第225話 山路・3
時間が経つほど雨音は大きくなっていく。風も吹き荒れているのか、窓を叩く音が大きく鳴る。
パチパチと弾ける火の音に耳を傾けながら、それを囲むように皆で座っている。
「しばらくは足止めかな?」
ルリカの視線の先を追えば、ガラス窓の向こう側が見える。
完全に日が遮られ、薄暗い世界が広がる。時間と共に、真っ暗になった。
「魔法は便利さね。ボクも使ってみたかったよ」
小屋の中を見回しながらセラが呟くと、クリスが否定の言葉を唱える。
「これは普通の魔法じゃないですよ?」
「そうなのかい?」
「うん、そもそも魔法は戦いの中で使うものが殆どですから……こんな使い方をする人は殆ど……いないと思います。少なくとも冒険者の方でこのような使い方をした人を私は知りませんし、教わったこともありません」
クリスが魔法についてセラたちに説明をする。
確かにスキルを覚えた時に頭の中に浮かんだ魔法ではないな。魔力を流しながら、独自にイメージして作ってるわけだから。錬金術に近いといった方が納得出来るのかもしれない?
「ソラの世界には魔法がないという話でしたけど、何処でこういうのを覚えたのですか?」
「ん~、俺の世界には確かに魔法なんてなかったんだけどな。空想の中で色々な魔法とかってのはあったんだよ」
一生懸命説明した結果、どうにかクリスには通じたようだ。
小説や漫画、ゲームと多岐にわたる。またそれによってこんなものがあったら便利だな、と色々なものが開発される。
人の欲望は留まることを知らない……。
「だから、こんな風に使えたら便利かな? と言う感じでイメージして色々試したら、出来ちゃった訳なんだよ」
「便利だからいい」
「ならクリスは習ったら出来そうかい?」
「やってみないと分からないですけど……ただ土魔法は得意ではありませんから……けど、……頼めば出来るかな?」
わいわいと話す四人を眺めながら、話に参加していないミアのことが気になり視線を向けると、なんか元気がないように感じた。
「ミア、大丈夫か?」
「……あ、うん、大丈夫。ちょっと疲れてるだけだから」
心なしか顔色が悪い。
「ああ、気持ち良い」
額に手を当てると、目をトロンとさせて熱っぽいため息を吐いた。
「熱がないか?」
問い掛けに反応がない。
「どうしたの? ソラ」
「ミアの調子が悪そうなんだ。熱もあるようだし」
「あ、ほんとだ。寝かせた方が良いわね。服も少し緩い奴に変えた方が良いかも。ソラ、シーツない?」
ルリカにシーツを渡すと、仕切りを作って見えない空間を作り上げた。
何やらごそごぞと衣擦れの音が聞こえてくる。
俺が出来ることはないな。これが高山病なら水分補給をしっかりした方が良いのかな? 食欲はなくなるかもだけど、鉄分とか接種させた方が良いのだろうか?
高山病に関する知識があまりないんだよな。こんな時にネットが使えたら便利なのにと思うが、ないものは仕方ない。
特効薬がない以上、あとは体が慣れるのを待つしかないか……。
「主、ミア姉大丈夫?」
「しっかり休めば大丈夫だと思うけど……とりあえず少し様子を見よう。どうせこの天候じゃ先には進めないからな」
「うん、少し看てくる」
ヒカリが心配そうにシーツの向こう側に消えた。
焦っても仕方ないか……もしかしたら逸る気持ちを敏感に感じ取って、ミアに無理をさせたのかもしれない。
ケーシーの治療薬……渡してあるものが尽きる前に作成して与えないといけない。
そのため早く竜王国にあるかもしれないという月桂樹を探さないといけない。そのため少し急ぎ過ぎていたかもしれない。
「主様、この場合見張りはどうするんだい?」
「とりあえず小屋は魔法で強化してあるし、結界も張ってるから必要ないかな。特に周囲に何かいる反応もないようだし。一応俺の方でも警戒はしておくから、今日のところは皆しっかり休むことにしよう」
「分かったよ」
窓の外を眺めれば、いつの間にか雨が雪に変わっているようだ。
「寒くなりそうだから、暖はしっかり取ることにしよう」
「なら順番に火の番をした方が良いですね」
クリスがやって来たから、交代で火の番をすることにした。ただ見張りをする必要がないから、一人が薪をくべるために起きていればいいだろう。
「そうだな。薪を多めに出しておくよ。途中で枝葉を回収しておいて本当に良かったよ」
灯りなら魔法で作ることが出来るが、継続的に火を焚くには燃料があった方が良いからな。火魔法を使い続けるのは大変だし、コントロールを誤って暴発したら惨事になることは間違いないだろう。
そんなことをクリスに話したら、絶対にやらないようにと念を押された。
いくら俺でも、誰かがいるところでそんな無謀なことはしませんよ?
とりあえず転移などのスキルを使いながら、熟練度を上げておくか。
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