第193話 マジョリカダンジョン 25F・1

 結論が出ないままこの日を迎えた。

 何度もクリスたちとは話し合ったが、やはりルフレ竜王国で確認をすることでだいたい話が固まってきている。

 不確かな情報ということもあるが、一度王国を探して見付からなかったというのも大きかったんだろう。

 王都が、王城が怪しいと思う気持ちはあったが、そこにいたと仮定した場合、手が出せないというのが本音だ。



「よろしくお願いします」


 今日から希望の灯と合同で二十五階の攻略にかかる。

 心なしか相手が緊張しているように見えるが気のせいだろうか?


「こちらこそよろしく。基本は昼に移動して、夜は休憩で行くってことで問題ないか?」

「ええ、まずはそれで行きましょう。あとは夜の動きで変更するか決められたらと思います」


 リーダーのヨシュアと最終確認をしてからパーティー登録を済ませ、移動を開始する。

 二十五階に入ると、まず目につくのは正面に広がる鬱蒼と茂った森。真っ直ぐ森を抜けていくと、やがて湖が見えてくるらしい。

 ここのフィールドは中央に湖があり、それを囲うように森が広がっている。

 森の中にはオークの集落があり、上位種であるジェネラルもいるらしい。

 湖は中央に行くほど深くなっているようで、ここにはフロッグマンという、カエルの魔物が生息している。

 夜になるとオークはオークゾンビへと姿を替え、フロッグマンは湖の中で眠りに付くようだが、もちろん騒がしければ起きて来る。

 攻略としては湖の近くを歩いて行くのが間違いないが、水場である湖の近くにもオークの集落があるため、下手をするとオークとフロッグマンを同時に相手取る状況に陥る危険もある。

 そう、オークは集落ごとに縄張り意識があるようなのだが、オークとフロッグマンの間にはそれがないようで、共闘することもあるというのだ。

 また厄介なのが昼間にオークを討伐すると、夜になって出現するオークゾンビの強さが上がることと、翌朝には倒された分のオークがリポップされる点。常に魔物の数が減らないことだろうか。


「まずは一度湖を目指してみるか?」


 次の階の階段は、ちょうど入って来たところの対角線上に存在する。この階だけは、階段の位置が固定で変わらないらしい。

 その為最短距離で次の階を目指すには真っ直ぐ進めば早い。

 昔、森の木を伐採して筏を組んで、夜のうちに湖を渡ろうとした者もいたようだが、さすがにそんなに甘くはなかったようで、その試みは失敗したと記録にあった。


「そうですね。下手に森に入って迷うと大変ですし、一度湖を目指しましょう」


 ヨシュアの言葉に皆が頷く。特に希望の灯の面々は森での探索経験が少ないから、見晴らしの良い湖の方が移動しやすいと考えているようだ。

 ルリカとセラ、それに希望の灯の斥候の一人が先頭に立って進む。

 ヨシュアと俺と魔法職が中央に集まり、最後列にヒカリと希望の灯の残りが続く。

 相変わらず俺の立位置は料理担当という認識のようだ。


「止まって、罠があるから解除するよ」


 ルリカの言葉に斥候の一人も確認している。

 これはダンジョンが作り出す罠ではなく、オークが仕掛けたもののようだ。


「これは侵入者を発見するようなものね。こういうものが多く仕掛けられているかもしれないから気を付けましょう」


 触れると音が鳴るようだ。

 これが果たして俺たちを見付けるために仕掛けられた罠なのか、単純に他のオークが縄張りに入ったのを知らせるために作られたものなのか。狙いは何であれ、効果は同じか。


「流石上層と違って、一筋縄では行きませんね」

「そうだな。森を焼くわけにもいかないしな」


 過去、森を焼き払って先に進もうとした冒険者もいたらしいが、結果、変遷が起こってリセットされるまで利用することが出来なくなったという記録が残っていた。何が起こったのか、それを引き起こした冒険者が多くを語らなかったため、詳しいことは分かっていない。

 その多くが命を失い。生き残ったのは数人だったらしいということしか記憶には残っていなかった。


「見張りを見付けたさ。それと奥に多くの気配がある。集落だと思うけどどうする?」


 セラの言葉は集落を潰すかどうかという確認。

 戦闘を避けて迂回するのも手だが、MAPを確認する限り、迂回しても別の集落が存在するから戦闘は避けられないかもしれない。運が良ければ、互いの縄張りが接近する空白地帯を素通り出来るかもしれないが。


「ヨシュアたちは森の戦闘経験が少ないんだよな?」

「ええ、オークとは別の階で何度か戦ったことがあるのですが……」

「なら一度ここで戦っておくか。それとも俺たちだけで戦って、戦い方の確認をするか?」

「……森だと少し戦い方が変わりますか?」

「場所によっては長物は扱い辛いよ。あとは木が密集してるところは気を付けた方がいいかも。特にオークの体が隠れるようなところね。逆にこちらなら木を利用して、奇襲をかけるとか出来るかな」


 ルリカがオークとの、というよりも、森の中での戦い方を説明する。


「それと魔法使いは開けた場所、集落とかになるまでは待機した方がいいかな」

「分かりました。……そうですね、最初は少し戦い方を見させてもらってもいいですか?」


 ヨシュアの言葉に、ルリカとセラの二人が気配を、足音を消して進んでいく。

 俺たちも少しばらけて、木を使って死角を作りながら付いて行く。主に二人の通ったあとをなぞるように。固まって動くと、目立つし、木の陰に隠れることが困難だからだ。

 進む先でセラが立ち止まっている。

 こちらに気付くとサインを送って来る。

 息を殺して待っていると、ヨシュアたちも合流する。

 やがて枝葉の擦れる音が前方から聞こえ、ルリカが走ってきた。

 セラのいる木を通り過ぎると、遅れてオークが一体その姿を現した。

 ヨシュアたちは手に持つ武器を握りしめたが、次の瞬間背後から近付いたセラが一撃でオークを始末した。


「森の中なら木を利用して倒す方が安全かな。出来れば二人一組で戦うと、今みたいに比較的簡単に倒せると思うよ」

「一人が誘い、もう一人が止めを刺す。あとは上手く地形を利用する感じですね」


 流石はこの階まで辿り着くだけある。すぐに状況をまとめ上げて、戦い方を学習していく。


「まだ少し見張りで単独で動いてるのがいたから練習してみる? 一応何かあった場合のバックアップはするよ」

「そうですね。感触を掴みたいのでお願いできますか」


 ヨシュアの言葉に希望の灯の面々が、交代でルリカに付き添われながらオークを釣って来る。コツは上手く音で注意を惹き付けて、不自然のないように誘導することらしいが、難しそうだ。

 正直俺は上手くやる自信がないな。あんな簡単な説明でこなす希望の灯は、もしかして思う以上に優秀なのかもしれない。

 違うな。この階まで来る腕があるんだ。経験だってしっかり積んでいるはずだし、これが普通なのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る