第207話 創造・1

 タリアたちが来るよりも先に、ルイルイが戻ってきた。

 その後ろにはヒカリたちの姿がある。遠目で分かりにくいが、特に大きな傷を負った者はいないようでホッとした。


「ソラ、大丈夫ですか? それにレイラも」


 ミアがレイラにヒールをしようとしたが、レイラはそれを止めた。


「私のはその、疲労ですわ。ミア、出来れば看てもらいたい人がいますの」


 レイラはそう言うと立ち上がる。

 俺も続いて立ち上がったが、思わずよろけた。

 ルリカが肩を貸してくれたので、どうにか倒れずに済んだ。


「大丈夫なの?」

「ああ、魔力の使い過ぎっぽい。少しは回復してるから大丈夫だよ」

「……本当に?」


 ルリカは疑ってきたが、ステータスを見る限り順調に回復している。回復速度は少し遅いような気がするけど。

 多少の気怠さはまだ残っているが、だいぶましになっているのは本当だ。

 ルイルイたちの後に続いて向かった先には、疲弊した人たちが集まっていた。

 俺たちの姿を見て驚く者もいれば、反応の鈍い人もいる。何より体が石化して横たわっている人の姿も見えた。


「ミア、リカバリーをお願いしても良いです? トリーシャちゃんにもお願いしているのだけど……」


 レイラの説明によると、完治するには至らず、辛うじて症状の進行を防いでいるのが現状らしい。

 ミアがトリーシャから話を聞き、リカバリーをかけ始めた。


「レイラ食事は摂っているのか?」

「……少しだけ。食欲があまりありませんの」


 レイラの背後にいるタリアが首を左右に振っている。

 トットの話的にも、食料に不安があるような話をしていたから、切り詰めているのかもしれない。ただ食欲がないのは、目の下の隈、休息をしっかりとっていないからってのもあると思う。


「食事の用意をするよ……とりあえず順番で休憩をしっかり取ろう。俺らも少し強行軍が続いて疲れてるからさ」


 クリスとルリカに手伝ってもらいながら食事を作る。ヒカリとセラには見張りを頼んだ。

 料理の香しい匂いが漂うと、お腹の鳴る音がそこかしこから聞こえてきた。中には恥ずかしそうに頬を赤らめる者もいたが、仕方がないと思う。


「慌てずにな。お代わりはあるから、遠慮する必要もないぞ」


 その言葉に皆がゆっくりと料理を口に運んでいく。石化して動かない者にも食べさせている。涙を流して感謝する人もいるのを見ると、結構限界だったのかもしれない。


「助かりましたわ。本当に……」

「トットに今度会ったらお礼を言うといい。彼と会ったから来たようなもんだからな」

「……トットは無事なの!」


 あれは確かヒノだったか。


「ああ、二十六階で会った。ヨシュア、希望の灯の面々と一緒にダンジョンを脱出したはずだ」

「ソラはギルドとは別に来てくださったの?」

「まぁ、な。運良く来れたようなものだな。ただ救助隊? はどうなってるか分からないから答えようがないぞ」

「いえ、そうですわね。二十八階以降を攻略してる組はそれなりにいますが、ダンジョンに潜っている人も多いですの。すぐには無理かもですわ」


 レイラの言葉に、皆が神妙に頷く。


「とりあえず休め。今後の方針はそれからだ」


 コクリと頷き、レイラは移動してその者の傍らで横になった。


「ありがとう。お姉様、全然休んでくれなくて」


 交代にタリアがやって来てお礼を言われた。


「タリアは休まなくていいのか?」

「うん、今まで休んでたから。……出来ればソラには、石化している人を看て貰いたい」

「分かった。と言っても、ミアに無理なら俺には無理だぞ?」


 錬金術で石化の治療薬を作るには材料が足りない。


「ミア、どうなってる?」

「ソラ……完治は難しいかも」

「そんなことはありませんよ。ミア様のお陰で少しですが治ってます」


 トリーシャの言う通り、進行が止まって少しだが石化したところが治っているそうだ。ただ完治するには、リカバリーをかけ続けないと駄目かもしれないと言う。

 鑑定すると、確かに状態が石化状態・進行中から石化状態・停止中になっている。

 ただカウントダウン表示が見える。あれがゼロになったら、また進行するということか?


「どうしたの?」


 難しい顔をしていたら、ミアが心配そうに聞いてきた。


「このままリカバリーをかけ続けると二人の負担が大きすぎると思ってな」


 錬金術で無理なら創造はどうだろうか?

 より高品質の材料で効果の高い石化薬のレシピがあるが、材料が……というところまで見て、創造のスキルがレベル7まで上がって出来ることが増えていることに気付いた。


 『イメージにより、新しいモノを創造することが出来る。とある』


 ただ完全に無から有を作ることは無理なようだ。そして創造するためには、それに相応しいアイテムがあると、創造しやすいとある。

 ……石化の治療薬として、コカトリスの素材を使えば創りやすい?


「ルリカ……はコカトリスの解体は出来るか?」

「コカトリスはやったことないよ。クリスは知ってたりする?」

「一応何処に何があるかは分かります」

「なら二人にお願いしていいか? 欲しいのは魔石と……石化袋?」


 そんな名前のものがあるのか疑問だったが、クリス曰くあるらしい。

 アイテムボックスからコカトリスの死体を取り出し、二人に解体を頼むことにした。クリスの指示で、ルリカが確認しながらゆっくり解体していく。

 特に石化袋は傷を付けると駄目になるらしく、クリスが特に注意していた。

 俺はセラの方に歩いて行き、消耗品の在庫確認をした。特にマナポーションとスタミナポーションが俺の手持ちだとなくなっているから、この二つを五本ずつ受け取った。

 これで何とかなるか?

 MPを確認すると全回復している。料理などして時間を使ったからな。

 ぶっつけ本番。さらに材料も限られているけどやれることをやらないといけない。無理だったら無理で、そのときに考えるとしよう。

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