響しているのかな?

 頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めて体を預けてきた。


「何の話をしているのですか?」


 奥からクリスとミアがやってきた。

 開口一番ミアには謝られたが、体調不良は仕方ない。

 俺も山には慣れていないし、たまたまミアがそうなったに過ぎないのだから。


「体の方は大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫だよ」


 注意深く見たが嘘を言っているようには見えない。


「とりあえず食事をしっかり摂って体力を付けたら、明日出発しよう。もちろん無理そうならもう少し休もう」

「あ、あの。私は今からでも大丈夫だよ」

「あ~、雪が積もってるからさ。どっちにしても今日は無理かな」

「雪ですか……明日溶けてくれればいいのですが……」


 クリスの心配はもっともだ。

 ただでさえ気温が低いし、無理かな?


「ねえ、クリス。あれでどうにかならない?」

「……試してみないと分からないけど……うん、聞いてみるね」


 クリスが変身を解除して、精霊を呼び出している。

 何事か話しているようだけど、傍から見ると独り言を呟いているように見えるよね。


「うん、大丈夫だと思う。今からだと辛いから、明日の出発でいいかな?」


 クリスの言葉に皆が頷く。

 そして話の流れ的にクリスとミアに料理を頼んで、寒空の下、模擬戦が行われた。

 主に体の鈍り解消という話だけど、絶対それだけじゃないような気がした。

 雪に足をとられるし、動きにくい。慣れない環境での模擬戦は、少し動いただけで汗だくになるほどだった。

 終わったらしっかり生活魔法の洗浄で汗を乾かさないとだな。

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