第209話 創造・3

「ん、何をしてるのかな?」

「そうですわ。何をしてますの?」


 声が上から降ってきた。

 その声に目を開けたら、覗き込むように見るルリカとレイラの顔があった。

 ……確か昨日は、というか寝る前は……。

 創造のスキルを使って体がボロボロになって、ヒカリから眠るように言われて……。

 と思い出し体に体重が掛かっているのに気付いた。

 そちらを見ればヒカリが抱き着いて寝ている。久しぶりだな~と現実逃避をしたいところだがそうもいかない。

 体を起こそうとしたら、その反対側に温かさを感じた。首だけ動かしてみれば、クリスが寄りそうように寝ていた。

 動いた拍子に振動が伝わったようで、「ん……」と声を漏らして目を覚ましたようだ。

 フード越しに視線が合わさると、クリスの顔が徐々に赤くなっていくのが分かった。近距離だしな~。

 変に意識してもまるで悪いことをしたと認めているようなものなので、平静を装って体を起こす。

 するとヒカリも目を覚ましたようで、目をごしごしと擦ってキョロキョロとした。

 目が合うと言われたのは、


「主、お腹空いた」


 だった。今日もヒカリは平常運転だと思い逆に安心させられる。


「ご飯の用意をするな。説明はその時にするよ」


 ということで、簡単に昨夜? のことを説明した。

 ヒカリとクリスの援護射撃もあり、どうにか二人の撃退に成功した。疲れていたし、そのまま寝てしまうのは仕方なかったんだ……。その後のことを問われても、俺の知らぬことだし。

 食事を配り終えたら、まずやることは昨日作った治療薬の効果確認だ。

 本当は本数を揃えてからの方が良いと思ったが、効かないと意味がない。もちろん未完成の文字が付いているから、完治はしない可能性も考慮しないといけないが。

 ダンジョンから脱出出来たら既製品の石化用の回復薬があると思うから、とりあえず少しでも治ればと思う。


「カールさんよろしいですの?」


 ということで、レイラに相談したところ、まずはカールに説明してみてはと言われた。彼の双子の妹が比較的症状の軽い石化患者だからだ。

 最初胡散臭そうな顔をしたカールだったが、ミアとトリーシャからの声を受けて使うことを決めたようだ。


「カーラ、薬だ。飲めるか?」


 軽症ではあるが、衰弱が酷いようだ。

 体が石化する。しかも徐々に進行していくとなれば、抱く恐怖はどれほどのものか。徐々に体が動かなくなる感覚に、目に見えて石になっていく体。二重の苦しみに、恐怖に襲われていたのかもしれない。

 そのすがるような目が、そう物語っているように見えた。

 カールがカーラの体を支えて起こすと、治療薬を口元に添えた。祈るような思いで、瓶を傾けてゆっくりと流し込んでいく。

 ゴクゴク、と喉元が動き、やがて全て飲み終わるとホッと息を吐いた。

 それがカールのものか、カーラのものか分からなかったが、効果は劇的に現れた。

 ポーションも使った時は、慣れるまでは時間が戻るように瞬時に治っていくその様子に驚きはしたが、今回のそれも同じように目に見えた変化があった。

 灰色に変色していた肌の色が血色の良い肌色に変化していった。


「あ、あ……」


 と、カーラが呻き声をあげ、恐る恐る元の色に戻った手を開いて握ってを繰り返している。

 鑑定して見ると、【状態石化・継続中】という文字が【状態異常・なし】に変わっている。


「ミア、リカバリーをお願いしてもいいか?」


 リカバリーは状態異常のない人に使うと効果が表れないそうなので、時々確認のため使う時があるそうだ。ちなみに風邪には効果がないため、風邪をひいた人に使って他が問題なければ、リカバリーも反応をしないそうだ。


「リカバリー」


 ミアが唱えると、

 ………………………………

 …………………………

 ……………………

 ………………

 …………

 反応なし!


「あ、ありがとう。ありがとう」


 それを見たカールが顔をくちゃくちゃにして、涙を流しながら感謝の言葉を何度も何度も呟いた。

 カーラも何か言おうと口を開いたが、苦しそうに顔を歪めた。


「まずは体力回復だな。具材のないスープを用意するからそれを与えるといい。あとは体を動かしてなかっただろうから、徐々に動かしていけばいい」


 ということでスープを追加で作り、残りの治療薬を作る。

 大丈夫だと思うが緊張する。脳裏に蘇るのは、石化薬を創ろうとして創造スキルを使ったあとのこと。


「主……」

「大丈夫ですか?」


 その時のことを知っている二人が心配してくるが、一本ずつなら大丈夫なはずだ。それにフルポーションを二度目に作った時は、耐性がついたのか、それとも一度作ったからなのか、反動がほぼなかった。

 昨日の手順と同じようにアイテムを用意する。

 気のせいか、俺よりも周囲で見守る面々の方が緊張しているのは気のせいか?

 逆にそれを見て良い意味で肩から力が抜けた。

 結果、何の問題もなく石化薬が五本完成した。

 ふ~、と大きく息を吐くと、何故か周囲からも同じような音が聞こえた。

 後で分かったことだが、創造のスキルレベルが8になっていた。

 確かフルポーションを作る前は、レベル7で、熟練度も二割程度しか上がっていなかったのに……もしかしてレベルが上がったことで、反動がなかったのかもしれないな。

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