第216話 マジョリカ・26
「皆には心配を掛けてしまったようですわ」
料理の下準備を終えて湖の際で足を浸して、ヒカリたちが戯れているのを眺めていたらレイラがやってきた。
大胆な水着姿に思わず驚きの表情を浮かべると、レイラが慌てた様子で弁明してきた。赤か……。
「こ、これはタリヤが悪いのですわ! こんなのしか用意してなかったのですの」
レイラに内緒で話を進めていたようだし、確かに来るときにタリヤから荷物を押し付けられていたのを思い出した。
それでも律儀に着替えるのは、やはり皆が心配して気分転換にここに連れてきたからなのだろう。
「ソ、ソラは着替えないのですか?」
「そもそも俺は水着なんて持ってきてないからな。見てるだけでも楽しいからいいよ。それに何も考えずにゆっくりするのは……久しぶりだし、こんな風に時間を使うのも悪くないかな」
マジョリカに来てからは、基本的にダンジョンのことを考えていたような気がするし、忙しなく過ごしていたような気がする。
う~む、会話が続かない。レイラも湖に足を浸けて、皆の様子を眺めている。女性の黄色い歓声と、男たちの熱い雄叫びが聞こえる。
なんか一際高い岩場が湖の中ほどにあって、そこから飛び込んでいる。
大きな水しぶきに女性陣の歓声が上がり、男たちは我先にと上っては飛び込んでを繰り返している。君たち、良いようにコントロールされてませんか?
「楽しそうですわ」
「レイラも混ざってくればいいじゃないか。それとも泳げないとか?」
「お、泳げますわ。ただ……」
言い淀む理由はケーシーのことがあるからだろう。聞いた話では、レイラを庇ってブレスを受けたという話だ。
それに関してケーシーと話す機会があったが、本人はレイラを守ることが出来て凄く満足していた。主従の関係というよりも、心底レイラを慕っているのが、言葉の端々から伝わってきた。
「まぁ、色々考えても仕方ないだろ? なるようにしかならないさ。それに……」
「それに?」
楽しそうに話すヒカリたちを見る。せっかく仲良くなれたようだが、その関係も終わる時は近い。
「良い思い出作りになると思ってな。そろそろマジョリカを発とうと思ってるから」
隣で息を呑む音が聞こえた。
「セラたちの事情は話したことがあったか?」
「……少しだけ聞きましたわ」
「そろそろその続きをね。ダンジョンでお金も稼げたし、経験もそれなりに積めた。何処かで区切りを付けるのは必要だと思ってたけど、今回の機会はちょうど良いかなってね」
「何処に行きますの?」
「ルフレ竜王国。ルリカたちがまだ行ったことがない国らしいしね」
「…………」
「だからヒカリと遊べるのは今だけだぞ?」
ちょっと暗い雰囲気になったから、努めて明るく言ってみた。
横をチラリと見ると、ちょっと呆れた顔をされてたけど。
その後少し話をしたら、パンと頬を叩き皆の輪の中に向かって行った。空元気でも、それが気分転換になることで心の持ちようが変わることだってある。それがブラッディーローズの面々の狙いなのかもしれない。
代わりにやってきたのはヒカリとミアだった。
ヒカリはフィットネスタイプの黒色の水着仕様で、ミアは白のビキニタイプだが、腰にはパレオを巻いている。
ミアは意外と着やせするタイプなんだよな、って、変な邪念を浮かべるとまた睨まれそうだから思考を切り替えよう。
「主、疲れた」
「冷たくて気持ち良いですよ」
二人に果実水を渡すと、両隣に腰を下ろした。
ヒカリは足をぶらぶらさせて、水面に波紋を広げている。それが楽しいのか、タイミングを変えて足を動かしている。
「さきほどレイラと何を話してたのですか?」
「ああ、そろそろここを発つって話をしてたんだ」
「……そうですか……」
「ミアはどうする?」
「もちろん付いて行きますよ。それは……別れは悲しいですが……」
「そっか……」
これは時々パーティーの中で話していたことだ。
そしてエルザとアルトを連れて行けないということも。もちろんミアにはここに残る選択肢もあるとは伝えたが、一緒に行きたいということだった。奴隷だからというのもあるのかもしれないけど。
「さて、そろそろ夜御飯の準備を本格的にするか。ヒカリたちはどうする?」
「私も手伝う」
ヒカリが手伝いを申し出てきたから、二人に洗浄と乾燥の魔法をかける。
さすがに日が暮れればそれなりに寒くなるだろうから、着替えてくるように言う。少し残念な気もするが……。これがお昼御飯ならそのままでも良かったのにな。
料理場に火を焚き、下ごしらえしていた鍋を掛けると、串焼きを準備していく。本格的に焼くのは皆の着替えが終わってからでもいいだろう。
火にかけた鍋がグツグツと煮立ってきた頃にヒカリが戻ってきたから、丁寧に教えながら仕上げの調理を行う。
といっても基本的にあとは調味料を入れるだけだが、特に注意するのは必要以上に入れないこと。あとは使わない調味料は決して外に出さないこと。
いずれは計量カップみたいなものが作れれば、と思っている。
どうもヒカリに任せると、最初はしっかり料理出来ているのに、最後の味の調整段階で色々と混ぜすぎることが判明した。だからそれさえなければ、普通の料理が出来る。はず! だと思っている。
やがて他の人たちも湖から上がって来たから、串焼きを焼いていく。
そこの男子よ。わざわざ生活魔法をしてもらいに女性陣に話し掛けるな。魔法使いの彼が少し寂しそうにしているぞ? と思ったら、女性陣に生活魔法アピールをし始めた。
まぁいいか。その後食事を楽しみ、テントで宿泊。男性陣に混ざって寝たら、誰が本命かや、誰がいいかの話をしたが、実際のところはどうなんだろうな……と考えたが、結局眠気には勝てなくてそのまま眠りに付いた。
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