第192話 手紙
順番に手紙を読み、一回りして俺の元に戻ってきた。
困惑表情を浮かべるヒカリとミア、不安そうなセラとルリカ、そして顔面蒼白のクリスの顔がそこにある。
「何処まで本当か、それはドレット本人も分からないらしい。あくまで知り合いの奴隷商から聞いた話だってことだしな」
手紙の内容は、エルフに関しての噂話についてだった。
それはまだ戦争が始まって間もなくの頃、ボースハイル帝国で奴隷となったエルフが取引されたという噂が一時流れたとのことだった。
実際に目撃した人の確認は出来てないが、裏ルートで、エルフの取引が行われたという噂が囁かれたらしい。
それもエルフの数は複数人で、それを人間至上主義の国である王国の人間と思わしき者が、かなりの大金を支払って購入したというものだった。
記録もなく、王国の誰がというのも分かっていないのに、一時期その話が奴隷商の間で話に上がっていたらしい。
ただそれもいつの間にか風化し、ドレットが聞き込みをするまでその当人も忘れていた程だったとのことだ。
そのドレッドの知り合いは、そもそも本当にエルフがいたのかすら怪しいと、その話を思い出した時に首を傾げていたらしいが。本当にそれがエルフなら、もっと大きな話題になっていたはずだ、と。
「一応次に行くのはルフレ竜王国って話だったろ? 王国に戻った方が良いのかと思って」
「……クリスはどう思う?」
「……私は、竜王国でいいと思います。王国の奴隷商は回ったけどいませんでしたし。それにそのお話は何年も前の話なのですよね?」
「たぶん、そうだと思う」
「なら先に竜王国に行きたいです。あそこは少し特殊な国ですし……。それにソラは王国にあまり近寄りたくないでしょう?」
クリスの言葉に頷くしかない。
確かに気軽に寄るには、王国は危険かもしれない。
「それよりもソラはエリス姉さん探しに付き合ってくれるんだ」
「ああ、ここまで来たんだしな。それに竜王国に行くなら、どんな国か見てみたいし」
「そっか。けどそうすると、あの二人はどうするの?」
ルリカのいう二人とは、エルザとアルトのことか。タリヤに色々教わっているとはいえ、まだ幼い二人が独り立ちするのは無理だろう。
かと言って二人を旅に連れて行くのも無理だ。
「そこは最悪レイラに頼むかもだが……」
ダンジョンでの鉱石の発掘次第では、孤児院を増やしてくれるかもしれないから、それを頼りにウィルに頼むのも一つの手か?
「主様、けどなんで突然その話を?」
「手紙のこともあったけど、そろそろお金が貯まりそうなんだろう? ここに滞在して結構な日数が経ってるし、いい機会だと思って。このままだらだらとここに居続ける訳にもいかないだろうし」
経験を積んで強くなるのはいいとしても、何処かでゴールを決めないと、動きが取れなくなってしまう可能性もある。
「分かった。その事は改めて三人で話してみるよ。ただ、ソラが姉さんのことを気にかけてくれることは嬉しいけど、無理しなくてもいいよ。ヒカリやミアだっているんだから」
ルリカはそれだけ言うと、俺が答えるよりも先に二階に上がっていってしまった。
その姿にセラとクリスが困ったような表情を浮かべて、後について行った。
「ヒカリとミアはどう思う?」
「主に付いて行く」
「私も……エルザちゃんとアルト君のことは心配だけど、ソラが行くなら付いて行きたい」
付いて来るかどうかを聞いた訳じゃなかったんだけどな。
二十五階を突破しなくても、五階と十五階を何度か探索すれば十分お金が貯まるかもしれない。けどアンデッドの魔石は強さに反して結構品質がいいから、出来ればもう少し確保したい。何故か神聖魔法のレベルが上がっているのに、俺は攻撃系の魔法が使えないんだよな。理由は分からないけど。
そうなると必然的にミアに負担がかかるが、いっそのこと聖属性を付与した武器を作ってみるか? あの時は一回振ったら壊れたから、作るなら耐久力を改善しないと駄目だけど、果たしてそんな武器を使っているところを見せるのも……ただの水を聖水をかけたようにして騙せばいけるのだろうか?
あ~、それに三十階のボス部屋。そこは俺たち向けだからそこの魔石を……。
「主、一人で悩まない方がいい」
「そうですよ。とりあえず希望の灯の方が良いと言えば二十五階には行くことになるんですから、その後のことはそれが終わってから考えましょう」
二人の言う通りだ。まずは目先のことに集中するか。主に消耗品の用意をして、食糧の用意をして、万全な態勢でダンジョンに挑むようにしないと。
俺は礼を言って部屋に戻る。ポーションは……薬草関係の在庫が減ってきている。
ダンジョンで採取した薬草は、何故か品質の良いものが少ない。そのためそのまま使うと良質のポーションが出来ないため、ひと手間が必要になってくる。まずは薬草に魔力を流して変質させ、そこからさらに錬金術でポーションを作成しないといけない。しかも使う薬草の数も、一つのポーションを作るのに複数必要になってくるから効率が悪い。
けどないものは仕方がないので作る。
それが終わると休憩を挟んで聖水を作る。これは休憩中に作り方を調べておいた。
聖付与の武器を作るよりも、安上がりだと思う。
まずは水の中に魔石にを沈めてそこに神聖魔法を魔力を籠めながら付与する。
すると魔石が解けて聖水になる。何故と言われても説明のしようがない。これは錬金術ではなくて、創造の方に載っていた作り方だ。
もっと早く気付いていたらと思うが、湯水のように聖水を使うと自分たちのパーティーだけならいいけど、別パーティーがいると消耗品の代金を気にするかもしれないんだよな。
そうなるとやっぱミアに頑張って貰うか、アンデッドの魔石は諦めるか……何か良い問題解決がないか考える必要があるかもしれない。
そんなことを考えていたらドアをノックする音が、声を掛けるとクリスが中に入って来た。
「どうしたんだこんな時間に?」
結構長い間作業をしていたから、時間的に普段なら皆寝ている時間だ。
「少しきになって。ソラの様子が」
首を傾げていると少し困ったような表情を浮かべていた。
「あと、この子が……」
クリスが掌をかざす。そこには何も見えないけど、魔力の動きを視ることは出来た。精霊がいるようだ。
「エレージア王国にエルフが集められたって話をした時に、この子が少し動揺したような、違和感を感じて。何か気になることがあるのか、その、落ち着きがないっていうか……。ごめんなさい、上手く説明出来なくて」
確かに手紙のことを話すのに少し迷った。
次の目的地は元々竜王国でって話だったし、不確かな情報で不安にさせる必要はなかったかもしれない。
ただ、魔導学園で見たあの本のことが、手紙を読んで思い浮かんだ。セリスは気にする必要がないって話だったが。
俺はクリスにその時のことを話した。
クリスはその話を聞き、少し顔を青ざめさせている。
魔力の多いエルフ。召喚された異世界人。条件だけ見たら揃い過ぎている。
もちろんエルフが集められたのは、もう何年も前のことで、関係ないかもしれない。
そもそも本当にエルフが集められたかも分かっていない。
それに王国に戻っても、何処を探せば良いのか分からない。
もし異世界召喚が関係しているなら、王城にいることになるわけだが、あそこに忍び込むのは一筋縄ではいかないし、まず無理だろう。
「ソラ、どうしよう……」
不安そうに揺れる視線にさらされて、けど答える言葉がない。
元々クリスたちは精霊のお守りが教えてくれるという、曖昧な感覚で生存していることを信じていたが、実際にセラはそれを持っていなかったのに反応を示していた。
ただ持っていなくても、実際にセラは生きていたから効果はあるかもしれないが。
「なあ、その精霊のお守りは……エリスさんが生きていることを教えてくれるか?」
「……うん、それは間違いないと思う……けど」
なら今はそれを信じるしかないか?
うまい慰めの言葉も見付からず、俺は部屋を出て行くクリスの背中を、ただ見ていることしか出来なかった。
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