第200話 マジョリカダンジョン 26F・1

 無事登録が終わったので、帰る前に二十六階の様子を少しだけ見てみようということになった。

 階段から覗く二十六階の通路は真っ黒で、やっぱり暗視効果のある魔道具がないと辛い階層なのは一目瞭然だった。俺はスキルがあるから大丈夫だけど。

 MAPと気配察知を発動させながら階段から一歩踏み出す。

 二十六階の地を踏んだ瞬間MAPが切り替わり、索敵可能範囲が浮かび上がる。


「ん?」

「主様どうしたんだい?」

「……! セラとヒカリは一緒に来てくれ。他はその場で待機だ」


 指示を出した時には駆けだしていた。

 魔力察知を発動させて通路を確認したが罠はない。


「主さ……」


 俺に追いついたセラが質問を口にしようとした時、セラも気付いたようだ。

 ヒカリも手に武器を持って戦える体勢に入っている。

 通路の先。反応は五つ。そのうち二つは人のもの。残りは……。

 通路を曲がると、一人がこちらに走って来る。必死な形相で、その瞳には恐怖が刻まれている。一瞬目が合ったような気がしたが、そのまま横を通り過ぎて行った。

 気になったがまずは目の前で転倒している彼を助けないと。既に一体が間合いに入っていて、ここからだと普通の攻撃では間に合わない。

 接近している魔物……ソルジャースケルトンに対して、俺はストーンバレットを放つのと同時に転移させた。

 ソルジャースケルトンの目前に転移した魔法が、魔物と衝突して吹き飛ばす。

 セラとヒカリは突然のことに足を止めかけたがすぐに走り出す。

 後方からはまだ二体。こちらに向かってきている。

 距離的にあとは二人に任せれば大丈夫だと判断し、俺は足を止めて歩き出した。正確には、無茶な魔法の使い方をして一気に体に負荷が掛かったため、着いていけなくなったとも言う。

 乱れた呼吸が、一歩、二歩と歩くことで徐々に整っていく。

 俺が到着する頃には戦闘は終了し、回復ポーション各種を与えられた彼は、まだ本調子じゃなさそうな足取りでこちらにやってきた。


「大丈夫か?」

「は、はい。お陰様で。助かりました」

「というか一人か?」


 そもそも何故このようなところに一人でいるのかが問題。何故なら……。


「はい。そうだ。早くギルドに報告に行かないとなんです。すいません」

「いい。走る……のはまだ無理そうだな。歩きながら説明出来るか?」

「分かりました。実は……」



 彼……金貨千枚のリーダートットの話によると、二十七階を普通に攻略して、そのまま二十八階に挑むことになった。

 探索は順調で、出て来る魔物も余裕を持って対処することが出来ていた。

 このまま行けば無事攻略出来ると思った時、大きな揺れに襲われた。実際に揺れたかどうか分からなかったが、次の瞬間、爆発音や怒号が響きわたり、今度こそはっきりとした揺れを体に感じだそうだ。

 揺れは徐々に大きくなり、立つことすら出来なくなったと言う。

 それもそのはず蹲る彼らの目の前で、通路が突然動き出し、前方に続いていた道を塞いだ。

 変遷。一瞬その言葉が脳裏に浮かんだが違うような気がした。

 やがて揺れが収まった時には、目の前に開けていた通路がなくなり、新たに左手側に進むべき通路が開けていた。

 突然のことに今後の方針を話し合おうとしたが、その前に事件は起きた。

 開けた通路の先から音が近付いて来ていた。

 それは時間とともに大きくなり、やがてはっきりと肉眼で捉えることが出来た。

 相手もそれに気付いたようだが、一人、二人と脇を通り抜けてそのまま走っていく。

 数人は立ち止まり、謝る者もいた。その者たちは反転して武器を構え簡潔に言った。

 罠を作動させてしまった、と。

 視線の先には魔物が迫って来ていた。


「他に人はいますの?」

「いや、いない」

「各自魔法を放ちつつ後退ですわ。出来る限り数を減らします」


 すぐにレイラ様の指揮の元攻撃を開始しました。

 魔物の方が足が速く、このまま走って逃げても追い付かれると判断したためです。

 事実、アンデッドしか出ないはずの階層で、目の前に迫る魔物はアンデッドではなく通常の魔物でした。

 通路を埋め尽くす魔物を遠距離で減らしつつ、後退しながら状況を詳しく聞きました。

 罠を発動するとダンジョンの形が変わり、新たに出来た通路の先から魔物が次々と現れたという。

 モンスターパレード。ダンジョンの罠で恐ろしいと言われているものの一つ。まさにそれを発動させてしまったと、吐き出すようにその人は言った。

 そこでパーティーの半数が殺され、今に至るという。


「すまない。巻き込んでしまって」

「謝罪は後でですわ。今は目の前の敵を倒すことに集中しますの」


 魔物との攻防戦は熾烈を極めました。

 それでもレイラ様を中心に、次々と魔物の死体の山を築いていきます。その姿は戦女神なんて言葉が浮かぶほど圧巻で、僕らが魔物一体を倒す間に、二体、三体と倒していきました。

 やがて魔物の勢いが止まり、暗闇の中でも分かるほど通路が赤黒く染まっている中、それが現れました。


「や、奴は……」


 見た瞬間、逃げていた冒険者が飛び出しレイラ様を突き飛ばしました。

 突然のことに驚き、非難の言葉をあげようとしてそれを呑み込みました。

 男は物言わぬ石像になっていました。

 それからは防戦一方でした。

 接近することが出来ず、の魔物の後方から追加で飛び出てきた魔物の対処にも苦慮し、ただただ逃走しました。

 逃走の中、仲間の何人かがそのブレスを受けて手足が石になった者もいました。

 それでもどうにか逃げることが出来た僕たちは、どうするか相談し、一部のメンバーが助けを求めるため二十五階を目指した。

 違います。石化した人たちを見捨てて戻るという人たちが離脱しました。

 僕はその背中を見ることしか出来ませんでしたが、それから程なくして一人で助けを求めるためパーティーから離れました。

 結果。運良くここまで辿り着くことが出来た。



「帰還石は持ってなかったのか?」

「あったのですが、発動しなかったのです。それで……」

「分かった。ならギルドに報告して、対処して貰うしかないか」


 そのために、トットはここまでやってきたのだから。

 ということは、すれ違ったあれもギルドに報告しに来た仲間の一人ということなのだろうか?

 ちなみにトットは運良くと言っていたが、彼が装備していたローブに、認識阻害系の効果があることが鑑定で分かったから、そのお陰だったのかもしれないと思った。

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