第204話 マジョリカダンジョン 28F・2

 まだ大丈夫か?

 二十八階に到着してから既に六日が経過している。

 魔物とは何度も戦ったが、今の所苦戦はしていない。

 上位種で戦ったのはゴブリンキングだけだったが、体の大きさに対して遭遇したところの通路が狭かったため、動きが阻害されたようで苦戦することなく倒すことが出来た。

 むしろ何故あんなところにいた? と疑問が残ったが考えるだけ無駄か。

 一番の強敵は初見の魔物であるサラマンダーと、次点でデススパイダー。

 サラマンダーに関してはファイアーブレスを防ぐのに魔法を使用して対処したが、その時かなりのMPを消費させられた。威力が弱まったとはいえ、アイスピアースなどの魔法で弱点を突けたのと、斬撃が普通に効いたのが大きい。

 ソードマスターのスキルである、飛ぶ斬撃が活躍した。久しぶりだな、ソードマスターで覚えたスキル使うのも……。覚えたスキルが多すぎて、忘れてたとも言うけど。

 デススパイダーは天井を走ったりと、その動きに惑わされたが、最終的にセラの一撃で真っ二つになっていた。糸を使って某ヒーローのように動き回ったが、障害物がないところが幸いした。これが森とかだったらもっと苦戦したんだろうな。


「魔物の数が多い」


 疲労度が色濃く見え始めたため一時休憩することにした。

 ヒカリの言う通り、魔物が弱いが頻繁に遭遇するようになったため、思うように進めなくなっている。

 事実MAPを見れば、どの道を選んでも、必ず魔物と遭遇するようになっている。

 さらに今進んでいる道が、レイラたちのいる場所に続いているかどうかも分からないため、焦りだけが募る。

 ただここで無理をすれば、逆に俺たちが危険な状況に陥る可能性だってありえる。事実、今していることは危険な行為だ。

 奥に進むたび、魔物の数が増えるたびに、それを強く感じる。

 そんな危険な場所に向かっているのに、誰一人非難の言葉を、文句を言わない。優しさに甘えているな、と強く感じさせる。

 ならそれに応えるためにも、彼女たちを守るためにはなりふり構わず行かないといけないと、強く感じさせられた。


「主、おかわりが欲しい」


 ヒカリの器にスープを注ぐ、幸せそうに飲む姿に、少しだけ救われたような気がする。

 弱気になったら駄目だな。ここまで来たんだ。

 強い気持ちを持って、諦めることなく進まないと。


「気分転換になったようね」


 と、ルリカに言われた。

 そんなに分かりやすかったかな? 事実だから否定しにくいし。


「悪い。もう大丈夫だよ。ここまで来たんだ。もう少しだけ俺の我が儘に付き合ってくれ」

「うん、助けてレイラに美味しいものを奢って貰う」


 ヒカリはぶれないな。

 皆もそんなヒカリの言葉に笑顔を見せる。

 なら行くか。MPもSPも回復している。一番疲労度が少ないであろう俺が、頑張らないとだな。肉体的な疲労は皆無なんだから。


 それから半日歩いて、そろそろ休憩場所を探さないと思っていた時に、ついに人の反応をMAPに捉えた。

 数は四人。聞いていたよりも人数が少ない。


「見付けた! 休憩は後だ」


 距離は……遠い。

 しかもMAPを見ると、人の方に向かう魔物の姿が映っている。

 さらに付け加えるなら、進行方向を塞ぐように通路の途中に魔物の姿がある。

 その魔物も、先行する魔物に追随するように動いている。

 ピンチではあるが、チャンスでもある。

 数は多いが、見付からずに近付くことが出来れば不意打ちをとれる。

 拳銃に爆裂系の弾丸を詰めて用意する。

 銃声もサイレンサーだけでなく、サイレントの魔法を使うことで音を遮断出来る。閉鎖空間でも響くことがないはずだ。

 気配察知で魔物の位置を、魔力察知で罠がないかの確認を。逸る気持ちを抑えながらも素早く動き、あといくつか曲がった通路の先にまで近付いたら、気配遮断を使って五人から少し離れるため先行する。

 そして背後を捉えた時全力で駆け出し、気付かれる前に引き金を引いた。

 最後列に控えた魔物の背後に突き刺さった弾丸が、破裂して飛び散ると同時に爆発した。なんか弱い散弾銃みたいな感じになったが、次々と撃ちだしていく。

 銃に込められた魔力も弱まっているのかもしれない。

 銃弾がなくなると、爆炎に向けて風魔法を放った。

 視界が悪いから風を使って見えやすいようにしようと思ったら、逆に炎が強まって黒煙が魔物を呑み込んでいく。

 怒号と悲鳴が響きわたるが……うん、結果オーライだ。

 やがて黒煙の中から何体かの魔物が飛び出てきたが、気配察知で向かってくるのは分かっていたから、冷静に対処した。

 しかし魔物はこちらに向かって来るものだけでなく、前方に進むものもいる。

 このままでは足止めを喰らい、追い付けなくなるかもしれない。


「主様、ここはボクたちに任せて!」


 追い付いたセラの言葉を追うように、前方に強い魔力を感じた。

 風が吹き荒れ、視界を覆っていた炎と煙を吹き飛ばした。

 見るとクリスが肩で息をしていたが、視線に気付いたのか大きく頷いた。

 そうか。風魔法の威力が弱くて、吹き飛ばせなかったのかと気付いた。

 視界が良好になったら、最短距離で走っていく。向かって来る魔物は倒すよりも、弾き飛ばすことを心掛けて、出来るだけ足を止めないように進む。

 後方からヒカリとセラが援護してくれるのも大きい。

 忙しなく視線を動かして魔物を確認したが、五人が後れを取るような魔物はいないと思う。

 なら任せて先を急ぐだけだ。

 避けてやり過ごした魔物が反転して俺を追ってこようとしたようだったが、悲鳴と共に倒れていった。MAPから次々と反応が消えていく。

 やがて先行していた群れ、といっても一〇

 ウルフが七に、タイガーウルフが二。足が速かった魔物か。

 壁際を目指しながら走り、囲まれないように注意する。斬撃を飛ばして牽制することも考えたが、スキルを使うとSPが怪しいから地道に接近戦で倒していく。

 そして数が減ったら前に回り込んで、道を閉鎖する。

 通路の曲がった先に進んでいる一体は仕方ないにしても、これ以上魔物を向こう側に行かせるわけにはいかない。

 威圧を放てば傷付いたウルフは逃げるようにヒカリたちのいる方に走り出した。

 残りはタイガーウルフ一体。来るかと思ったら、やがて反転した。

 追うか迷う。既にヒカリたちも殆どの魔物を倒しているが、相手はタイガーウルフ。


「ソラ、先に進んで!」


 迷って足を止めていたら、ルリカの声が届いた。

 見るとこちらを見ているルリカと目が合ったような気がした。

 俺は反転して先を急いだ。

 MAPを見れば、最後の曲がり角を曲がった一体の魔物の反応があった。

 ただ進む速度は先ほどから変わっていない。後ろのことなど気にもとめていないのか、それとも……。理由は分からないが俺にとってはチャンスだ。

 俺は足に力を籠めると、これが最後とばかりに全力で駆けだした。 

 

 

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