第220話 閑話・10
「……相変わらずだな」
「なんじゃ貴様か。何か用か? わしは忙しいのじゃ。アドの餓鬼のせいで計画が狂ったわい」
「……そのことだが。聖女は生きていたぞ」
「何じゃと! それは本当か!」
「ああ、我もこの目で確認してきた」
「そうかそうか……ん? じゃが確か聖女の死は大々的に発表されたままで、訂正はされてないのじゃよな。隠蔽工作か? 否、そんなことをする必要性はないはずじゃよな……」
「個人で動いているような感じだったがな。たぶん、権力者たちは生存していることを知らないのだろう」
「何じゃと! それでは意味がなかろう!」
「その点は問題ない。こちらに来るように誘導するようにしておいた」
「ふむ……誰に頼んだのじゃ?」
「古き友たちだ」
「……分かった。なら準備を進めておくぞ。実験のお陰で完成に目途がたったことだしのう。それに……」
「……そうか……いよいよか……」
「ああ、運命の時は近しじゃ」
「翁から見た成功確率は?」
「……何とも言えぬが、これで終わらせたいのう……」
「何の騒ぎだ?」
「はっ、ギード様がご帰還されました……」
「何かあったのか?」
「………………」
「……分かった。案内するがいい」
「……ギードか……手痛い反撃にあったそうだな」
「ああ、くそが。次会ったらぜってぇ殺す」
「……そんなに強かったか?」
「……最初はそうでもなかったか? ただ一人とんでもなく守りの堅い奴がいてな。そいつをやっと撃破したと思ったら切れた奴がいてな……それで……」
「そうか……」
「やはり弱いうちに襲撃出来てれば良かったんだけどよ」
「その辺りは奴らも警戒してただろうからな。なかなか巣から出さなかった。それに何度も囮を派遣していたし」
「確かにな。早い段階で情報を手に入れてたのにな……違うな。まだ舐めてたのもあったのは否めないかもしれん」
「こればかりは実際に体験した奴じゃないと分からないからな。やられたのは若い奴らなのだろう?」
「……ああ」
「それで成果は?」
「二人を戦闘不能にした……が、息の根を止めたかどうかは分からねえ。あと一人は
「……分かった」
「やはり奴らは手加減出来ねえ相手だ。次は最初から殺すつもりで行くぞ?」
「それで構わん。どちらの命を選べと言われたら、選ぶ方は決まっている」
「ならいい。それと戦った感触的に……いたぞ。たぶん、今回ので確実に覚醒したはずだ」
「そうか……なら残された時間は思うほどないのかもしれんな」
「……こちらからは攻めないのか?」
「……魔王様は反対されるかもしれんが、結界がなくなるなら襲撃をしてもいいと思うが……」
「そうか……そうだよな!」
「その点は相談だな。翁の方にも考えがあるようだからな」
「じいさんか。大丈夫なのか?」
「ボケていないから安心しろ。それにこれが上手くいけば……」
「分かった。ならあとで連絡をくれ。しばらくはここに滞在する予定だからな」
「ああ、そうしてくれ」
「それと魔物はどうする?」
「……攻めてきたらぶつけるとしよう。奴らも自分のテリトリーに入ってこられたら勝手に動くだろうからな」
「アドか……」
「なんだよ!」
「そうむきになるな。聖女の件だが、生きていたぞ」
「……そんな……」
「だから翁に怒られたことは忘れろ。……納得出来ないって顔だな?」
「だってそうだろう。確かにあの女は僕の目の前で死んだんだぞ!」
「……本人かどうかの確認はしっかりしたのか?」
「……そこまではしてないけどさ……」
「とにかくだ。聖女が生きているのは間違いない。我もこの目で確認したからな」
「……わかったよ」
「そう不貞腐れるな。それでアド、お前はどうする?」
「どうってなんだよ」
「いつになるかは分からんが。人間共がいずれ攻めてくる。そう、遠くない未来に、だ」
「……もちろん戦うよ! 魔王様は僕が守るんだから!」
「……そうか……だが、今まで戦った人間とは強さが全く違う。それを理解して言っているか?」
「……もちろんだよ」
「なら我からは何も言わん。ギードの奴がしばらく滞在しているはずだ。その間だけでも稽古を付けてもらえ。それに実際に戦ったようだからな。通用するかを教えてくれるはずだ」
「……うん、分かった。ありがとう」
「無理だと言われたら諦めるのも選択肢の中に入れておけ」
「…………」
「魔王様とて、それは望んでないはずだからな」
「……うん……」
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