第187話 マジョリカ・19

「呼び出しに応じてくれてありがとう。正直応じてくれるとは思っていませんでしたが……」


 目の前にいるのはマジョリカの冒険者ギルドマスターであるレーゼ。昨夜借家の方にギルドの使いが来て、可能なら来て欲しいと伝言を受け取った。

 心証はあまり良くないけど、何か考えがあっての対応をしていたのかもしれないし、まだダンジョンは利用したいので素直に応じることにした。心配したヒカリとミアが両隣を挟むように座っているけど、とりあえず気にしないことにした。

 セラたちは二十一階に向けて、アイテムの準備をしているため別行動中だ。


「それで用件は?」

「ボス階での順番取りや、冒険者のランクアップについての指摘に関してお礼を言いたいと思いまして」


 苦笑しながらレーゼが内情を話した。


「一部は把握していたのですが、ギルドとしてはあまり強く言えなかったのが現状でして。冒険者の反感をかえば素材を商業ギルドなどに流されてしまいますし、最悪プレケスに流れてしまう場合もありましたので」


 確かに冒険者は自由だけど、それだけでホームから移動するのだろうか?


「特にダンジョンと一括りに表現されていますが、こちらと向こうとでは難易度が違いますから。フィールド型の階層を多く利用する方たちは違いますが」

「確かにフレッドもあまり得意ではないって言ってたな」

「はい。それに今回は守護の剣の、ジェイク君の耳に入ったので、率先して他のクランと話し合って改善してくれているようですから。正直助かりました。揉めて移籍した先で命を落とすなんて話を聞いたら、流石に夢見も悪いですし」


 心底ホッとした表情を浮かべている。それだけ真剣に冒険者のことを心配していたのだろうか?


「ただランク付けに関しましては既に制度が確立してしまっているので、変更をするのは難しいです。なので相談所を作ったりと、サポート方面を充実しようと今準備しているところです。定期的な講習会? みたいな感じで初歩的なことから教えていけたらと思っています」


 先輩冒険者からのアドバイスで知識を得ることがあるけど、教える方が間違っていたらどうしようもないし。もちろん自己責任なのは言うまでもないけど、被害を減らせる可能性があるなら試すのはいいことだろう。

 その点はもしかしたら魔法学園の生徒の方が危機管理が出来ているのかもしれない。


「けどわざわざ俺を呼び出してまで言うことじゃないと思うんだが?」

「いえ、貴方のことは色々と噂を耳にしたので。こちらには敵意がないことをはっきりさせておきたいと思ったんですよ」


 確かに揉め事も多い、気がする。あとはレイラ経由で領主に伝手が出来たことも含まれているのだろうか?

 考え事をしていたら、ジッとレーゼがこちらを見ていることに気付いた。

 真剣な表情は大人びているけど、最初のイメージがあるからどうにも頼りない感じを受ける。

 仮面越しなのに俺の視線に気付いたのか、右に左へと視線を逸らし、わざとらしくコホンと咳をして話題を変えてきた。


「それでソラ君たちパーティーの今後の予定はどうなっているのでしょうか?」

「特に決まってないが、三十階を目指す感じかな?」

「実力的にはもっと先を目指せそうですのに?」

「今の人数と実力だと難しい気がするからな」


 相性もあるけど、やはり防御面に不安が残る。クリスに防御系の魔法があるか聞いたことがあるけど、そこまで強力なものはないって話だったし。


「いっそメンバーを募集してみたらどうでしょう。メンバー次第なら未到達階へ行けるかもしれません。それは凄く名誉なことなんですよ」

「そういうのはあまり興味がないかな。命あってのことだし。実力以上のことやろうとして、仲間を危険にさらす訳にはいかないか」

「……そうですか。いえ、その通りですね。冒険者にとってそれは、大切なことです。どうか努々忘れないようにしてください」


 かなり親身になってくれているのだろうか?

 最後の言葉は、特に心に刺さった。

 ただ次の階からは、人数が増えるんだけどな。わざわざそれを言う必要がないから黙っているけど。


「何か困ったことがあったら、受付に連絡をお願いします。すぐには無理ですが、可能な限り対応させて貰いますので」


 礼を言って部屋を退出した。

 部屋を出た瞬間、何か解放されたような、不思議な感覚を覚えた。


「前会った時と違って、優しい感じでしたね」


 ミアの言葉には同意だ。


「ヒカリどうした? 難しい顔をして」

「分からない。けど変な感じがした」


 何に引っかかったんだろう。考えてみたが分からない。

 鑑定した限り、ステータスは普通だったと思う。レベルは最前線で戦えるほどではなかったけど、平均よりは上だった。元冒険者とあったし、それなりに経験も積んでいるんだろう。


「それじゃ話し合いは無事済んだし、資料室で少し復習して帰るとするか」


 せっかく冒険者ギルドまで来たんだ。明日から行く二十一階以降の階層について、もう一度チェックしておくか。

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