第206話 マジョリカダンジョン 28F・3
間に合ったか?
よろける体を支えるために思わず壁に手を突いた。
ポーチからはマナポーションを取り出し一気にあおる。
混乱するコカトリスに向けて魔力を流したナイフを投擲する。
こちらにまだ気付いていないはずのコカトリスは、危険を察知して即座に回避行動をとったが、その手前でナイフは爆発した。
爆風が消えたあとには無傷のコカトリス。魔力障害の影響か、タイミングを間違えたようだ。
ただターゲットの標的をこちらに向かわせることには成功したようだ。結果オーライだな。
俺は歩きながら間合いを徐々に詰めていく。ゼスチャーで離れるように指示を出すのも忘れない。見えているよね?
魔物の背後にレイラたちがいると、下手な攻撃が出来ない。なので早く距離をとってもらいたい。
魔物はそのことを知ってかどうかは分からないが、威嚇はしてくるがその場を動かない。右に左にわざと移動したら、それを追うように少しだけ体をズラすだけで大きな動きはない。
コカトリスに関しては、石化効果のあるブレス攻撃をしてくるという知識しかない。
他にどんな攻撃をしてくるかは未知数だ。
そのためこちらも不用意に飛び込めない。
ジリジリとレイラたちが後退していく。
ルイルイが弓を構えながら警戒しているが、攻撃をするというよりも、注意がそちらに向かったら即攻撃出来るように備えてるみたいだ。
チラリとレイラたちの位置を確認するために視線を切った一瞬で、コカトリスが動いた。
羽ばたいたと思ったら、そのまま羽を飛ばしてきた。
横に飛びながら、当たりそうなものは剣で叩き落とす。
それを予想していたのか、滑空からの体当たり攻撃をしてきた。
剣を盾にして直撃を防いだが、地に足がついてなかったから激突した勢いのまま吹き飛ばされた。
それでもどうにかバランスをとって着地したら、体の位置が入れ替わっていた。
反転したコカトリスは、嘲笑ったように見えた。
大きく口を開き、ブレスの予備動作に入っている。
相手は何で先ほどのブレスが防がれたか分かってないようだったが、ブレスを俺が避けたら背後のレイラたちに当てられると思って、体の位置を入れ替えたのかもしれない。
実際今のMPだと広範囲に結界術を発動するのは難しい。
いっそ土魔法で壁を作った方がいいかとも思ったが、時間が足りない。いつもなら即発動して展開出来る魔法がここの階層では上手くいかないからだ。
ならすべきことは一つ。間合いを詰めてブレスが拡散されるのを防ぐ。
コカトリスのブレスは、石化効果を人体だけでなく装備にも及ぼす。
ただ装備への影響は人体に比べると低いらしいが、被弾する時間が長いと耐久力が落ちて破壊されるらしい。
ならそれを防ぐ防具はないのかというとあるそうだ。
その一つが魔力のコーティング。武器に魔力を流す要領で、衣服を包むように魔力を纏う。この中で長時間は無理だが、短い間だったらいけるはず。ファイアーアローなどの魔法と違って、こちらなら比較的早く魔法を発動出来るのも大きい。
近付く俺を、まるで罠にかかった獲物を見るような目を向けながら、コカトリスはブレスを放った。
ブレスの直撃を受けた俺は、不思議と痛みを感じなかった。
どうやら物理的な効果は弱いようで、実際に受けて分かったが風圧もそれほど強くない。
だから飛び込んだ俺はブレスの威力に負けることなく進めて、ブレスをはねのけてコカトリスの目と鼻の先にまで移動することが出来た。
瞬間目があったコカトリスは、驚愕の表情を浮かべていた。信じられない、そんな馬鹿な。心の声が聞こえてきそうだったが、俺は構わず構えた剣を、ソードスラッシュを乗せて振り下ろした。
剣は何の抵抗もなく、コカトリスの首を根元で断ち切った。
あっけないほどあっさり攻撃が通った。無防備だったのは、やはりブレス攻撃に絶対の自信を持っていたのだろうか? さっき防がれたと思うのに。
ごとり、と、切り離された首が落ちると、それを支えていた体もゆっくり倒れて行った。
それを確認し、手を、膝を付いた。
魔力が枯渇した副作用で体が重いし、今まで感じたことがない乱れのようなものを体内に覚えた。
「だ、大丈夫ですの!」
顔を上げると、レイラがこちらに走って来るのが見えた。
大丈夫というレイラも、足取りが怪しく危なっかしい。
ルイルイが傍らについてハラハラしている。まるで倒れたらすぐにでも支えるといった感じか。
「ああ、少し、いや、かなり気持ち悪い」
正直に言葉を吐露したら、なんとも言えない表情を浮かべられた。泣きそう? 心配? 呆れ? 疑問? 複雑な感情がせめぎ合っているようにも見えた。
「ソラさん、どうしてこちらに?」
レイラに代わってルイルイが訪ねてきた。
俺は大きく息を吸い、説明をしようと思って来た道を向いた。
まだ向こうでヒカリたちが戦っていると思い出し、立ち上がろうとして上手くいかない。
「む、無理はいけませんの。顔色が凄く悪いですわ」
自分が思っている以上に憔悴しているようだ。それこそ傍から見ても分かるほどに。
「ヒカリたちがまだ戦ってるかもしれないんだ。俺を先に行かせるために」
その言葉にレイラがハッとなったが、悔しそうに口を噛むだけだった。
「ルイルイちゃん、お願いできますか?」
代わりに申し訳なさそうにルイルイに頭を下げた。
「大丈夫ですよ、お姉さま。危なかったら逃げてきますから。アンさんはタリアたちを呼んできてもらってもいいですか?」
二人が別々の方向に走り出した。
それを見て、とりあえずあとは任せることにした。
今俺に出来ることは、息を整えて、自然回復力向上に任せて消費したMPが回復するのを待つだけだと思ったからだ。
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