第215話 マジョリカ・25
「それで今日は何処に行くのですの?」
タリヤから持たされた荷物を持って、レイラが言ってくる。出で立ちは一応冒険者ルック。街の外に出るからね。
三日前にヨルと会った時に、ある相談を受けた結果だ。と言っても、俺も行き先は知らない。女性陣は知っているようだけど。
南門に行くと、そこにはブラッディーローズに金貨千枚、希望の灯の面々がいる。男性陣が大きな荷物を背負っているようだが……うん、俺も今朝色々と荷物を持たされた。
「それではお姉様、行きましょう!」
誰が言ったか分からないが、ワイワイと女性陣が歩き出し、それに黙って続くのは男たち。
「ありがとうございます。メンバーと無事再会出来たのはソラさんのお陰です」
とはトット。むしろ一人であそこまで来た方が凄いと思う。帰還石を使えばもっと安全に戻れたんじゃないか聞いたら、それは万が一にも使えるようになるかもと思い、レイラに持たせていたって話だったな。
それとトットと一緒に逃げてきた冒険者だが、正確には別々に脱出を試みた方の唯一の生き残りだが、彼はボースハイル帝国から来た冒険者の一人らしい。言われて思い出した。確か光剣だったっけ?
罠を発動させ、さらには自分が逃げるために最後にトットに魔物を擦り付けるなど、色々問題行動を起こしているため収監されているようだ。確認後、犯罪奴隷として処分されるのではないかという話だ。
あと何故トットが単身でそのような危険なことをしたのか聞いたら、ブレスで被害に合った中の二人が、パーティーメンバーだったというのがあったようだ。
「ただ、うちのヒノがご迷惑を掛けてしまい……申し訳ございません」
と、その後謝られた。
どうもフルポーションの情報の発信源の一つがヒノのようで、それを気にしたようだ。
ちなみにヒノは現在謹慎中らしい。もっとも騒動はヒノの話を聞いた店の店員が話を広げたのが原因のようだが、それを知った母親の怒りが炸裂したらしい。
商人にとって情報は大事だし、それを迂闊に広げたことに対して根性を叩き直すとトットは言われたらしい。
南門を出ると、川沿いに沿ってそのまま南下して行く。
街道から逸れているため整備はされていないが、通る者が多いのか地面は踏み固められている。
しばらく進めば川は森の中に入って行く。もちろん俺たちもそれを追いかける。
気配察知を使うと小さな反応を無数捉えた。小動物が多いは、魔物の反応はない。
風が吹くとざわざわと木々が揺れるが、音はそこまで大きくない。少し離れていたからかもしれない。これが森の中だと凄い音量になって聞こえてくるんだよな。動物の鳴き声だって不気味に聞こえてくるし。気配察知がなければ、精神の消耗が激しいに違いない。見えないというのは、それだけで恐怖心を掻き立てるんだよな。
「ヒカリ、ちなみに何処に向かってるんだ?」
隣を歩くヒカリに尋ねた。一応一泊二日ということだけ聞いている。
「着いてからのお楽しみ。きっと主ビックリする」
「そう言われると余計に気になるぞ」
あ、笑って誤魔化すようだ。こういう時はヒカリはだんまりだから黙って歩くとするか。しかしだいぶ自然に笑えるようになった姿を見ると、それだけでも感慨深いな。
それにダンジョンと違って、気を張る必要がないからのんびり出来そうだ。人が多いというのもあるが。
しかし、女性陣は楽しそうに談笑して歩いているが、男性陣は結構な重量物を背負っているようで余裕がなさそうだが? 持とうかと聞いたら大丈夫だと頑なだったが、何かと戦っているのだろうか?
目的地に到着した時は、何人もが力尽きていた。大丈夫か?
「俺たち頑張った」
「そうですね。僕たちは頑張りました」
凄いやり切った感が男たちの方から漂っていた。
全然疲れていない俺は場違いか?
俺は改めて周囲を見回す。川の終着点にあったのは大きな湖で、太陽の光を反射してきらきらと輝いている。和むな~。女性陣もその風景を眺めて騒いでいる。一人を除き、だが。
「ここが目的地なのか?」
「うん、ここ」
ヒカリに尋ねたらそうらしい。
「それでここで何をするんだ?」
「気分転換みたいです。皆さん、レイラさんのことが心配だったみたいです」
クリスもやってきてここに来た経緯を説明してくれた。
ケーシーのことで思い詰めていて、見てられないというのが学園生の一致した意見だったようだ。それで少し気を休められる場所ということで、ここに来たそうだ。
マジョリカ近郊にある場所として、学園生の間では密かな人気スポットとして知られている場所の一つらしい。
まぁ、自然をのんびり眺めるのもいいだろう。水も綺麗だし、心地よい気温の中で冷たい水に足を浸しているだけでも気持ち良さそうだ。
「主、荷物頂戴」
アイテムボックスからアイテム袋を出しヒカリに渡す。
簡易小屋があるようで、女性陣が順番に入って行く。男たちはそれを見て少しそわそわし始めたが、まずはテントを張るためにそれぞれが動き出した。
俺はと言うと、料理の準備を頼まれた。
ここに来ても俺の立位置は変わらないようだ。材料を多く渡された時から何となく予想はしてましたけどね。
土魔法で簡易の調理場を作ると、鉄板やら鍋やらを用意していく。
お昼は各自がお弁当を用意してそれを食べただけだったからな。温かいスープに、あとは定番の肉……だが、ここはバーベキュースタイルで野菜もいれた串焼きでいいだろう。もっともこっちは今から作ると出来上がりが早くなりすぎるから下準備だけだな。
「ソラ、手伝いましょうか?」
鍋に火をかけていたら、背後から声を掛けられた。
何気なく振りむいて、思考が停止した。
……
…………
………………下着?
いやいや、まさか水着か?
「あ、あの。そう真剣に見られると恥ずかしいのですが……」
クリスの声で我に返った。
「あ、ああ。ちょっと、いや、かなりびっくりした」
一応肩掛けのようなものを纏っているが、いつもよりも露出多めだ。
「主、料理中?」
そうこうしてたら次々と女性陣が水着に着替えて姿を現してきた。
それを見た男たちの手が止まったようだが、それは仕方ないことだと俺は思う。
「もしかしてこれが今回来た目的なのか?」
「うん、そう。水遊び? らしい」
ヒカリは水遊びが何かを良く分かっていないようだったが。
なるほど、何故わざわざこんなところまで来たのか分からなかったが、確かに気温も上がっているし、水で涼むには良いのかもしれないな。
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