第214話 マジョリカ・24

 ボーゼンの工作が成功したのか、周囲の雑音が消えた。

 仕事が早いな。実際良質の薬草各種が翌日には届けられて、それでポーションを作成した。お眼鏡にかなわない、品質が少し悪い奴もあったが、それも使用した。

 フルポーション用には出来ないが、効果は普通だから自分で使うなり売るなりは出来るはず。

 最終的に石化治療薬は九本完成した。昨日作成して一本使ったから、これで在庫が一二本か……最低でも百二十日分になるが、一本はサンプルで錬金術ギルドに持ってくか。

 残りの魔石の大きさと石化袋内の残量から、出来て三本か?

 レイラには症状が進行したら使ってくれと渡しておいた。お金は……価格が分からないんだよな。クリスに相談したけど、分からないって話だったし。これもボーゼンに聞くか? 大金を平気で支払いそうだよな、あのおっさん。

 ということで錬金術ギルドにも訪問した。ギルドカード兼報酬をもらい、代わりにポーションのサンプルを渡した。白金貨四枚はカードで、他は金貨以下、主に銀貨と銅貨でもらうことにした。その事も想定されていたのか、既に用意されていた。


「なるほどなるほど、これがそうか!」


 凄くイキイキしてたな。

 石化治療薬の値段を聞いたら、やっぱ結構な金額を言ってきた。まだ未完成なんだけどな……。

 早速フルポーションの作成を行っているようだが、進捗状況は芳しくないらしい。

 やはり錬金術士が作るポーションは一人で全てを作るわけでなく、回復薬なら回復薬で作る人がほぼ固定になっていたみたいだ。

 その理由は、やはり錬金術の腕で回復ポーションは作れるがマナポーションは作れなかったり、失敗が多いなどがあるため、効率を求めるため担当が決まっていたみたいだ。

 その後街中を少し歩き回り、お昼を屋台で食べたらここで二手に別れた。

 俺とクリスはマギアス魔法学園に向かいレイラと合流し、ヒカリたち四人は明日からの準備をしに買い物に出掛けた。


「調べものですか?」

「ああ、学園の図書館で月桂樹に関する資料がないかを確認したいんだ」


 ということでレイラと合流して学園の図書館に。


「あら~、今日は珍しいお客さんがお二人~? もしかして本格的に入学されたのですか~?」


 相変わらずの口調で気が抜けそうになる。


「少しアイテムのことで調べたいことがあってな」

「そうなのですか~? その手の資料となるとあちらになりま~す」


 通されたのは端の方にある棚だった。

 レイラは少し離れた棚の前に立ち、資料を手にとっては忙しそうにページを捲っている。その横顔は真剣で、鬼気迫るものがある。


「それじゃ調べてみるか」

「それではごゆっくり~。何か御用がありましたらお声を掛けて下さ~い」


 セリスはそれだけ言うとスーと離れていき受付に腰を下ろしてた。手には何やら本を持っているが、少し気になるな。


「……ソラ、あの人……」

「ああ……分かるのか?」

「前は分からなかったのだけど。今なら分かります」

「……話してみるか?」

「……止めておきます。あの人にも事情があると思いますから」


 二手に別れて黙々と調べていく。

 ページを捲る音だけが鳴り、時間だけが過ぎていく。

 本自体は薄いが、目次があるわけではないから、結局一ページ毎確認しないといけない。絵柄が載っていると区切りが分かりやすいが、決まった書式があるわけでもないため、はっきり言って読んでいくのが大変だ。

 持ってきた本の山が片付いたが、欲しい情報は見付からない。凝り固まった体をほぐし、本を元に戻すと次をまた持ってくる。

 クリスも集中して調べているのか、目元を押さえている。

 二人で作業しているが、まだまだ残っている本は多い。興味深いアイテムの記述はあるが、残念ながら欲しい情報じゃない。


「エリクサーね……」


 伝説級のアイテム。これがあれば治りそうだが、国が管理するレベルのアイテムのようだ。説明には死人すら蘇らせるとある。何処まで本当かは謎だが。

 入手方法はダンジョンの宝箱か……。


「ご興味がおありで~?」


 びっくりした。気配察知を使っていないとはいえ、接近されるまで気付けなかった。暗殺者になれるレベルじゃない? 実際に気配察知を使っても、気配が希薄なんだよな、この人。結局人物鑑定がMAXになっても、見れないことが多いことが分かっただけなんだよな。


「……確かにこれがあれば問題は解決出来そうだけどな」

「ん~? どなたか死にそうなお知り合いでも~?」


 チラリとレイラの方に視線を向ける。

 そう言えばレイラは何を調べているんだろうか?


「石化治療薬を完成させるために月桂樹の実について調べてたんだけどな。少なくともどの本にも載ってないんだ」

「あ~、月桂樹についてですか~。治療薬と言うと~、ダンジョンの件ですか~?」


 もう一度レイラの方を確認するように見ている。多少は事情を知っていると判断してもいいのだろうか?


「ああ、コカトリス被害の件だ。どうしても完治出来ない人がいてね。それで完全に治すのに月桂樹の実が必要なんだ」

「……そ、……いえ~、確か月桂樹ですか~……竜王国に確かそのような樹があったと思います~?」

「それは本当か?」


 まさか知っているということか!


「え~、と。確証はありませんが~、以前そのような話を聞いたことがあるというだけでして~、自信はありませんよ~?」


 チラリとクリスを盗み見ると、緊張した様子で頷いていた。

 他にはダンジョンの宝箱から見付かったという記録があるらしいが、もう何百年も前のことらしい。


 

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