第184話 マジョリカダンジョン 調査隊・2
大の大人が人目を
ただそこの木に生っていた実をそのままカットしただけなんだけど……。
そんなにうまいか? と思うけど、一人だけでなく何人もそんな状態の者がいる。
って、サイフォンあんたもか。ユーノさんもなんか余韻に浸っている。
まぁ、見た目がかなりアレだから、最初食べるのを
ヒカリのあの満面の笑顔がなければ、きっと食べなかっただろうな。
「これは……確かにギルドの方で採取して下さいと言われるはずです」
ムロクも噛みしめて食べている。
「なあ、そんなに美味しいか?」
「美味しいと思いますよ。私たちは少し慣れたというか、他にも美味しいものを食べているから、今はそこまで感動しないけど」
クリスが教えてくれた。
ヒカリに聞いたら、ケーキの方が美味しいという答えが返ってきた。
「冒険者ギルドでも依頼を出せばいいのにな」
「けどよ。ここを利用する奴はそんなにいないんだろ?」
フレッドとサイフォンが何事か話しているな。君たちには依頼の話をしたよね?
ジッと見ていると、視線を逸らされた。
確かに面倒なフィールドだとは思うけど。複数の魔物が出るし、階段が見付からなければ最低でも三日はここで過ごさないといけないわけだし。特に開けた場所で野営をするというのが、ダンジョンに慣れたこの国の冒険者には辛いのかもしれない。
ダンジョンというか、森の探索が続き数日が経つと、鉱夫たちの様子が日に日におかしくなっていった。
他にも気付いた者がいて、鉱夫の一人に尋ねたら意外な言葉が返ってきた。
「ここって開けた場所だろ? 鉱山生活が長いと閉鎖された場所の方が落ち着くと言うか、こういう場所はちょっと苦手なんだよ」
そういうことは先に言おうよな。
ただ一部の冒険者も同意するように頷いている。
駄目だ。あいつらも毒されている。
もしかして五の倍数の階層が不人気な理由って……。十五階も結構開けた場所だけど大丈夫なのか? レイラにもこのことは伝えた方が良いのだろうか?
食事が終われば交代で見張りだ。人数は多いけど鉱夫の人に見張りをして貰うわけにはいかないため、結構余裕がなかったりする。
特に三百六十度警戒が必要になる五階だと負担が大きくなる。
三交代制のため五人か六人一組で組んでいるけど、十六人いる冒険者の中、女性が八人もいるから結構組み合わせを揉めたりもした。
フレッドたち側にユーノさんを含めて三人。知らない二人はどちらも新しく入ったメンバーらしく、別のパーティーに所属していたけど抜けてきたと言う。
野営地が広いといつものように座って警戒というよりも、歩哨のように周囲を動き回る感じで警戒する。冒険者だけだったらここまで警戒する必要がないのかもだけど、鉱夫を守りながらだとこの形が良いだろうということで今回はこの形になった。
座って一人でいると眠くなるから、確かにこの方が眠気に襲われにくいような気がする。本当に疲れていたら立ってても眠くなるかもだけど、そこまで過酷な移動はしていないはずだ。
ちなみに俺が入っているのは六人組のところ。鉱夫たちの前では一度も戦っていないから、数の少ない方に入れると不安がられる可能性があるかららしい。フレッドが大丈夫だと説得していたようだけど、反対されていた。
完全に立ち位置が料理人だ。
一定時間が経った頃、フレッドがこちらにやってきた。
来たのを確認して今度は俺が別の位置に移動する。こうやって眠った者がいないかを確認しながら見張りをこなす。眠気は確かに防げるけど、こんなに移動すると逆に大変なような気がするけどこれでいいらしい。
一回の見張り時間はだいたい三時間ほど、終わったら交代。MAPで見ている限り、魔物も寝ているのか動きはなかった。縄張りに入れば別だけど、外れているとわざわざ魔物も遠出してまで襲ってくることはないようだ。
朝は早めに起きて朝食を作り、出発する。誰か別の人が作ってくれてもいいと思う。もちろん補助に入って手伝いをしてくれる人もいるけど、何故か味付けは全て任せられている。初日は色々と口を出してきたのに。
結局五階の探索は六日で終了した。
六階の階段を見付けた時は、鉱夫たちが嬉しそうに歓声を上げた。
この階に到着するまでが順調すぎて、一つのフロアにこんなに日数がかかるとは思っていなかったようだ。
フレッドはそれを見て、ムロクにこれから先のことを鉱夫たちにしっかり説明しておくように頼んでいた。
ここまで時間がかかることはないけど、下に行くほど難易度が上がることは良く理解して貰わないと危険だ。まだ早いけど、十一階からは罠もあることだし。
「それじゃお疲れ。出発は三日後で大丈夫なのか?」
フレッドが念を押して確認している。
「ええ、こちらも一応急かされてるので。それに体力自慢の者たちばかりです、宿でしっかり休めば回復するので問題ないと思います」
ムロクの傍らでは、酒だ酒だと元気に叫ぶ鉱夫たちの姿がある。
「こんなに元気なら十階まで行っても良かったかもですね」
というムロクの言葉に、ビクリと肩を震わせていたけど。
「ソラたちはこれからどうする? あっちとは別に軽く打ち上げをするけど、来るか?」
悩んでいたところに、美味しい料理を出すところという一言で、ヒカリが行ってみたいと言ってきたので参加することになった。甘いかもだけど仕方ない。
打ち上げといってもどんちゃん騒ぎをするわけでもなく、今回の護衛に関する反省を話してから食事を楽しむような感じだ。
特にこの世界では何歳以上にならないとお酒を飲めないなんて決まりはないようだけど、うちのパーティーで飲む者は誰もいない。フレッドたちの方も女性陣は最初の一杯は付き合いで飲んだようだけど、二杯目からは果実水を注文していた。
料理の方は冒険者の好きそうな濃いめの料理以外もテーブルに並び、確かに美味しかった。ロックバードの肉を使った蒸し料理が、個人的には一番好みの味だった。
「しかしソラは料理が上手いんだな。しかも収納魔法が使えるとか、是非、パーティーに欲しい逸材だ」
「……フレッドの話だと魔法を使えると聞く。冒険者としてもやっていけそうだ」
「だよな。身のこなしもしっかりしてるし、接近戦とかも出来そ……うだよな」
サイフォンとガイツの二人に捕まって会話を交わしていたら、赤ら顔をしたサイフォンが突然言葉を止めて、
「なんというか、ソラって名前だからかな。知り合いに同じ名前の奴がいたから、つい遠慮なく話ちまう。悪いな。こいつも同じなのか、珍しく良くしゃべるしよ」
と、言ってきた。
ルリカとクリスが心配そうに、そして興味深そうにこちらの会話に耳を傾きかけている。
ここでどんな奴なんだ? とか聞いたら、変な話が始まりそうだから言いはしない。地雷は踏むまい。
打ち上げはサイフォンが珍しく早々に酔い潰れたためそこで終わった。ユーノさん辺りが怒るかと思ったけど、今日は優し気に見守るだけで注意しなかったな。
「それじゃソラ、三日後またギルドでな」
ほろ酔い加減のフレッドの言葉で打ち上げは終了した。
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