第194話 マジョリカダンジョン 25F・2

「予想通り集落があったか」

「ですが話を聞く限り、規模としては小さい方かもしれません」


 見張りを五体ほど倒した先には、森が切り開かれて作られたような広場があり、そこにはお世辞にも立派とは言えない建造物が十数軒建っていた。


「魔法で奇襲をかけて、あとは個別に撃破する感じでいいか?」

「そうですね。突然連携といっても難しいですし。それでお願いします」


 火魔法を控えて、風を中心に建造物を破壊する感じで範囲攻撃をする。

 資料にある通り、魔法で建物を破壊することは出来る。

 建物が崩れる音で、他の建物の中にいたオークが何事かと出てくる。流石に警戒心はあるのか、手には武器を持っている者が多い。

 そこに次の魔法を待機させていた魔法使いが魔法を放ち、動揺を誘う。

 オークが叫び声を上げて、集落のボスとおもしき者が指示を出している。

 その言葉に混乱していたオークたちが態勢を整えようとするが、そこにヒカリたち近接戦闘を主とする者たちが襲い掛かる。

 ヨシュアは剣を片手に待機して、全体の動きに注視している。

 確かに連携をとることは難しいが、実際に戦うところを見て力量を確認するのは大事だ。一度確認のため模擬戦のようなものをしたが、やっぱり魔物と戦うのとでは動きが違う。手に持つ武器も違うしな。


「セラさんでしたか? 強すぎませんか?」


 一早くボスに肉薄したセラが、一撃で沈めている。あっという間の出来事だ。

 他にもヨシュアたちの仲間がオーク一体を倒す間に、二体、三体と倒している。

 ヒカリもルリカも、セラほどの速度ではないが素早く倒している。


「あれはミスリルの武器ですか?」

「ああ、ボスを倒した時の宝箱で運良く手に入れてな。二人分だが作ることが出来た」

「凄いです。レイラ様たちもミスリルの武器を扱ってましたが、その、武器に相応しい腕と言うか……。すいません、上手い言葉が見つかりません」


 ヨシュアは興奮して言ってくる。仲間の魔法使いも、その戦いぶりに驚いているようだ。

 思えばまともに戦う姿を見るのはこれが初めてだしな。二十一階からは基本魔法で戦うことが多かったし、アンデッドは動きが遅いため激しい討ち合いというのがなかったから。

 集落のオークを無事全滅させることが出来た。戦闘後の疲労度を確認したが、全員問題ないようだ。


「死体の回収だが、アイテム袋に回収してしまおう」


 後で分けるのも面倒だということで、ヨシュアには一つアイテム袋を貸してある。

 全部で二七体のオークがいたから、こちらが一四体、ヨシュアたちが一三体をそれぞれ回収した。

 死体を回収してもアンデッドは出るし、次も湧く。ダンジョンのメカニズムは不思議だな。一体誰がこんなものを作ったのか。


「それじゃ先に進もうか」


 再び隊列を組んで先に進む。

 気配察知で確認すると、進行方向には運が良いのかオークの反応はない。

 そのためかあれ以降罠もないが、そんなことを知らないため警戒しながら進む。

 またヨシュアたちは森の中を歩くのに慣れてないのか、オークがいるかもしれないという警戒心と相まって、徐々に疲労していっているような気がする。

 もちろん斥候の能力を持った者が話し掛けているが、やはり慣れない環境だからだろう、なかなか肩から力が抜けないようだ。

 ただこればかりは仕方ない。

 だからなのか、敵は魔物だけでなく、この森という環境も脅威となっている。

 ミアもそれほど経験があるわけではないが、魔導国家に入る前からそれを見越して歩いていたからか、まだまだ余裕はありそうだ。

 何度もダンジョンの五階を経験したのも少しは活きているのかな?


「大丈夫か?」

「はい、ここの森はまだ歩きやすい方だから」


 オークの巨体が通れるように設定されているのか、確かに木と木の間が結構開いたりしている。先頭の三人はそういうわけにはいかないが、後衛は比較的木から離れた場所を歩いたりもしている。


「どうする? 少し休憩するか?」


 オークの戦闘から一時間、森の中を歩き続けた。

 誰も弱音は吐かないが、確かに疲労は溜まっている。

 周囲に魔物の反応はないし、ここで一度休憩しておいた方が良いだろう。


「そうですね。まだ先は長いですし、一度休憩しましょう」


 ヨシュアの言葉に、何人かがホッとしていた。

 ここは湯を沸かし、簡単なスープを振る舞った方が良いかもしれない。

 既に調理済みのものをカップに注ぎ、一人ずつに渡す。その温かさに驚いていたが、美味しそうに飲んでリラックスしているようだから良いだろう。


「驚きました。まさか温かい飲み物がすぐに飲めるとは思いませんでした」

「これは特別製でね。保温効果のある入れ物になってるんだ。また料理する時にスープを作って入れておけば、休憩中に振る舞えるってわけだ」


 いわゆる魔法瓶の水筒を模して作ってある。


「便利ですねそれ。どこで売ってるんですか?」

「別の国で買った奴だからな。売ってた商人も流れの商人らしく、今は何処にいるやら」


 もちろん作ったのは俺だが、売ることが出来ない。

 材料が足りないんだよな。十五階に籠れば大量生産が可能になるかもだが、今はその暇がないんだよな。


「それは残念です」


 本当に残念そうに言うが、こればかりはな。材料が格安で市場に出回るようになったら、作るのを考えようかな。

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