第185話 マジョリカダンジョン 調査隊・3

「……突然無理を言って申し訳ありませんでした。彼らのやる気に繋がるということで、私も断り辛くて。申し訳ありません」

「気にしないでくれ。指定された方が作る物を迷わなくて済むしな。ただ何点か手に入らなかった材料があるから、全ての希望を叶えることはできないけどな」

「いえ、それだけでも十分です。彼らにはそう伝えておきます」


 ムロクに代わって、次はフレッドがやってきた。


「何の話をしてたんだ?」

「あ~、食事に関して。鉱夫たちから懇願されたって、借家まで伝えに来たんだよ」

「なるほどな。それだったら俺も希望を伝えておけば良かったな」

「何故フレッドの意見を聞かないといけない」

「え、だって指定された方が作るの楽って言ってたじゃねえか」


 聞こえていたのか。

 ただ一緒に護衛の依頼を受けた冒険者と、依頼者からの意向を受けた鉱夫とじゃ立ち位置が違うと思うんだがな。


「……材料費さえ支払ってくれれば、まぁ……」

「よし、準備は出来てるな。それじゃ今日は六階から十階を目指す。基本的な隊列は前回と同じだ。ただ一度に襲って来る魔物の数が多くなる。驚かずに俺たちの指示に従ってくれ」


 高い材料の料理でも考えていたのか、あからさまに話題を変えたな。いいけど。

 ダンジョン入口から六階へと飛ぶと、隊列を組んで歩きだす。

 鉱夫にとっては二度目のダンジョンになるわけだけど、思いのほか落ち着いている。

 ただそれも八階に足を踏み入れるまでだった。

 ここからは魔物の数が跳ね上がる。特に十字路で四方から襲われた時は、流石に鉱夫たちも恐怖に顔を引きらせていた。

 一応防具を身に付けているとはいえ、普段から魔物と対峙している冒険者と同じようにはいかない。特に今までと違って忙しなく魔物を狩っている姿を見たからか、ボソボソと小声で話していた声も聞こえなくなった。


「少し早いが休憩するか。嬢ちゃん、良さそうな場所があったらそこで一度休みたい」

「分かった。……こっち?」


 自信なげに進んだ先は袋小路。そこで今日は一晩過ごすことになった。


「大丈夫ですか? ここだと逃げ道がありませんが……」


 ムロクが行き止まりを見ながら尋ねてきた。


「ああ、ここでなら警戒を一方に集中出来るからな」

「ですがその、魔物が突然近くに現れるとかないんですか?」


 確かに魔物が足元に突然湧いたとかいう話は聞いたことがないな。資料にもそんな注意事項が載っていた記憶がない。

 もっとも寝ていて真横に魔物が湧いて、殺されたなんてことがあれば報告のしようがないと言えばそれまでなんだけど。


「それは大丈夫だ、と思う。そのような話は聞いたことがないし、体験したこともない。ただそうだな、一応その点も含めて警戒はするよ。それにこれ以上歩くのは、今日は辛いだろ?」


 ムロクもその事が分かっているからか、それ以上は何も言ってこなかった。


「やっぱ八階と九階は素人には辛いのかもな。俺だって慣れるまでは辛かったし、二度と来ない奴だっている」


 フレッドが見張りながら語りかけてくる。

 愚痴なら聞かないよ?


「そう嫌そうな顔するなよ。前はな、騎士団が対人戦の練習だと言って九階を潜っているのを聞いて狂気の沙汰だと思ってた。今だったら必要なことだってのが身に染みて分かっているからな」


 フレッドは静かに盾を構えるガイツを見てしみじみと言った。


「正直サイフォンたちはここの階にきてビビると思ってた。だがそんなことなく、そつなく襲い掛かってくるウルフを処理していた。そこで聞いたんだよ、何でそんな風に戦えるかってな。なんて答えたと思う?」


 首を傾げていたら、答えが返ってきた。


「狩場じゃ良くあることだってよ。ああ、心構えが全然違うと思わされた。ソラが言っていた、甘いって意味がちょっと分かった気がした。だから俺はサイフォンにダンジョンのことを教えてる。逆に俺、俺たちはダンジョン以外のことを色々と教わっている」

「ダンジョンを飛び出て別のところに行くのか?」

「どうだろうな。いつかはそんな日が来るかもしれねえな」


 フレッドは恥ずかしいのか顔を背けた。


「けどよ、ソラはどうなんだ? 近頃荷物運びというか、料理だけで全然戦ってねえじゃねえか。たまには魔物を狩りたいとか思わないのか?」


 別に俺は戦闘狂じゃないんだが。


「俺はいいよ。それに俺に万が一何かあったら、道具が困るだろう?」


 最低限ダンジョン内で生活出来る道具は分散してあるけど、俺がいなくなると快適なダンジョン生活を送れなくなることは間違いないだろう。


「確かにそうだけどよ。俺は心配だよ。あの鉱夫たちが十五階で仕事をする時になって、今のダンジョン内での生活との格差を思い知ったらよ」

「なら今度料理の出来る冒険者を募集するように、ムロクさんに言えばいいじゃないか」

「そうだな。それがいいかもな」


 結局十階に到着したのはそれから二日後だった。

 予想以上に早く到着出来たのは、ウィルが俺たちが九階に到着するタイミングで、騎士団の例の練習を実施してくれたからだった。

 詳しく聞くと、二日前から入口で野営をしていたとのことだ。

 正確にいつ到着するかなんて分からないしな。

 ちなみにフレッドのメンバーの女性二人が、騎士団の戦いぶりを見て黄色い声援を送っていたからなのか、かなりやる気に満ちていた。

 人の使い方を分かっている。末恐ろしい二人だ。

 ちなみにサイフォンは目の敵にされていたが、当人は分かっていなかったな。

 そしてヒカリは大人気だった。料理の時間になると必ず誰かに話し掛けられていた……人気?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る