第202話 精霊魔法
「クリス?」
ただならぬ雰囲気に最初に気付いたのはルリカだった。
クリスは一度ルリカを見て、セラを見て、その視線を俺に戻した。
「普通に探していたら時間が掛かると思います。だから……精霊魔法を使おうと思うの」
その言葉に二人が息を呑み、ヒカリとミアは首を傾げている。
「本当にいいの?」
ルリカが心配そうに聞いたが、クリスの意志は固いようだ。
はっきりと頷いて見せた。
「そんな顔しないで。行くなら最善を尽くしたいですから」
クリスが何事か呟くと、変身が解けて銀色の髪の毛が靡いた。
暗闇の中でも関係ないとでもいうように輝いて見える。
ヒカリとミアが驚いているが、話してないのだろうか?
続いてクリスが何事か囁くと、クリスの周りに魔力が集まってきている。魔力察知をきると途端に反応が消えるから、他の四人には分からないだろう。魔力視眼鏡を掛ければ視えるかもしれないが、魔力の強さと言うか、質から直視するのはやめておいた方が良いと思った。
その時魔力が大きくうねり、クリスの杖がタクトのように振られた。
魔力が物凄いスピードで広がっていくのを感じた。
「だ、大丈夫ですか?」
声に振り返れば、クリスが片膝を付いていた。
呼吸は乱れ、額には玉のような汗が浮かんでいる。
「魔力を大きく消費したためです。久しぶりで少し加減を間違えてしまいました」
マナポーションを口にすると、よろよろと立ち上がった。
ミアはその横顔を呆けたように眺めている。
クリスもその視線に気付き、今の自分の姿を思い出し、フードを深く被った。
「ソラ、道がだいたい分かります。行きましょう」
クリスは気丈に言うが、まだ調子が悪そうだ。
「主様、クリスのことは任せて」
セラが体を支え、少し考えたあとに背負ってみせた。
クリスが恥ずかしそうに慌てたが、冷静に自分の体の状態を考えて素直に従うことにしたようだ。
「隊列はそのままで、俺とヒカリが先頭を行くよ。クリスはどっちに行けばいいか指示を頼む」
最初駆けるように進んでいたが、振動が激しいようでクリスが辛そうだったため、無理のない速度で歩いて進むことになった。
どっちにしろ走り続けるなんてことは無理だったから、最初からそうすれば良かったと思う。失敗した。
自分で考えるよりも焦っていたようだ。冷静な判断が出来てなかった。走ったらそもそも俺の恩恵が除外されるから、戦力が半減以下になるし。主に俺の。
それに元の世界の人と違い、体力のある異世界の人たちとはいえ、走り続けるのは無理がある。ミアもいることだし。
途中、最短距離を進むため魔物と遭遇したが、基本的に俺の魔法で倒していった。
出来るだけ消耗品を抑える為と、ミアは後方にいるため時間を惜しんだというのもある。
結局二十七階への階段に到着したのは、それから十時間以上も経ったあとだった。
食事休憩を一度挟んだだけだったから、階段に到着した時はさすがに皆疲労困憊だった。俺を除いてだけど。
「主様はある意味狡いさ」
クリスとミアにも羨ましがれたがこればかりは仕方ない。
「俺が最初に見張りをやるから、皆は休んでくれ」
その言葉に誰も異論がないようで、揉めることなく皆眠りに落ちた。
ただ流石に心配なのか、ミアがホーリーフィールドを唱えていた。
これはミアが覚えた新しい神聖魔法で、アンデッドを寄せ付けない結界のようなものを張れる魔法だ。ただ魔物除けと同じように、格上には効果がないし、通常の魔物にも絶対を保証するものではないようだ。あとは覚えたてだから試しに使って慣れておきたいというのもあったようだ。
それでもあるとないとでは気分的に違うんだろう。
俺はMAPを表示させながら、気配察知を使って見張りをする。
また並列思考を使って、別作業も同時に行う。
アイテムボックスに入っている薬草類を使って消耗品を補充する。と言っても、流石にこれで在庫が完全になくなった。
近頃薬草採取をする機会がなかったからな。二十五階は森のフィールドだったけど、食料関係や薬草類の採取出来るようなものが殆どなかった。
いっそ自分で栽培でもしようかと思うが、土地とか必要になるからな。農業・栽培ってスキルがあるから、出来そうではあるんだよな。
時空魔法とかあったら栽培時間短縮で即収穫! なんて出来そうだけど、残念ながら習得可能リストにはないんだよな。
結局魔物の襲撃はなく、その日は皆ゆっくり休むことが出来た。
それから二日後。二十八階への階段を発見した。
トットと出会ってから最速で到着出来たと思うが、それでもレイラたちが襲われてから十日以上は経過している。
もしかしたらこの三日間で、二十八階に直接行ける冒険者が救助隊として編成されているかもしれないが、過剰な期待はしない方が良いか。
最前線で戦っている守護の剣次第か?
けど良くギルドに現れるジェイクやアッシュならあまりダンジョンに潜っていないというから来られそうだが、二人だけで来るのは流石に無謀だろうしな。
本来なら勢いそのままに二十八階に飛び込みたいところだが、さすがにそれは無謀な行為だ。
「今日はここで休んで。明日二十八階に行こう」
クリスとミアの疲労具合が特に酷いが、二人は一言も弱音を吐かない。
特にクリスは、精霊魔法の負担が大きいのか、かなり疲弊している。
そんな二人に感謝しつつ、今日は少し凝った料理を出そう。
といってもベースとなるものは既に作ってあるから、それに野菜や肉を入れてクリームシチューを完成させる。それにパンと、ヒカリの大好物の肉串を添えて終わりだ。
……うん、凝ったものを作ったはずが普段とあまり変わらないものになった。
ここ三日間の中では豪華だし、問題ないはずだ。
魔法やポーションでは疲労を回復出来ないし、美味しいものを食べて、ゆっくり休んで疲れた体を癒すしかないんだよな。
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