第217話 マジョリカ・27
「ここが守護の剣のクラン会館か……」
会館なんて表現したが、ある意味要塞だな。会館を囲む壁は堅強で高く、魔法の直撃を受けてもビクともしなさそう。魔力感知を使えば、魔力的な何かが付与されていることが分かる。
何が付与されているかって? 鑑定したら分かったけど割愛。関係ないしな。
「ようこそ守護の剣へ。ご案内します」
門で身分チェックをされ、受付で用件を伝えたら、案内係に連れられて行かれたのは鍛練所だった。何故に?
と視線を向けると、指差した先にはジェイクとアッシュをはじめとした、十数人がいた。そのうちの何人かは見知った顔がある。確かボス部屋で絡んできた奴らだ。
ヒカリとセラがそれを見て少し殺気だったが落ち着こうな?
「ああ、良く来てくれた。すまないな、少し稽古をつけていた」
ジェイクがこちらに気付いてやってきた。
稽古か……とてもそうは見えないが……。
「ほう、こいつらが噂の……」
ジェイクと話していたら、髭面のおっさんが近付いて来て、まるで品定めでもするように見てきた。
「すまない。彼はうちの古参のメンバーで、最前線で戦っている者の一人でギャバンという者だ」
「おう、ギャバンだ。どうだ? 俺といっちょ戦ってみないか?」
「それで呼び出しがあったってことは、頼んでいたモノを用意できたのか?」
「ああ、アッシュ。すまないが持ってきてくれ」
ギャバンの申し出を無視して話を進めていたら、唐突に笑いだした。
「ハハハハハ……。こいつは面白い。お前ら、良く命があったな? 特にそっちの嬢ちゃん、俺といい勝負が出来そうだ」
その言葉にジェイクが驚き、地面に蹲り呼吸を整えていた面々は恐怖心を抱いたのか顔を歪めている。
「しかしそれは残念だ。それだけの腕があるなら、是非勧誘したかったな」
「もっと目を養うことだ。そして俺が楽を出来る人材を確保することだ。おら、休憩は終わりだ。さっさと立ち上がれ」
豪快に笑うと、ジェイクの肩を二度ほど叩き、寝転がる者たちを強制的に立ち上がらせている。
「なるほど。あれが最前線で戦う者か……」
レベル的にはセラとほぼ同じ。あの大きな背中に守られるなら、大きな背中に導かれるなら、安心して探索出来そうな、そんな感じを受ける。確かな経験に裏打ちされた自信というものだろうか? それがにじみ出ているような気がした。
「それではこちらがそうだ」
ジェイクから受け取ったのは十個の魔石。どれもが三十階以降でしか手に入らない貴重なものだ。以前迷惑を掛けたお詫び込みで、結構無理な要求をした。
高品質な魔石が手に入り、俺としてはホクホクだ。
しかも迷惑料ということでお代はタダだと言うし。
「ならこれを一つ返しておく」
替わりに帰還石を一つ渡した。
「これは?」
「前回の脱出の時に使った帰還石の分のだ。俺が気絶してたからそっちの分を使ってくれたって話だったからな」
「律儀だな」
「……もう使うこともないと思うしな」
「……なるほどな」
とはいえ一つは今もアイテムボックスの中にある。使う使わないは別として、何かに使える時が来るかもしれないしな。あとはお金に困った時に売るとか。
「ここはいつ出るんだ?」
「予定では数日後だな。ミスリルが届き次第出発する感じかな」
「ウィルさんに頼んだのはそれか?」
「まぁ、ミスリルの剣とか憧れるからさ」
「それは分かるな~。僕も現場復帰する時は是非持ちたいな」
アッシュが羨ましそうに呟いているが、やはりミスリル武器は一流の証なのだろうか?
その後鍛練所に戻れば、二人はギャバンに呼ばれて輪の中に入っていった。
稽古を受けてる面々が力なく崩れ落ちては、強制的に立ち上がらせてを繰り返す様は、ある意味きついな~とか思ったが、ヒカリは大層満足しているようだった。
「残念、本当は私がやりたかった」
と、ちょっと物騒なこと言ってたけど。
流石にそれを聞いたセラは苦笑してたけど、否定はしなかったな。
さらに熱を浴びていく様だったので、飛び火する前に退散することにした。
「しかしあれだね。主様が聖王国でしたことを聞いていた身としては、守護の剣と揉めた時に一悶着あると思ったけど、それがなかったのは魔石のためかい?」
「まあな。元々深く潜るつもりはなかったし、最前線で戦っているクランだ。普通じゃ手に入れることが難しい魔石も持ってると思ってな。何かあった時に使えると思ったんだよ」
セラには呆れられたが、それこそお金を出したからといって確実に買えるかも分からなかったし。弱みがあれば、入手できる可能性を上げられると思っていたんだよな。
「主、腹黒い」
辛辣な言葉だ。せめて策士と言ってもらいたかったよ。
「それじゃ三人と合流して、どっかでお昼でも食べるか?」
その言葉を聞いたヒカリは、次々と屋台の名前を上げては、セラに話し掛けている。
なんだかんだとこの街に来てから、かなりの日数が経っている。詳しくもなるはずか。
今のアイテムボックスなら収納したものを鮮度を保ったままにすることが出来るから、少し多めに買っておいてもいいかもしれないな。
そのことを伝えると、ヒカリは嬉しそうに頷き、俺の手を引いて歩き始めた。
別に屋台は逃げたりしないんだけどな。
セラを見るとその姿を見て苦笑しているが、少し嬉しそうだ。
「セラ姉も一緒に選ぶ!」
ヒカリに呼ばれてセラも合流し、三人で手を繋いで歩くことになったが、ヒカリが満足してるようだから諦めた。
一応交通の邪魔にならないように、道の端を歩いて行きましたけどね。
合流した時にその姿を見られてセラはルリカから
結構な……いや、食事というには多すぎるお金を散財することになったが、これからの旅のことを考えれば必要経費かな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます