第212話 マジョリカ・22
しっかりした足取りで歩き出すと驚かれたが、内情を知るクリスたちはすぐにそれに気付いたようだった。レイラは驚いたままだったが。
ケーシーの部屋に通されると、今眠ったところだと看病していたメイドさんから聞かされた。
鑑定してみると、確かに状態が変化していた。
【状態異常石化・停止中】が、【状態異常石化・継続中】になっていた。
断ってパジャマの袖を上げたら、石化の範囲が広がっている。
「ミア、リカバリーは毎日使っていたのか?」
作業の準備をしながらここに戻ってからのことを聞く。
毎日リカバリーを唱えていたが、特に変化、効果はなかったそうだ。
まずは俺の作ったポーションでフルポーションを四本作る。問題なく作れたな。驚いたことに、MPの消費量も全然少ない。やっぱあの環境が劣悪だったんだろうな。
それを使って次に石化治療薬をそのまま作成。まずは一本……完成だ。
「とりあえず使ってみてくれ」
レイラに渡したが、今眠ったところだって話だった。が、しばらくすると目覚めた。痛みで目を覚ましたとのことだ。
「お嬢様……」
「ケーシーこれを。ソラが作ってくれました」
レイラの後ろに控える俺たちに気付いたのか、礼を言って頭を下げた。それだけの動作でも、少し辛そうに見えた。
レイラが石化治療薬を飲ませると、落ち着いたのか再び眠りに落ちた。鑑定すれば、状態異常石化・停止中になっている。
どうも石化状態が継続中だと、定期的に痛みに襲われてろくに眠れないとのことだ。一応緩和する術はないかと、色々と試しているとのことだが。
しかしケーシーの状態だけ治らないのは謎だ。
ただ他の五人との差はある。石化している範囲が広いということ。
レイラの話だと、自分を庇ってブレスを少し長めに受けていたという話だから、その辺りが関係しているかもしれないが、それを確かめる術はない。
現実として、ただケーシーの石化が完治していないという現実がここにあるだけだ。
「ありがとう、ソラ。本当に助かりましたわ」
「とりあえずあと三本渡しておく。……飲んでから十五日ぐらいで効果は切れるのかもしれない。その辺りは要確認だな」
「そうですわね。看護する者には注意するように伝えておきますわ」
あとは既製品のポーションでフルポーションが出来るか確認するか。
「もう少し錬金術でポーションを作りたいがいいか?」
「……他の部屋でやるよりは、ここでの方が良さそうですわ。私はケーシーの様子を見てますわ。だから終わったら声を掛けて下さい」
ということで早速試すことにした。まずは鑑定して一本ずつ品質を確認していく。
品質は良が何本かあるが、残りは普通のようだ。
まずは品質が良の三本を除き、色々と掛け合わせて作って行く。
結果。四本作製し、品質低のフルポーションが一本出来て、他は失敗した。
なら品質良を合わせたポーションはどうかというと……品質普通のフルポーションが出来上がった。
素材となるポーションの品質が関係しているのは間違いないが、他にも条件があるのだろうか? 検証するには試行錯誤した回数が少なすぎるな。
ただ俺が作ったポーションだと失敗しない。基本俺のポーションは品質良のものしかないが、出来たフルポーションも品質は良なんだよな。
「何か分かりましたか?」
「専門家じゃないしな。ただ少なくとも、品質は関係していると思うんだけどな……」
ただそんな単純じゃないだろう。それなら既製品の品質良で作ったものの品質が、何故普通になったのか理由が分からない。
その時ドアがノックされ、アルトが入って来た。やっぱメイド姿なんだな……。
「レイラしゃま。だんなしゃまが呼んでいます。ご主人様もでしゅ」
緊張して声が震えているが、それはレイラに対してだよね? 俺、怖くないよ?
「ヒカリたちはいいのか?」
「はい……」
だけど付いて来るんだな。最終的に部屋には入らず、そのままお屋敷の掃除をするそうだが、今までサボってたということなのか? わからん。その辺りを聞いておいた方が良いのかもしれない。
「わざわざ来てもらってすまないな。厄介な奴が来たものだからな」
あからさまに大きなため息を吐いて、隣に座る男をチラリと見た。
一人は完全に知らない男で、立派な口髭の中年男。もう一人は顔見知りで守護の剣のリーダージェイクがいた。
「うむ、初めまして。ソラ君だったかな? 吾輩の名はボーゼン。この街の錬金術ギルドのギルドマスターをしているのである。要件は必要かな? かな?」
またなんか濃い奴が来たな。顔に出てたのか、ウィルとジェイクが苦笑している。
「ポーションの作り方を知りたいと?」
「その通りである。あのポーションのだがな。確かフルポーションだったかな? あとは君の作る石化治療薬のことも知りたいな! ああ、もちろん見返りはあるし、無理なら無理と断ってくれても良いぞ。技術とはその者の宝であるからな」
無茶なことを言って来るかと思ったが、結構良識な人なのか。
「あ~、ボーゼンさんは強引じゃないけど、その、しつこいですわ」
と、小声でレイラが教えてくれた。
本人は涼しい顔でお茶を飲んでいる。言いたいことは言ったみたいな空気を出しているし。
「そうだな。無理がなければ私からも頼みたい。それにこの男に貸しを作っておくと結構便利だ。こんなんでも有能だからな」
「何を言うのである。有能以外の何者でもないのである。これだからウィルは駄目駄目なのだよ」
ちなみに二人は親友らしい。ついでにジェイクの父と三人で、若い頃は結構無茶をしたらしいと、レイラは古株の老執事から聞かされているらしい。
「ん~、正直分からないことがあるから自分たちで調べながらやってくれるならそれでも構わないかな。もちろん見返り次第だが?」
「なるほど、なるほど。話が早い若者は好感が持てるぞ。では早速……商人どもを黙らせるのである。あとは……何がいるかな? ん~、何だったら錬金術ギルドのギルド員の証を無償で進呈しても良いかな。年会費も払う必要なし!」
楽しそうに言ってくるな。しかも……聖王国で商業ギルドと揉めたことも調べてあるような感じだな。
「そうだな……」
なら幾つか条件を追加して、呑んでくれるかを確かめるか。一人では限界もあるしな。
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