第196話 マジョリカダンジョン 25F・4

 昼は先に進み。夜は休むという生活を繰り返しながら階段を目指していく。

 その間オークの集落をいくつか潰し、フロッグマンとも戦った。

 フロッグマンは表面がつるつるしていて斬撃が効きにくく厄介な相手だった。なんか人を小馬鹿にするような動きにイラっとさせられたりもした。

 オークの集落はどうしても先に進むために必要だったため戦った。もっと湖から離れた場所を歩けば戦闘をしなくても良かったかもだが、そこは行かないとどのようになっているか分からないため、結局遠回りは避けた。

 また五階のように木の実を発見したりしたが、通り道にあるものは回収するが、わざわざ探しに行くようなことはしていない。味は悪くなかったが、数が少なかった。

 ヒカリと希望の灯の数人が残念そうにしていたのを見て、ヨシュアは頭を抱えていた。


「そろそろアンデッドと遭遇する率が増えそうだが、どうする?」


 昨夜も結構な数を森の中で目撃した。

 今の所運が良いのか戦闘を回避することが出来ているが、次の階へ近付いて来ているからか、最初に比べてアンデッドの数が増えているような気がする。


「そうですね。寄ってくる前に殲滅出来れば問題ないと思いますが……強いと言う話ですからね」

「一度戦っておいた方が良かったかもな」

「はい、そこは失敗したと僕も思います。慎重になりすぎたというのもありますが、ここまで戦わないで来られるとは思っていませんでした」

「……戦わないでいけたら問題ないが、そうもいかないだろうしな」


 昨夜見たMAPを思い出す。


「主様、それなら少数の群れを探して戦ってみてはどうだい?」

「都合よくいるかな?」

「そこは運だと思う。あとは夜が明けそうな頃に移動して、オークゾンビに襲われても太陽の光で消失するというルールを利用するかさね」

「確かに一理ありますね。夜通しだと耐えられそうもありませんが、短い時間なら全力を出せばいけると思います」

「……問題は切り替わった時の場所か。集落の近くだと危なそうか?」

「ですね。そこは森を移動しながら、探すしかありませんね。それに集落に必ずしもオークが出現するとも限りませんし」


 確かに昼と夜の切り替えは盲点だった。

 そういう風に利用しようとは思っていなかったからだ。


「ありがとう、セラ。それじゃ見張りの交代時間を短くして、夜明け少し前に移動しよう」



 夜明け前。準備を整えて移動を開始する。

 この時出発前に問題が起こった。深刻なやつじゃなかったけど。

 出発前に食事を摂るかどうかという問題。腹が減っては戦が出来ぬ派とお腹が膨れては動けないという派で。

 正直何を言っているんだという感じだったが、当人たちは真面目に主張していた。

 結果はその奥底にある目論見を看破した腹が減っては戦が出来ぬ派(ヒカリ)が勝利を収めた。

 手早く食事を済ませて移動を開始する。

 ヨシュアがお腹を押さえている。あれだ、ストレスが溜まると発症すると言われる胃痛だ。

 ことの発端は準備を早く済ませたヒカリから軽食をお願いされたところから始まる。

 俺がアイテムボックスから料理を取り出そうとした時に(もちろんダミーのアイテム袋経由)、ヨシュアのパーティーの一人に止められた。理由はお腹が膨れると動きに影響するからということだった。

 一理あるが、そんなにお腹に詰める訳でもないしいいだろうと思うが、何故かよく分からない理論で必死に主張する。

 それに追随するように希望の灯の二人も同意する。

 ヨシュアを見ると唖然としてそれを見ている。視線を向けると、慌てて首を振っている。僕には意味が分からないという感じだ。

 俺も迷ったが、ヒカリが袖を引き、


「四つ」


 と言うので、軽食四つを渡した。

 湯気の立ち昇るそれを持って、ヒカリが近付き反対派三人に渡した。

 三人はそれを受け取り驚くと、何も言わず食べ始めた。

 後に理由を聞けば、「温かい料理が食べたかった」とのこと。

 ヨシュアはそれを聞き天を仰いでいた。

 保温性の奴は何度か出していたはずなんだけど、今まで気付かなかったのか?

 確かに暖を取るためにいつも火を焚いて、少し温めてから渡していたかもしれないけど。


「苦労してるんだな」

「今まではこうじゃなかったんですけどね」


 ヨシュアは苦笑してどうしてこうなったんだろうと遠い目をしていた。

 強く生きてもらいたい。


「けどソラさんは、色々準備が良くて尊敬します」


 今度は俺が苦笑する番だった。


「ま~、ヒカリに頼まれるとなかなか断り辛くてな」


 ヒカリに対して甘いのは分かっているが、悲しそうに見つめられると断り辛い。


「あ~、少し分かるかもしれません。僕も弟や妹に頼まれるとなかなか断れなくて困ったりしてますよ」


 妙な共感を覚え、二人揃って頷きあったものだ。

 ちなみにオークゾンビとの戦いは夜明け前の約一時間ほど行い、その厄介さを体験した。

 動きはオークと比べると少し遅い感じで、対策さえしてあれば問題なく倒せた。

 ただ単純な物量が厄介で、かなりの速度で倒していったのに、次から次へと現れて襲い掛かってきた。

 結局日の光と共に消えるまでの一時間、濃密な戦闘を行ったことになる。

 戦闘終了後、オークの気配を察知したルリカに先導されて、素早く離脱出来たため、オークとの戦闘を回避することは出来た。

 疲れ果てた面々を他所に、ヒカリだけは通常運転でご飯を要求してきたので、俺も手早くスープを作ってそれを渡した。もちろん肉も食べたいということだから肉も焼きましたとも。

 何人か信じられないものを見る目で見てきたが、少し休んで復活したようでスープを受け取り美味しそうに食べていた。肉は遠慮されたから、出すのはやめておいた。




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