第224話 山路・2

 浅い洞穴のようなところがあったから、そこで野営をすることになった。崩落の危険があるかもだから、一応土魔法で強化するのも忘れない。

 風が吹き込んでくるから、しっかりテントも張る。

 見張りは交代でということで、ただいまヒカリと組んで周囲を警戒中。

 といっても特に反応はない。ヒカリは警戒しつつ、色々と話し掛けて来る。


「主は、今まで食べた中で何が一番美味しかった?」

「難しい質問だな……ん~、やっぱ王都で食べたご飯かなぁ」


 専ら食事関係の話になるけど。

 ちなみに元の世界の料理に関する質問も多い。結構それに似せた料理を作っているから興味津々だ。

 完全に再現出来てないけどな、と言うと


「これよりも美味しい⁉」


 と、目を輝かせて何度も聞いてくる。

 まぁ、材料もそうだけど、作っていた人の腕が違うからな。

 ただヒカリと話すことで料理を思い出すから、挑戦しようと思うんだよな。

 ある意味向こうの世界のことを忘れないのは、ヒカリによるところが大きいのかもしれない。料理限定だけど。あ、一応何かを作る時も思い出す時もあるか。

 パチパチと音のなる炎に照らされたヒカリの横顔は、年相応に幼く見えた。

 やがて話をしていると、光が洞窟内に射してきた。もう朝か。話し込んでいると時間の流れが本当に早いな。もちろん、見張りはちゃんとしていたとも。


「主、ご飯?」

「そうだな。何か食べたいものはあるか?」

「お肉!」


 そこはもう少し声を抑えような。皆起きちゃうから。

 ただ肉だけだと流石に他の面々から非難されるので、トマトソースを使った野菜スープと串肉にするか。パンは希望者がいればかな? パンを浸して食べるとなると、チーズも必要になるかな~。

 と、献立を考えながら調理していたら、皆目を覚ました。匂いに釣られたようだ?

 一番楽しみにしているのはヒカリのようで、鼻歌交じりで待っている。また少し無表情に戻ってしまったけど。楽しみにしていることは痛いほど伝わってくるからな。


「温まります」


 皆結局チーズトッピングでパンまで食べた。朝食をしっかり食べないと、一日持たないからな。

 野営の装備を片付けたら早速出発する。

 所々斜面がきつくなったり、足場が悪くなったりと、なかなか思うように進めなくて焦ることもあるが、急がば回れじゃないが、地道に進むことしか出来ない。


「ここから林道に入るみたい。注意して行きましょう。セラ、頼んだわよ」

「分かったさ。邪魔な枝葉を伐っていくから、ゆっくり行くさ」


 もちろん伐採された木は薪に使うから回収していく。途中で前後を交代して、俺も前に立って歩く。

 林道は生い茂る枝葉のせいで光が薄っすらとしか射してこないから薄暗い。歩くのに支障はないが、一番辛いのは寒さだろう。日が射さないから気温が上がらず、時々通り過ぎるように吹く冷たい風が身を凍えさす。

 厚着をしていても寒さを防ぐことが出来ずに、マントやローブをしっかり着込む。戦闘するのに少し邪魔だが、寒さで体が動かなくなるよりはましだろう。

 だからいつも以上に周囲の警戒には慎重で、俺も移動中は気配察知を使い続けている。


「主様、嵐が来る」

「ソラ、嵐が来ます」


 突然、セラとクリスから声が上がった。

 セラの耳がピクピク動き、クリスの周囲には魔力が渦巻いている。

 上を見上げれば、僅かばかりに射し込んでいた光が消えている。心なしか、気温も下がったように感じる。

 無理に移動するのは危険か? 山登りなんてそもそも経験がないからな。

 MAPで少し広い場所を探す。ここは土が豊富だから、久しぶりに魔法を駆使して家を作った方が良さそうだ。久しぶりだけど……まぁ、大丈夫だろう。

 MAPを参考に家を建てられそうなスペースの空いた場所に移動して、そこで魔法を発動。ルリカとクリスは驚いているな。ダンジョン内じゃやったことないからな。


「え~と、これは?」

「家だな。作れる空間が狭かったから、あまり大きくないけど」

「いやいや、それ少し、いや、かなり変だから」


 ルリカが同意を求めるように三人を見たが、首を傾げるだけだ。


「これも魔法ですか?」


 クリスは逆に興味があるのか、土で出来た壁をペタペタ触ってる。


「土魔法の応用だな。とりあえず中に入ろうか。雨が降ってきたようだしさ」


 パラパラと小雨が降ってきたから順番に中に入って行く。

 あくまで外観が出来たところだからな。一応テントよりは広くなっているが、家というには小さい。寝床はシーツやらを敷けばいいとしても、調理場はしっかり作らないとな。特に煙の逃げ道の確保は必要だ。


「セラ、火を頼む。暖をとらないと寒いだろうからさ」


 二人が嵐が来ると言ってたからな。形は出来たが、壁とかをもう少し魔力で補強しておいた方がいいだろう。


「ソラ、どうやってるんですか?」


 クリスが聞いてきたから、魔力視眼鏡をかけてもらいながら説明する。

 と言っても何か決まりがあるわけじゃないんだよな。どちらかというと、武器に魔力を流す作業に近い。


「家を作っていた時は、錬金術じゃなくて純粋に土魔法なんですか?」

「ん~、少し混じっているかもだけど、泥を固めて固形物を作る感じに似てると思う。魔力で土を固めてるっていうのかな?」

「……魔力がたくさん必要になりそうです」

「あ~、それはあるかも。スキルの関係で、魔力の消費が抑えられていたり、自然回復が早かったりするからな。本来だと一人じゃ辛いかも?」


 他でやっている人見たことないからな。

 そう言うとクリスは呆れていたが、それでも作業が終わるまで見学をやめることはなかった。


 

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