第199話 閑話・9
「……ギルド長。少々宜しいでしょうか?」
「何の用ですか?」
「商業ギルドと錬金術ギルドの知人から聞かれたのですが、ドラゴンの素材はどうなっているのか、と」
「何の話ですか?」
「いえ、ですからドラゴンの素材についてです」
「…………」
「そ、その、プレケスのダンジョンでファイアードラゴンの討伐がゆ……成功したという話を聞きまして……」
「そうですか。私は聞いていませんが……それで?」
「プレケスの冒険者ギルドに素材の取引を掛け合ってもらえないかという話でして、ハイ」
「……私からは無理でしょう」
「な、何故ですか!」
「そもそもその話は信頼のおける情報なのですか? それに素材の取引云々に関して、私たちが介入することではありません。ギルド経由で伝達があったなら、そちらを利用すれば良いと思います」
「し、しかしそれでは……」
「納得いかないなら貴方が直接交渉してみては如何ですか?」
「…………わかりました。失礼します」
「……ふう、まったく困ったものです。点数稼ぎをしたいならご自身で動けば宜しいのに…………」
「……変に動いて目立ちたくないか。危ない情報を手に入れているか、かな」
「だ、誰……! ……イ、イグニス様」
「ああ、気にするな」
「ど、どうしてこちらに。というかいつからそこに」
「あの者が出て行った時に普通に入ってきたぞ? 考え事をしているようで気付かなかった様だが。あとこちらに来たのは……まぁ、近くに少し用があってな。こちらは変わりなくか?」
「は、はい。いえ、色々と問題が……」
「そうなのか?」
「……ソラという商人についてなのですが……イグニス様のお知り合いですか?」
「知り合いではあるな」
「やはりそうでしたか。その、彼に施された術式がイグニス様のものでしたので……」
「何か聞きたそうだな?」
「……何故異世界人である彼を生かしているのでしょうか? 彼らは……」
「不服か?」
「いえ、そのようなことはありません! イグニス様のことです。何か考えがあってのことだとは思っています」
「……利用出来ると思ったのが一つ。あとはまだ心が壊れてなかったからだな」
「心ですか?」
「ああ、今回の召喚は人の手によって執行されたものだ。その場合、召喚された者にはあることが起こる……違うな、奴らはあることを仕掛ける。それは徐々に心を蝕む呪いのようなものだ。効果は色々だが、負の感情に陥りやすくなり、それが進行すると後戻りが出来なくなるものだ。もっともそれはついでだがな」
「そうなのですか?」
「余程心が強い者……でもないか。心に負荷を掛けない環境でないと、染まるだろう。それを知ってか、ある程度進行するまで奴らは我々が手の届かないところで匿う……はずなのに彼は何故か解放されていた。戦う力がないという話だったが、そうでもなさそうなのだがな」
「確かにそうです。視ましたが、あれは異常でした」
「それほどか?」
「はい……」
「……詳細は後で聞くとしよう。他に気になることはあったか?」
「そ、そうでした。その、彼と一緒に……聖女がいました」
「聖女? それは本当か?」
「は、はい。私も話しに聞いていたので最初見間違いなのかと思いましたが、間違いありません」
「……そうか。なら翁に報告しておいた方が良いな」
「翁様にですか?」
「ああ、アドニスが聖女を殺したと聞いて酷く怒っていたからな。まぁ、分からないでもない」
「……あの、魔王様にとって聖女は勇者以上の天敵という話を聞いたことがあります。生かしておいて宜しいのですか?」
「問題ない。むしろ聖女の所在がはっきりしていた方が助かる。聖女は例外を除き、世界で一人しかなれない稀有な存在だ。人間はその本質を理解しないまま祭り上げてくれるから探すのは楽だが、一から探す手間を考えれば、所在がはっきりしているのはこちらとしても助かる。それに、彼と一緒にいるとはある意味都合が良い」
「……そうでしたか。あ、あの、それではダンジョン攻略を止めた方が良いのですか?」
「……そこまで干渉する必要はない。下手に干渉するのはリスクもあるしな。ただ万が一聖女が命を落とした場合は連絡を頼む」
「分かりました。最後に一つだけ、近頃ダンジョンが活性化しているような気がするのですが……」
「それは魔王様の力が上がっている影響だろう。これはダンジョンというよりも、世界各地で言えることではあるがな」
「では!」
「覚醒の日は近いだろう。お前は気にせず今の生活を続ければ良い。自身の身が危ないと思ったら撤退することも視野に入れてな」
「畏まりました。ですがそこは大丈夫だと思います」
「ならいいが……人は愚行を犯すある意味天才だ。それだけは忘れずにな」
「はい、それでイグニス様はこれからどうするのですか?」
「そうだな……確認も出来たし、久しぶりに古い友人たちに会うのも良いかもしれないな。本当なら……否、これも運命か……」
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