第211話 帰還・2

 目を覚ましてまず視界に飛び込んだのは白一色のキャンパス。意識が徐々に覚醒していくと、柔らかい何かに身が包まれていることに気付く。

 首を動かせば、そこがベッドの中であることに気付いた。


「ここは……」

「ここはレイラさんのお家ですよ」


 思わず呟いた言葉に返事があった。

 声の方に顔を向けたら、そこにはクリスがいた。


「ダンジョンで気を失ったのは覚えていますか?」


 その言葉に導かれるように、徐々に記憶が呼び覚まされる。

 確か二十七階を目指している途中、守護の剣のジェイクたちと合流し、そこで気が緩んだのか緊張を解いた時に、体に違和感……痛みを覚えてそのまま意識が遠のいていった。


「他の人たちは? 無事か?」

「はい。誰一人欠けることなく戻ってくることは出来ました」

「……そうか。ケーシーの石化は治ったのか?」

「それが……まだ治っていないんです」


 石化治療薬が効かなかったというのか? 確か聖王国の道具屋で、強い毒には品質の高い解毒薬が必要なことを聞いたことがあるが、町に戻って来てもそれがないということなのだろうか?

 体を動かそうとして、体重いことに気付いた。


「ソラはあれから十日も寝てたんですよ。今ミアを呼んでくるから待っていてください」


 そう言うと部屋から出て行った。ヒカリなら飛び出て行きそうだけど、クリスはその辺り弁えているのか静かに出て行ったな。

 そうか、あれから十日も経っているのか。

 ステータスを確認したら、全回復していた。

 スキルのところに付いていた謎の文字化けもなくなっている。

 やはり魔力が乱れた場所で、魔力を著しく消費して、さらにはMPがゼロにまで行ったのが原因か? 単純に創造スキルの反動という可能性もあるけど。

 ……その可能性は低いか? MPの大量消費とかは錬金術でも経験したことがあったし、やはりあのダンジョンの環境がそうさせたんだろうな。そもそも罠発動前は普通の階と変わらないって話だったし。


「ソ、ソラ。大丈夫なんですか!」


 ミアが慌ただしく入って来た。ダンのおっさん……どういう教育してたんだよ。聖女のイメージが崩れていくな。聖女なんて幻想だったんだ……。

 まぁ、それだけ心配してくれてるんだと思うとするか。

 近付くなりヒールとリカバリーをかけられたから、流石にそれを見るともう少し落ち着こうと思うが。


「主、大丈夫?」

「まったく、心配したのよ」

「主様、大丈夫かい?」


 どうやらミアだけでなく三人も付いてきたようだ。


「ああ、大丈夫だ。それより何かあったのか?」


 皆首を傾けているけど、そう聞くのも仕方ないと思う。

 改めて五人を見れば違和感しかない。何故その恰好? まさかのメイド服だった。

 詳しく話を聞くと、今現在、借家を引き払ってレイラの家に皆お世話になっているという話だ。

 そもそも何故レイラ宅にいるかというと、商人や商業ギルド、錬金術ギルドから人が多く来たかららしい。その原因となったのが俺がダンジョン内で作ったフルポーション。と、石化治療薬。あの時一緒に行動していた何人かが口を滑らしたらしく、そこから情報が漏れてちょっとした騒動になったとのことだ。

 それでレイラの提案でこちらに移動してきたとのことだ。流石に領主の家にまで押し掛けるほどの猛者は……一人を除きいなかったらしい。


「ただお世話になってるのも暇だから、こうして働いているのよ。下手に外に出ると人が寄って来て鬱陶うっとうしいし」


 ルリカの言葉に、ヒカリとセラも頷いている。特にヒカリはお冠だ。なんでも屋台の食べ歩きが出来ないかららしい。


「エルザとアルトはどうなったんだ?」

「二人もここで働いています。レイラさんは、このままの状況が続くなら、お二人を雇ってくれると言ってくれてます」

「そっか……」


 この町は何れ去る予定だし、その方が二人には良いのかもしれない。

 その時ドアがノックされ、扉が開いた。顔を出したのはレイラだ。


「ソラが目を覚ましたと聞きましたの」


 目が合ったので手を上げて応えた。

 それを見たレイラはホッとしたような表情を浮かべて、次に申し訳なさそうな顔で言ってきた。


「目覚めたばかりで悪いのですが、少し宜しいです?」


 話を聞いたら、ケーシーについてだった。

 石化治療薬を与えても効果がなく、このところはミアが時々リカバリーを唱えていたが、今日になって症状が悪化したという。

 それで俺が作った石化治療薬がまだないかという話だった。


「俺が渡したポーション類の在庫はどうなってる?」

「少しだけどあるよ」

「はい、私も預かった分を用意してますわ」


 ルリカとレイラから受け取ったポーションは、回復七、マナ四、スタミナ六だった。道具屋で売っている既製品は各五本ずつあったが、品質にばらつきがある。


「とりあえずケーシーの様子を見てからだな。作るのはたぶん問題ないと思うが……」


 ベッドから抜け出し地に足を付け、歩いた瞬間体から毒素が抜けるように、気怠さが抜けて行った。

 これでこそ、我が相棒だ。

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