第191話 マジョリカ・21

「ソラたちが次にダンジョンに行くのはいつですの?」

「……ん? ああ、疲労具合を見てからだな。あとは、何処まで行くか相談してからかな」


 ウィルからの依頼でお金が大分貯まってきた。

 またセラの解放条件の金額分、三人の貯金を合わせたらもうすぐ支払えそうだとの報告も受けた。

 ひとまずそこで一区切りにするか悩んでいる。

 実際二十階でのボス戦は危なかった。三十階はまた条件が違うから、立ち回り次第では倒せるかもしれない。

 二十階は取り巻きが強力だったのが手こずった要因だけど、三十階は実は取り巻きがいない。

 かわりにボス級の魔物が二体同時に出る。

 もっともその前に二十五階を超えないといけないからな先は長い。

 二十五階は昼と夜で出てくる魔物が切り替わるという面倒な階層。特に厄介なのが、本当なら夜になると活動が鈍る魔物の活動時間がないという点だ。


「私としては二十五階も一緒したかったのですが、別の予定が入ってますの」


 十日後に、学園の中でも上位の実力者たちからなる複数のパーティーで二十七階以降に挑むということだ。


「今日の感じですと、希望の灯でしたら話したら一緒してくれるかもですわ」


 確かに知らない仲ではないし、メンバー的にもバランスが良かったし、変に突っかかってくる輩もいなかった。もっともレイラがいたからかもだけど。


「一度皆と話してみるよ。別にダンジョンの記録更新を目指してるわけじゃないしな」


 お金を稼ぐだけなら五階や十五階でも稼ぐことが出来る。ただ二十五階は二十五階で珍しい食材があるかもしれない。行ってみないと分からないけど。

 はっきり分からないのは、あまりダンジョン産の食材が魔物の肉以外だと納品されにくいからだ。特に下に行くほどその傾向が強い。現地で消費してしまうというのもあるかもしれない。

 食事の間は思い思いに皆話をしている。ダンジョンのことだったり、魔法関係のことだったり、食事のことだったりと多種多様だ。


「なあ、レイラ。レイラたちは冒険者とはいえ学生じゃないか、何で危険を冒してまで下の階層を目指してるんだ?」

「色々ですわ。それぞれのパーティーが目的を持って活動してますの。ただ多くは、まだ誰も成しえてない三十階の突破を目指してますわ。あ、あくまで学生の間で、という意味ですわ」

「在学中にそれを達成すると何かあるのか?」


 単純に腕試しとかなら、別にわざわざきついところに行く必要がないだろう。

 それなのに多くが下を目指すということは、それなりに理由がありそうだ。


「一つは報奨金ですわ。もう一つは学園を卒業後の進路になりますの」


 現在マギアス魔法学園の在学中に到達したマジョリカダンジョンの最高到達階は二十九階。なので二十九階まで到達出来たなら、それなりの栄誉を受け取ることが出来るそうだ。

 それを為した学園生の中には、首都の騎士団や魔法兵団に入隊した者もいる。もちろんそのまま冒険者になって大きなクランに入ったり、学園の臨時の教師になったりと、卒業後の選択肢の自由度が広がるみたいだ。

 なら到達した階層を更新出来たなら? はっきりしたことは分からないが、夢は広がるだろうとのこと。それこそ王宮勤めの可能性だって。


「そこまでの価値があるということか」

「ですわね。特に村とか、それで発展したという話もありますの。あとはフォルトゥナ魔法学院よりも優秀な子を出すという、大人の事情も少しはありますわ。もちろん、だからといって無理をさせるようなことはしませんの。下の階に挑戦するには、先生の出す試験に合格する必要がありますの」


 そこで無理をさせて命を落とされたら、それはそれで問題があるのだろう。


「それだと俺たちが希望の灯と組むのは無理じゃないのか?」


 希望の灯との交流があるが、学園の教師からしたら俺たちは得体の知れないパーティーだ。そんなのと組んで何かあったら責任問題に発展しないだろうか?


「その点は大丈夫ですわ。冒険者と一緒する場合だってあるのですから。それにソラたちのパーティーは一部の人たちの間では結構有名ですわよ?」


 悪名でないことを切に願おう。


「それじゃ話し合って、もし希望の灯と組むってなったら、どうすればいい?」

「……学園の受付に言付けをお願いしますわ。それともいっそここで聞いてみてはどうですの?」


 じっくり話し合った方が良い気がするけど、現時点の考えを聞くのもありか。

 そこで聞いたところ、特に反対意見もなく、先方が大丈夫なら一緒に行きたいという話になった。

 ルリカたちも昼と夜で切り替わる魔物の活動に、人数的に少し辛いかもと思っていたらしい。

 他に知り合いだとフレッドたちぐらいしか頭に浮かばず、あのパーティーは確か二十階のボスに向けて準備をしているという話だった。


「なら一応話をしてみますわ。日程は……六日後を予定って伝えていいの?」

「ああ、それで頼む」


 レイラたちが帰って、タリヤたちが部屋で休んでから一度客間に集まった。

 理由は話してない。実際に手紙を見てもらって意見を聞いた方が良いと思ったからだ。


「どうしたのソラ、また変な時間に皆を集めて」


 ルリカが代表して聞いてきたので、手紙を渡した。


「ドレット、知り合いの奴隷商からの手紙だ。どう思うか意見を聞きたい」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る