第183話 マジョリカダンジョン 調査隊・1

 学園にはあれから二日通い、ヒカリたちはそれなりに基礎を学んできたようだ。

 ただヒカリ曰く、ヨルの方が分かりやすかったとのことだった。今度ヨルに時間をとって貰って教えを請うた方が良いのだろうか?

 俺はのんびりと本を読んでいたけど、暇なのか、色々話を聞いてくるセリスさんによってあまり読むことが出来なかった。

 初日は静かだったのに、翌日からは結構質問してきたな。本人曰く、この町からこの数年出たことがないから、外の世界に興味があると言っていた。


「ソラもこの依頼を受けるのか?」


 冒険者ギルドに行ったら、フレッドに声をかけられた。

 と、言ってくるということは、一緒に行くという冒険者たちはフレッドたちか。突然の依頼だったから誰かまでは分からなかったけど、知り合いの少ない俺たちに気を使ってくれたのかもしれない。

 メンバーは俺たち六人に、フレッドたち一〇人に、鉱夫が一〇人の計二六人で行くことになった。

 俺たちのパーティーに白羽の矢がたったのは、レイラ経由でアイテム袋を持っていることが伝わったのと、何故か料理が上手いという話が伝わったかららしい。

 料理の材料は丸投げされたから、昨日ヒカリと一緒に買い出しに行ってきた。


「急な依頼なのに良く受けたな?」

「それはフレッドも同じだろ? 依頼者が依頼者だから断り辛かったのもあるけど」

「そういうの気にするようには見えないんだけどな」


 否定は出来ないけど、恩を売っておくのもいいかと思ったからな。あとはレイラの親からというのもあったのだが。


「そちらが残りのパーティーの方ですか? 私は今回の調査団のリーダーを務めさせて貰うムロクです。といっても、ダンジョンのことは分からないので、道中はそちらの指示に従いますので宜しくお願いします」


 鉱夫というと荒っぽいイメージがあるけど、物腰の柔らかそうな人だ。他のメンバーと比べても、筋骨隆々というよりも、その辺の一般の人とパッと見違わないように見える。ただ良く観察すると無駄な肉をそぎ落とした、引き締まった体付きなのが分かる。たぶんだけど。


「とりあえず五階まで行くか。そこから先は疲労具合を見て、行けるならそのまま挑むといった感じにしよう。って、荷物は大丈夫だよな?」


 フレッドが冒険者側のリーダーとして引っ張ってくれるらしい。

 とはいえ、斥候の出来る者が先頭に立ち、サイフォンなど護衛に適している者たちが調査隊の近くを歩き、最後列にヒカリとルリカを除く俺たち四人が歩くことになった。

 浅い階層は通路の幅が狭いため、どうしても大人数だと縦に長くなってしまう。

 なんか小学生の頃に並んで通学したことを思い出すような光景だ。

 サイフォンたちも何度かダンジョンに来ていたようで、調査隊の質問に答えている。サイフォンの受け答えだけは少し怪しいようだけど。

 四階に到達したのは、ダンジョンに入ってから二日後。調査隊員が鉱夫として活動しているから体力があったというのもあるけど、階段が運良く見付かったというのも大きい。うん、本当に運が良かった。


「次の階に出るのはウルフだ。数が多くなるが、驚かずに付いてきてくれ。挟撃があるかもだから、ソラ、後ろは頼んだぞ」


 一応声をかけてきたけど、心配はしてないようだ。セラもいるしな。

 ただダンジョンに入ってから一度も戦っていないから、鉱夫たちは不安そうにしていた。

 それもセラの戦いを一度見たらなくなっていた。ウルフ五匹を軽く一人で倒している姿を見れば当然か。最初の一回目以降は適度にクリスとミアにも出番を作っていた。

 俺は何もしていないから、鉱夫たちの間では運び屋兼料理人という立位置になっている。料理は物珍しさもあってか鉱夫の間では好評だけど、冒険者の間ではこれに慣れたら今後のダンジョン生活が辛くなると素直に喜んでいなかった。

 フレッドなんてムロクにあれがダンジョン内での食生活だと思わないでくれと、何度も説明していた。

 なので特にトラブルもなく、五階まで到着した。

 協議の結果。そのまま五階を攻略することになった。

 フレッドあたりは慣れない環境で見えない疲労が溜まっていないか心配していたけど、豪快に大丈夫だと笑う鉱夫たちの態度を前に諦めていた。

 確かに五階は今までと違い、環境がガラリと変わるからな。

 それは鉱夫たちも聞いていたようだけど、実際に目の当たりにして、口を大きく開けて呆然としていた。

 フレッドが再度尋ねたら、恥じらいながら大丈夫だと半ばやけになりながら答えていた。

 六階側から誰かが回った方が効率が良くないか尋ねたら、ダンジョンの環境に慣れるための練習だから構わないとムロクが言っていた。あとは、余裕があったらこの階層で採れる食材を確保したいとも言われた。

 なんでも商業ギルドから、機会があれば採って来て欲しいと遠回しに頼まれたそうだ。

 十五階で鉱石が採れるかもしれないというのは、まだ一部の者しか知らないはずなのに、情報統制は大丈夫かと心配になるな。

 ムロクにそんなことを言ったら、かなり上の知り合いから頼まれただけだからと、話をはぐらかされた。

 まぁ、色々としがらみがあるのだろう。深く聞くのはやめておこう。

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