第210話 帰還・1

 石化治療薬を使用した結果。三人の完治がみられ、もう一人は追加で使用されたリカバリーの結果完治した。

 そして残り一人は……右半身の手と足の先の方の石化が治らず、未だ灰色に染まっている。鑑定をすると、状態異常石化・停止中となっていた。

 リカバリーをかけたミアもトリーシャも首を振って駄目だという意志を伝えてきた。


「とりあえず戻って治療薬を試してからだ。ここではこれ以上、出来ることはないからな」


 俺から言えることはそれぐらいしかなかった。

 レイラは最後まで悔しそうに、というか感情を必死に抑え込もうと両の手を強く握りしめていた。

 ケーシー、彼女だけが完治出来ずにいた。

 それから二日後。石化していた人たちの体調の回復具合を見て、移動を開始した。

 帰還石の使用は出来ないようだったため、道の分かっている二十七階に向かうことになった。二十七階だと帰還石が使用出来るのは、確認しているからだ。

 移動速度は遅かったが、確実に一日一日距離を稼ぐことが出来ている。ただ魔物との戦闘があるため、どうしても最速で進めているとはいえない。

 食料に余裕はあるが、消耗品の類に余裕がないため、慎重に行かざるを得ないからだ。本調子じゃない者も多くいるのも影響している。


「大丈夫なのですか?」


 クリスの言葉に力なく頷くのは俺。移動を開始してから違和感を覚えた。

 歩いていれば(ほぼ)無敵なはずなのに、体に痛みを感じ始めた。ステータスを見ると、徐々にHPが減っていき、MPも下がっては回復してを繰り返していた。

 背負子でケーシーを運んでいるとはいえ、今まではその何倍以上もの重いものを平気で背負っていたことがあったのに、だ。

 異変に最初に気付いたのはクリスで、ついでミアとレイラが気付いた。

 俺の近くを歩いていたというのもあるだろう。

 ただあまり心配をかけさせるのも悪いと思い、ミアに頼んで内緒で定期的にヒールをお願いしていた。

 今のこの集団には、それほどの余裕がない。張り詰めた雰囲気に包まれて、半数以上の人が緊張しながら移動をしている。罠後、魔物の集団に襲われた時の衝撃が、まだ残っているのだろう。

 事実コカトリスは討伐したが、まだ未知の魔物もいるかもしれない。実際にアンデッド以外の魔物が普通に徘徊しているのを目撃すれば、嫌なことを思い出すのも仕方がないのかもしれない。


「あとどれぐらいで階段に着けそうなんだ?」

「今三分の一進んだぐらいさ」

「順調に進めて十日ぐらいか? この距離を一気に駆けて来たなんて、無茶するな」


 カールの言葉にセラが答える。

 そんなことはない。今は一日の移動時間よりも休憩時間の方が長くなっているからだ。

 ただ明日からはもう少し長い時間移動出来そうだ。話を聞くに、体の調子がほぼ通常の状態に戻ったという話だからだ。

 むしろ俺の状態の方が心配なんだよな。座って休憩している時の方が回復力がいい。実際ステータスを見た時に、ウォーキングスキルの説明項目に、


効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1習得)」※現〇△✕◇中


 と、謎の解読不明の文字が付いている。

 魔力操作で自分の体を視て見ると、どうも魔力の流れが悪い。乱れている。

 それから料理以外の時は黙々と歩いた。人を運んでいるということもあって、戦闘に参加することはなかった。商人の肩書を持っていることもあったが、概ね料理人のポジションに今回も収まっているようだ。

 そして残り三分の一の距離まで近付いた時に、前方から二十人ぐらいの集団の反応をMAPが捉えた。


「止まる。何か来る」


 ヒカリの言葉に集団が停止して武器を構える。

 いつでも攻撃出来る準備をしていたが、この反応は魔物じゃない。

 事実角から姿をのぞかせたのは、冒険者の集団だった。さらにその中に見知った顔があった。


「レイラ君。無事かい?」


 アッシュはレイラに気付くと近寄ってきて無事を確認している。


「先輩こそどうしてここに?」


 突然のことに混乱しているようだ。


「ギルドから要請があってね。ただ人数が集まらずに時間がかかってしまった。お父上も心配されていたよ」


 ジェイクがゆっくりと近付いてきた。

 話を聞くと、複数のクランの混成部隊のようだ。

 守護の剣からは他に三人参加しているようだ。


「……顔色が悪いが大丈夫なのか?」


 ジェイクが表情一つ変えずに聞いてきたが、声音から心配してくれていることが伝わってくる。

 最初は堅苦しい感じで近寄りがたかったが、確かに注意してみると、なんか肩肘張って無理して振る舞っているような感じを受けなくもない? アッシュから聞いていたが違いが分からないな。


「……大丈夫だ。それよりも治療薬はあるのか?」

「ああ、アッシュ」


 背負子を下ろし、アッシュの持ってきた石化治療用のポーションをケーシーに飲ませた……が、効果はなかった。

 それを見た皆は困惑していた。事実、普通なら治るはずなのに効果がなかったからだ。


「どういうことだ?」


 ジェイクの言葉が、皆の心境を代弁しているようだった。


「とりあえず、一度……」


 と、そこまで言ってグラリと体が傾いた。

 踏ん張ることが出来なくて膝を付いた。体が重い。


「ソラ……」


 その言葉を最後に、意識が闇に包まれていった。

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