第195話 マジョリカダンジョン 25F・3

 湖を視界に捉えた頃に日が暮れて、夜になった。

 これからはアンデッドの時間か。


「そう言えば一つ聞きたかったんだが、武器屋で銀の剣が売ってたけどあれは使わないのか?」

「あ~、あれですか。あれ扱いが難しくて、聖水より高くつくんですよ。剣の扱いの上手い人なら話は別ですけど」


 表面にコーティングされていたから耐久度がないのか?

 聞くとどうやらそうらしい。下手に討ちつけると剥がれて効果が半減という。

 それって紛い物じゃないのかと思うが、それに聖水を付与するとアンデッドに特攻効果が付くらしく、大物相手に使うことがあるらしい。

 もちろん銀でしっかり作られた剣もあるが、物凄く高いらしい。

 それこそもう、アンデッドを狩り続ける覚悟があるなら買うのもありらしいが、それなら魔法で良くない? という感じでコーティング剣が作られたらしい。

 もっとも最終的に聖水でいいじゃないかということになり、売れ残ったものが今も武器屋に並んでいるようだ。


「実際問題。昼と夜だとどっちが戦い易いんだ?」

「ミアさんはじめ、魔法使いが多いともしかしたら夜の方が戦い易いのかもしれません。問題は……オークゾンビの強さと習性でしょうか」


 オークは集落ごとの縄張り意識があるのに、オークゾンビになるとそれがなくなる。

 そのため戦闘が長引くと次々と押し寄せて来て囲まれる危険があるという。

 それを押し返す殲滅力があれば問題ないようだが、危険なのは変わりない。

 さらには夜の湖には近づかない方がいいということだけが語られている。理由はギルドの資料にも残っていなかったが、先人が近付くなと残している以上、近付かない方がいいだろう。


「やっぱり昼の方が安全か?」

「ですね。森を進んで方向が分からなくなるぐらいなら、湖を目印に移動した方が確実ですし」

「ならこの辺りで野営をして休もう。見張りはパーティーで分けるか?」

「……出来れば半々でお願いしてもいいですか? ソラさんたちのパーティーの方が格上だと思いますし、僕らもその方が安心出来ます。あ、もちろん手を抜こうとか、そんなことは考えてませんよ」


 確かにこちらは魔法職を除く四人が一応探索出来るし(俺を含む)、向こうは二人だとすると安全面を考えれば妥当か。

 物事をしっかり考えて対処する。良いリーダーだ。見習いたいと思う一方、凄く苦労してそうだ。リーダーとは本来そういうものかもしれないけど。

 ただ一つ、結局料理をするのだけは変わらない。一応ミアとクリスが手伝ってくれれるからそれほど手間には感じないが。


「ダンジョンでこれだけの料理を食べられるだけでも信じられません」


 ヨシュアの言葉に希望の灯の面々が頷いている。

 大袈裟だと思うが、考えてみると他のパーティーがどんなものを食べているか知らないことに気付いた。

 試しに聞いて見ると、保存食のバーをそのまま食べたり、あとは干し肉や、少し豪華にして簡単なスープを作るぐらいだと言う。

 一番の原因は荷物を極力減らすため。

 あとは、実は学生寮では食堂があって、自炊する者がほぼいないと言う。

 だからそもそも料理を出来る人間が皆無らしい。

 俺に料理をさせた理由はこれか……確かにレイラたちが料理をしたところを見たところが……うん、ちょっと思い出せないな。


「ならアイテム袋があって余裕があったら、練習とかして飯は改善されたりするのか?」


 そこで目を逸らすのはどうなんだ?

 ヒカリなんて信じられないといった感じで驚いてるじゃないか。

 けどヒカリも昔は保存食どころか、もっと酷いものを食べてたとか言ってたからな。今の姿を見ると信じられないが。

 違うな。逆に今、その反動がきているのかもしれない。

 見張りは結局三つの組に別れた。中間で見張る組みの負担が増えるが、そこは一日ごとローテーションを回していくことにした。

 俺は先に休ませて貰い、三番目の順番になって目を覚ました。

 この時間まで、特に襲撃されることはなくぐっすり寝ることが出来た。

 今回はテントを用意して、その中で寝た。もちろん特殊加工された目立たない奴で、出入り口は二つあり、素早く飛び出せるような造りになっている。

 ただ話によると、奥の階段に近付くほど魔物の警備が厳重になるらしく、まだ入り口近いこちら側は、比較的夜は安全になるというのを聞いている。

 あくまで比較的安全というだけで、絶対ではないため警戒は必要。

 何度か徘徊する反応をMAPで捉えたが、こちらに向かって来ることはなかった。

 逆に今一番の敵は、寒さかもしれない。ローブでしっかり身を包み、寒さを堪える。料理の時もそうだが、出来るだけ火は目立たないように工夫して使った。いわゆる土を掘って、地中で火を焚き料理を作った。

 それは火が目立つから。目印になって、オークゾンビを呼び寄せる原因になりかねないからだ。煙はならどうかというと、それは大丈夫のようだ。

 火の光源を特に注意するように、レイラから強く言われたのはそういう理由からだった。

 その時風が吹いて、湖から冷たい風を運んできた。木が多少の防壁となってくれるが完全に防ぐことは出来ない。

 手を擦り合わせ、感覚を失わないように気を付けながら見張りは継続する。

 他の人たちも同じように我慢していたことを思えば、耐えられるはず。違うな、耐えなければいけない。

 いっそ魔法で周囲の寒さを防げないかと考えるが、そこはMPの消費次第か……。

 自然回復向上の恩恵はあるが、無駄にMPを消費して戦闘になった時にマナポーションを飲まないといけないなんてことになったら目も当てられない。

 こんなに朝になるのを、日が昇るのを待ち望んだのは、ある意味異世界に来て初めてだったかもしれない。

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