第197話 マジョリカダンジョン 25F・5

 湖の端にあるという目印をついに発見した。

 それは誰が作ったのか、場違いな像が湖の中に浮かぶ小島に堂々と立っている。

 誰をモデルにして作られたのか、その像は見る者によって表情が違うと言われている。華美なドレスのような衣服を纏い、右手に持った錫杖は、まるで道を指し示す様に掲げられている。

 実際、その錫杖の示す先に階段がある。

 フロッグマンを倒し、その像を確認して湖から離れた。

 階段まであと少し。ただそのあと少しが遠い。


「分かっていることをまとめた方が良さそうだな」

「そうですね。ここからは夜の戦闘も視野に入れないと駄目かもしれません」


 夜通し戦うことを想定に動かないといけないかもしれない。


「まず第一に、昼間に倒したオークは夜にオークゾンビとして復活する時にパワーアップする点。しかもこれは集落単位でカウントされているようでした」

「あとは集落ごとに独自のコミュニティーを築いているから、オーク同士にも縄張りがあることね。だから比較的縄張りの境界線は手薄になってる」


 ヨシュアの言葉にルリカが続く。


「あとは昼から夜に切り替わる時にオークゾンビが出現するまでの時間か。どうも倒したオークは、夜になってもすぐにはオークゾンビになって現れないみたいだしな」


 そう、ここに来るまでの戦闘で分かったことは多々ある。それを考えた上で、行動に移さないといけない。

 特に階段へと続く森は、夜はそれこそオークゾンビだらけになる。ただ移動する時間があるから、その間に突破してしまえばいいが、頑張って移動しても、必ず一回は夜の間その森で活動しなくてはいけない時間が出てくる。


「早めに休んで、夜になる直前に移動を開始するか?」

「それが一番良いかもしれませんね。あとは出来るだけ戦闘を避けられるところまで避けて、あとは日が落ちるまで移動しながら戦闘をするのが一番安全かもしれません」

「……他に手はないか……」

「防衛しやすい場所があれば良いんですけど。この人数だと少し難しいですしね」


 三六〇度、何かを背にして戦える場所がないため、交代で休むことも難しい。


「やれるだけやろうか。レイラだって、俺たちだったら大丈夫だと思って、この人数で行くのを止めなかったんだろうし」

「そうですよね! なら今日は休んで、明日は何処かの集落を攻め落として、そこから先に進むようにしましょう」


 集落を落とせば、夜までの間安全地帯として活用出来る。縄張りに入ってこないオークの習性を利用する。

 そして夜になってもすぐに出現しない時間を使い、出来るだけ正面のオークゾンビを倒して進む方法をとることにした。

 その夜は出来るだけ湖の近くで野営をして休み、夜明け前に移動を開始した。

 その後昼間に出来るだけ進み、昼前にオークの集落を襲撃して乗っ取った。何処かの盗賊になった気分だが、ここの階層を攻略するためには仕方ない。

 この日は夜通し活動することを念頭にしっかり休み。日が暮れたのと同時に真っ直ぐ進む。下手に避けようとするよりも、最短距離を進んで前方のオークゾンビを素早く倒していくことを選んだ。

 戦闘は聖水も、魔法も、もったいぶらずに積極的に使った。

 俺も剣を片手に魔法を使って戦ったら、何故か驚かれた。

 確かに積極的に前に出て戦っていなかったけど、それでも何度か戦ってる姿見てるよね?


「方向はこっち。しばらく歩くとまたいるから注意して!」


 もう相手には居場所が伝わっているため、ルリカは大声で指示を出す。

 声に導かれて移動すれば、そこにもオークゾンビの集団がいる。

 休む暇もなく次の戦闘に入り、魔法使いたちが交代で魔法を使う。

 マナポーションの在庫は多いが、短い間隔で飲むと効果が落ちるのと、そんなに大量に飲めないから徐々に調整していく。


「ヒカリちゃん、後ろはどう?」

「まだ大丈夫。だけど近付いて来ている」


 MAPを見るとわらわらと寄って来る大量の反応が分かる。

 移動速度がそれほど早くないのがまだ距離を保てている要因だ。

 ただ魔物は背後からだけでなく、前からも左右からも寄ってきている。

 それは皆理解しているから、左右にも斥候を配置して常に気を付けている。


「正直あとが怖いですね」

「何がだ?」

「こんなにアイテムを贅沢に使って、あとで請求されたらと思うと……」

「別にそんなことはしないぞ? 必要経費だしな」


 そのことは作戦前にも話したけど、やっぱ実際に消費されていくのを見ると思うことがあるようだ。


「少し前に出る。頼んだ」


 人数がいるから比較的自由に動くことが出来る。

 後衛の護衛を任せられる腕を持っている者がいると頼もしい。もっとも囲まれれば前衛も後衛もないけど。

 魔法を放って接近すると、進行方向にいるオークゾンビを倒していく。

 聖水の効果により、ダメージを与えると簡単に倒すことが出来る。何より速度で負けていないから、倒す回転も上がる。

 ただ長時間の戦闘になると流石に体力の方が持たないから適度な休憩が必要になってくる。


「ソラさん交代です」


 ヨシュアが前に出て来てオークゾンビと斬り結ぶ。その隙にヒカリが一撃を与え、連携しながら倒していく。

 やがて前方は薄くなってきたが、今度は後方から迫るオークゾンビの数が徐々に増えていく。

 魔法で遠距離攻撃をして足止めを試みるが、気にせず奴らは前進してくる。

 倒すと同時に消滅するから、死体が進行の邪魔にならないのも大きいのだろう。


「日が!」


 誰かの叫び声が聞こえた。

 見ると日の光が木々の隙間から射し込んできている。

 徐々に広がるそれは、オークゾンビを次々と包んでいき、光を受けたゾンビは溶けるように消えて行く。

 いつ見ても不思議な光景だけど、皆それを見てホッとしている。


「周囲の状況を確認しましょう」


 ルリカの声に斥候の出来る五人が索敵をしている。

 俺もMAPを表示させて反応を確認するが、かなり奥まで来たためか反応はない。

 MAPを見るにダンジョンの端まで表示されているため、階段まであと少しといったところか。


「周囲に魔物はいないよ。どうする?」


 ヨシュアと顔を見合わせて休むことにした。

 進行方向にはもう魔物がいないが、今の疲労度で歩くには森は優しくない。

 結局休憩を兼ねた朝食を食べて、交代で仮眠をとってから先に進むことになった。

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