第208話 創造・2

 まず作るのはベースとなる回復薬。

 混ぜるな危険と良くあるが、三種のポーションを錬金術……じゃなくて創造スキルで合成したらどうなるかを想像してみた。

 イメージするのはフルポーション。所謂HP・MP・SPを一本で全て回復してくれる効果のあるポーション。

 三本を並べて魔力を籠める。三つが一つに合わさるのをイメージしながら創造スキルを発動する。

 体の中から力が一気に奪われるような感覚に襲われる。

 それに反比例するように手の中の光が燦々さんさんと輝く。

 やがて光が収束した時には、手の中に一本の瓶があった。

 鑑定するとフルポーションとある。想像通りの品が出来上がった。


「し、師匠……今のは⁉」


 ヨルが近付いて来て驚きの声を上げた。

 口を開いて答えようとして、倦怠感を覚えた。ステータスを見ると、MPだけでなく、HPとSPも大幅に減っていた。

 大きく息を吐いて、ジッとステータスを見る。ここまでHPが減ったのを見るのはある意味初めてかもしれない。まぁ、戦闘中はいちいち確認したことがないから、場合によってはこれ以上に減っていたことはあるかもしれないが。


「……今のは錬金術のようなものだ。少し試したいものがあってな」


 二本目を作るにしても、回復を待った方が良いだろう。

 突然スキルで作成したが、思いのほか目立ってないようだった。

 少し離れていたのもあるが、見張りをしている者以外は、皆疲労のためか眠っている。

 ヨルはちょうど目を覚ましたところの様で、何事か作業をし始めた俺に注目していたらしい。


「ソラ、今のは何ですか?」


 クリスたちもやってきた。どうやら解体が終わったようだ。

 アイテムを受け取り、一度アイテムボックスに保管する。


「今のは錬金術だよ。俺はもう少し作業するから、ルリカたちは先に休んでもらっていいか? 交代でセラたちにも後で休んでもらおうと思ってるから」

「……ソラは大丈夫なの? はっきり言って顔色悪いよ?」


 ルリカが心配そうに聞いてくる。スキルを使った反動が顔に出ているのかもしれない。


「初めて使ったスキルだったから加減が分からなかったんだ。次は大丈夫だと思う」


 絶対とは言えないが。それは言わずに言葉を呑み込んだ。


「そう、なら私は休ませてもらうわ。ミアも行きましょう」

「はい、クリスは休まなくてもいいの?」

「……クリスはお目付け役で。ミアは神聖魔法の使い過ぎで疲れてるんだから、先に休んだ方がいいよ」


 ルリカはそう言って、無理やり連行していく。強制的にでも休ませようと思っているようだ。その強引さ、クリスには出来ないからな。ルリカには感謝だ。

 と、その前にコカトリスの死体を回収しておくか。

 立ち上がり回収して戻ってきたら、八割がた回復している。


「それで何を作るの?」

「そうです師匠。治療薬が作れるのですか?」

「そこは何とも言えないかな。とりあえず……まずは人数分のポーションから作るよ」


 石化状態の子は全部で六人。あ、このままじゃ一本足りない。


「ポーション類が一本ずつ残ってないか?」


 その問いにクリスが渡してくれた。これで数が揃うな。本当は予備の分も欲しいところだが……。気合を入れて成功させるしかない。

 なので全回復したのを待って、フルポーションを作る。二度目は一度目と違って体への負荷が少ない。減ったのは一割もないが、少しだけ倦怠感を覚えたがすぐに回復して消えた。


「これをベースにして……ヒカリ、ちょっと良いか?」

「ん? 主どうした」

「この魔石を少し削って貰ってもいいか? 大きさは小指の爪ほどでいい。とりあえず六欠片へん欲しいんだ」

「ん、分かった」


 ミスリルの短剣に魔力を流すと、コカトリスの魔石を削っていく。魔力を流すのに少し時間が掛かったようだが、作業は問題なく終わった。


「ありがとうな」

「ん、治療薬作る?」

「そのつもりだ。って見張りはいいのか?」


 そのまま作業を見守る体勢のヒカリに尋ねたら、少しなら大丈夫だと言われた。

 まぁ、気配察知にも反応がないから大丈夫か?

 それにセラ以外にも、元からいる冒険者も見張りに立っているから大丈夫か。

 容器を用意して魔石をそこに置くと、魔石の欠片一つに対して、石化袋の中身……液体を少しかける。そこにフルポーションを注ぎ、創造のスキルを発動させる。

 先ほど以上の喪失感を体に覚えた。

 抜けていく。率直な感想はそれだった。何が、とは分からなかったが。

 手の中の眩しさのせいか、視界が霞み、見えなくなった。

 同時にお腹の方から込み上げるものがあって、吐き出した。

 さらに胃から、喉元へと上ってきたが、次は噛みしめて我慢した。

 お腹が……胃がうねるように暴れている気がして、治まるのをジッと我慢した。

 やがてどれぐらい経ったか、体に感じていたものがなくなり、落ち着いてきたら視界も戻った。

 少し頭がボーとして、思考に霞がかかったようになり、体が重い。

 それでも手元に目を落とせば、一本の瓶を握っていた。

 それを見てホッと息を吐いた。鑑定すれば、


【名もなき石化治療薬】効果。石化を治すことが出来る。品質・高。未完成品とある。


 未完成品? と疑問に思ったが、そこで声が掛かった。


「ソラ……」「師匠……」「主……」


 と声を掛けられて、続けて大丈夫かと聞かれた。

 何を言っているのか分からなかったが、三人が指差した先を見れば血が落ちていた。


「主、さっき吐いた」


 言葉の意味が分からなかった。横を見れば、クリスに体を支えられていた。

 ステータスを見れば、HPは二割を切り、MPとSPはゼロになっている。

 さらに自然回復で回復するはずなのに、数値の上昇率が鈍い。まるでさっきの戦闘後と同じよう? いや、それ以上に遅く感じる。


「ソラ、これ以上は無理です。顔も真っ青ですし。休んで下さい」

「そうです師匠。師匠だってここまで無理して来てたはずなんですから」

「主休む。寝るまで離さない」


 ヒカリが抱き着いてきて、下から顔を覗き込んできた。

 その瞳は揺れていて、心配させていることが痛いほど伝わってきた。

 確かに今の状態だと、二本目を作成するのも無理か。


「分かった。今日は休ませてもらうよ」


 言葉と一緒に張り詰めていたものが切れたのか、そこで俺は意識を失った。

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