第186話 マジョリカダンジョン 調査隊・4
十一階からはさらに同行者が増えた。
騎士団の一部が一緒に十五階を目指すことになった。
今までは罠があるため、十階より先に進むことがなかったけど、今回の鉱山調査の結果次第では、騎士団も護衛として任務にあたるかもしれないということで、領主より命令が下ったようだ。
一応手先の器用な者が数人、進みながら罠のレクチャーを受けているけど、果たして何処までものになるのか。
幸い十五階は罠がないから、他の階に移動しなければ大丈夫だと思う。
今回は試験的に一〇人が同行することになった。
長期的に採掘をするようになった場合、冒険者を護衛に雇うとそれなりの資金が必要になってくるから、騎士団を連れて行くことになったのかもしれない。一応弓を扱える者もいるようだし。
そして一番騎士団一行が活躍したのは、スライムが徘徊する十二階。盾で完封し、被害を一切出さなかったその雄姿に、何人かが拍手を送っていた。過去に被害を受けた苦い経験があったからなのだろうか? フレッドが羨望の眼差しでその姿を見ていたのが印象的だった。
その後も順調に進み、十五階に危なげなく到着することが出来た。
個人的には十六階まで一緒にいって、コボルトシーフに関する意見を聞いてみたいと思った。思わず呟いたその言葉に反応したフレッドは、確かにな、としみじみと頷いていた。
フレッドたちは新しくパーティーを組んで、十二階までしか到達していなかったらしい。サイフォンたちがシーフの洗礼を受けるのは、これから先か。
「なるほど。十五階はこうなっているのですか……」
目の前に広がる岩山を前にして、ムロクが唸る。
遠くでこちらの様子を伺うロックバードの姿が、不気味に見えたのかもしれない。
「どうする? ここで戻るか、それとも少し調査するか? そっちで決めてくれ」
「そうですね。少し調査をしたいのですが、構いませんか?」
「ああ。気を付けることだが……」
何故そこで俺を見る。別にいいけど。
「ロックバードは隙を見せると急降下して襲って来る場合がある。近付いてきたら特に注意してくれ」
俺は騎士団に向けて言う。料理人に任せて良いのかと思うけど、一応俺がこの階の経験者だということは知っているようで、盾の具合を確かめて鉱夫たちを囲むように配置に付いた。
「それじゃ先頭は引き続き頼む」
一番近くにある大きな岩山に向けて歩き出す。
冒険者たちは騎士団のさらに外側に回る。
先頭をヒカリ、セラ、ルリカの三人。
右側をフレッドたち五人。
左側はサイフォンたちお馴染みのパーティー五人。
最後尾を残りの俺たち三人が歩く。
ロックバードは旋回しながら時々接近しようかという動きを見せたけど、その都度魔法を撃って追い払った。
引き際はあっさりしているけど、すぐに戻ってくるから質が悪い。
鉱夫たちも心配そうに眺めているけど、こればかりはどうしようもない。今後ここで生活すれば、このような嫌がらせは日常茶飯事になるから諦めて貰う。
「ではこの辺りで一度調査をしましょう。騎士の方、冒険者の皆さん、護衛の方よろしくお願いします」
一際大きな岩山の元に到着すると、休憩もしないでハンマー片手に岩山を叩いていく。
調査方法はシンプルで、採掘して実際に鉱石が採れるかを試すという方法。
俺のように鑑定がない以上、表面にあれば別だが、岩山に埋まっているなら掘らないと分からないのが現状だ。
「主様、あの辺りにあるのかい?」
小声でセラが話しかけてきたから、頷いておいた。
少し深い位置になるけど、魔鉱石がある。問題はそこまで頑張れるかどうかだ。
「ソラ君。君が発見したとウィル様からは聞いています。どうやって見付けたのですか?」
気を使ってか、ムロクが小声で話しかけてきた。
「俺も地道にハンマーで叩いて、だよ。結構深いところから採れたから、少し我慢して掘った方がいいと思う」
「分かりました。皆にはそう伝えます」
それから岩を砕く音だけが流れる。
音に呼ばれてロックバードの数が増えてきたけど、防衛線は厚く敷かれている。
むしろ身軽な何人かの冒険者が、気配を消して近付いて行っている。もちろんそこにヒカリとルリカの姿もある。
やがて歓声が上がった。二カ所から。
一つは岩山を掘っていた鉱夫の間から。掲げられた手の中にあるのは魔鉱石。興奮している。そこそこレアな鉱石だって話だしな。
もう一つはロックバードに忍び寄っていった冒険者の間から。無事討伐出来たようで、何人かで抱えて持ってきている。
ロックバードの肉は美味しいと冒険者の間では有名らしく、ムロクと何事か話していたと思ったら血抜きを始め出した。血の匂いに惹き付けられてロックバードが集まりそうなのにお構いなしだ。まあ、もう既に集まっているから関係ないとも言うのかもしれないけど。
鉱夫たちは範囲を広げて岩山をさらに掘り始める。試しに少し調査すると言ってなかったか?
「どうもあれを食いたいらしく、料理が出来るまで頑張るらしいぞ」
フレッドよ。それは料理をしろということか?
そんな期待された目で見られても困るのだが。
「主、美味しい料理を希望する」
ヒカリに援護を頼むとは卑怯だ。
断ることも出来ずに、肉の下処理は任せてスープ作りを始める。
鉱夫の皆さん、鉱石の発見の時よりもスープを食べた時の方が感動が大きいのはどうかと思うが?
最終的に少量のミスリルの塊も発見出来たようで、ムロクは満足そうにしていた。
こうして調査隊はその使命を終えて、俺たちの依頼も無事終了することとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます